第6話『世界情勢 12月~1月』



 十二月二日 日本跡地


『三ヶ国紛争が過熱


 ネット界隈では暗黒紛争と言われている紛争が過熱の一途を辿り、米中ロの軍は逐次戦力の投入を繰り返している。


 現場はさながら七十年前の第二次世界大戦レベルで、兵士同士の地上戦が相次ぎ多くの戦死者を出している。


 元々調査目的だった上陸のためドローンなど高性能兵器はなく、突発的な衝突もあって現代戦とは程遠い紛争となってしまった。


 民間人である科学者は全員死傷者なく避難し、現在は海上沖の軍艦同士の攻防と、地上の実効支配のため兵の派遣しての衝突が続いている。


 ただ、三ヶ国すべての軍艦が巨大津波の被害を受け、稼働する軍艦は平時の五分の一程度だ。兵士の数も国内の活動にも必要とされるため、どこかで打ち止めが来るだろう』



 十二月四日 アメリカ


『アメリカ大統領襲撃


 虐殺、隠蔽、紛争、国家危機と過去に例を見ない国難に直撃しているアメリカ合衆国大統領に、過激派が銃火器を持って被災地視察を行っていた大統領を襲撃した。


 人材不足と、支持率アップを狙っての警備が不十分の瞬間を狙われたのだ。


 幸いシークレットサービスと警察によって過激派は全員射殺されたが、政府側も十名が死亡。十四人が重軽傷を負い、大統領は避難中に転倒して軽傷を負った。


 襲撃犯は実行直前にSNSに文章を投稿しており、史上最悪の男に鉄槌をと記していると言う。


 ネットではこの襲撃犯を英雄視する動きがある。


 大統領の支持率は十八パーセントとアメリカ史上最低の記録を出している』



 十二月八日 中国


『謎の肺炎が発症。新型ウイルスか?


 中国湖北省武漢市にて、原因不明の肺炎を発症した患者が現れた。


 どのウイルス検査にも反応を示さないため、従来とは異なる新型ウイルスである可能性が挙げられる。


 武漢市は保健機関に報告した』




 十二月十日 邦人団体ジパング


『存命邦人移動開始


 邦人団体ジパングは、帰国希望者の一斉帰国計画に則り移動開始したことを発表した。


 ボランティア王の莫大なポケットマネーを資金源にして環太平洋の六ヶ所に集め、二ヶ月後の二月にチャーターした航行可能の大型船に乗船。ピストン航行で帰国希望者百万人を沖縄県に移住させる。並行して居住資材を積んだ船が運行を始め、二月までに百万人が住める仮設住宅の設置を計画。


 尚、これによりボランティア王のポケットマネーは九割ほどなくなると言う』



 十二月十一日 国連


『三ヶ国が拒否権を発動


 イギリスとフランスが連名で開催した国連安保理で、米中ロに対して対話による事態の解決を図るため一時的に日本跡地から人員の撤退を要請したが、三ヶ国が揃って拒否権を発動。


 これにより安保理は暗礁に乗り上げ、事の解決は対話ではなく武力であることが確定してしまった。


 世界の最高安全保障機関が安全を否定しているため、それを止める手立てはない。


 拒否を拒否することが出来ない以上、世界はこの泥沼の争いを傍観するしかない。


 せめて日本跡地を戦場とした第三次世界大戦が始まらないよう願い、根気良く説得し続けるしかない』



 十二月十三日 国際気象機関


『平均気温低下が深刻


 北半球に本格的な冬が来た。常に日光を遮るほど空が暗い雲で覆われることで既存の気象学が通用せず、今後どうなるのか気象学者も予測を立てるのが難しいとされる。


 台風はハリケーンも気温や海水温が低いことで今年は一度も発生せず、サイクロンもまた発生した記録はない。


 粉塵が邪魔をして気象衛星とアクセスできない事もあり、気象観測は七十年以上後戻りをしてしまった。


 気温低下は例年の十℃から十五℃マイナスで安定したが、北半球は軒並み氷点下を記録している。赤道で十℃前後、時折雪が降る。


 よって北半球の、それも極寒地域での平均温度の低下は多くの凍死者を生んだ。


 元々極寒地域では寒冷対策は十分にされているとはいえ、それは平均気温に対してのものだ。それよりもさらに十℃から十五℃と低いと、例年の対策が不十分で凍死者が増加し続けている。


 国家別の現時点での統計は例年の倍はいるとされ、最悪三倍強の死者が出る国もあるという。


 食料不足に加え氷河期レベルの越冬は世界規模で苦慮が予想される。


 家庭経済の不安定から略奪や犯罪をするケースも増え続けており、春までにどれだけの死者が出るのか分からない。


 哲学で食べ物は奪い合えばなくなり、分け与えれば余るがある。


 是非とも奪い合うことから分け与える考えに、人類は切り替えてもらいたい』



 十二月十五日 食糧農業機関


『世界の食料生産率、消費率を下回る


 世界規模の氷河期により、寒冷対策していない食用植物の枯れと豚、牛クラスの家畜の大量死が続いている。


 これにより、懸念されていた世界の食糧生産率が消費率を下回った。


 カロリーベースで世界人口を維持することが出来なくなり、必然的に栄養不足による餓死者が出ることが決定してしまった。


 死者が増えると需要と供給は一時拮抗するが、場合によっては供給も生産者不足で減ってしまう。直ちに世界規模で食糧生産対策を取らなければ、多くの人命が失っていくだろう。


 だが、世界は限られた食料を金や暴力で奪い合いが横行している。


 意識改革をしなければ、人類は遠からず激減してしまうだろう。


 少数が改革しても多数の略奪者に奪われてしまう。全員の意識改革が必須だ』



 十二月十七日 ネットコラム


『世界は人類の指導者を求めている


 レヴィアンが落下し、その余波で世界は暗黒に包まれている。


 各国の指導者は自国の利益のみを見て、かつての協調性など忘れてしまったかのようなふるまいを続けている。


 世界をまとめ上げる国連も、所詮は各国の寄せ集めで構成されている。どれだけ前向きな発言をしようと、自己の利益を求めた発言ばかりが目立つ。


 真に世界のみ、人類と言う唯一の共通点に立った意見を言う人は、世界に一人もいない。


 どの国の国家元首が発言しようと人類は耳を貸さない。


 人類の長の言葉こそ人類は耳を数だろう。


 しかし、人類の長などこの世に存在しない。


 権威で言えばローマ教皇と日本の天皇が最高位に位置するが、天皇は日本と共に消失し、教皇は権威こそ最上位でも宗教的に半数しか影響はない。


 人類全員に影響を及ぼす権威を持つ人間は、史上でも一人もいないのが実情だ。


 だが、人類に今必要なのは国に属さず、自己の利益ではなく人類に奉仕し、崇められる一人の存在だ。


 人はそれを神と呼ぶが、神が人前に姿を現れることはない。代弁者であればそれは偽物だ。


 神の言葉ではなく、人の言葉で人類をまとめ上げなければならない。


 そのような存在が、この闇に覆われた世界にいるのだろうか』



 十二月二十日 日本跡地


『三ヶ国紛争、停戦へ


 突発的な紛争が始まってから一ヶ月半が経ち、ようやく暗黒地域評議会で話の折り合いがつき、一時停戦となった。


 事の発端となったエリア51の情報を公開することをアメリカが承認し、情報を共有することを条件で無益な紛争を止めることとした。


 無論、アメリカも一切を公開することはせず、最低限独占するものはするだろう。


 それでもアメリカが持つ暗黒地域の情報を公開することは大きな意味を持つため、中ロは黙認する姿勢だ。


 三ヶ国の世論でも無益な争いは止めるべきと言う意見や、ならば死んでいった兵士たちの命はどこに行くんだ。浮かばれないと経戦を主張する団体も少なからずいる。


 しかし、このまま戦火が拡大し、ただでさえ希少な人材や兵器、資材を浪費するわけにはいかない。アメリカの決断が遅かったばかりに三ヶ国で二千人以上の命が奪われたが、ひとまずは止まった』



 十二月二十五日 日本跡地


『一隻のヨットが漂流。生存者アリ


 休戦協定が定まり、暗黒地域評議会の決定によって一時的に撤退が決まってから四日が過ぎた。


 世界はクリスマスだが、サンタは世界に幸せを含んだプレゼントは配ったりしない。


 ただ、幸か不幸か分からないプレゼントは届いた。


 三ヶ国ともに撤退作業中の中、国籍不明のヨットが一隻、軍艦の監視網を掻い潜って着岸した。


 臨検すると中には一人の少女がいた。アジア人の十七から十八歳と思われる。


 ヨットには燃料はあり、さらに帆も問題なければ舵も壊れていない。食料や水も十分あるため、漂流して来たのではなく意図的に漂着したと思われる。


 津波ゴミがまだ多くある中、ヨットは恐ろしく綺麗なままであった。


 調査隊は少女を保護した。国際法上、暗黒地域は特定の国が領有しているわけではないので日本領であるため捕縛する法的根拠がなく、人命救助と言う形で保護をした。


 保護した少女は日本人と自称しており、自力でオーストラリアからヨットで帰国したとのことだ。


 日本人を証明するパスポートも所持しており、本物か偽装かの証明こそ出来ないが日本語を流暢に話している。


 どうして一人でいるのかと問うと、母国の跡と世界の縮図を見に来たと答えた。


 漂流の少女は保護は不要と答え、仮に死んでもそれは自己責任として三ヶ国の保護を断った。


 保護を自ら断る以上、強要は出来ず見守ることしか出来ない。


 漂流の少女は紛争によって出来た血痕や破壊痕に近づくとしゃがみ込み手を当てた。


 これは日本流の祈りを捧げている所作だ。


 なぜ日本に単身で来たのか明確な理由は話さず、ただ日本跡地を見に来たとしか答えない。


 人道的観点からして日本跡地から沖縄に移動させるべきだが、日本跡地内での法的根拠が不透明である以上、強制すれば人権侵害となる。


 日本跡地の領有権を明確にしなかったツケがいま利いて来たのだ。


 邦人団体ジパングは漂流の少女に関して何も分からないとコメントしている』



 十二月三十一日 中国


『同月八日に保健機関に報告された原因不明の肺炎は新型ウイルスであるとWHOに報告した。


 レヴィアン落下により初期で二億人、さらに餓死や凍死で国内外に問わず年内で約五千万人が死んでおり、遺体処理は遅々として進まず、寒冷から腐敗は緩やかだ。


 それにより遺体から疫病が発生することは十分にあり得る。


 中国政府は、この弱体化しつつある国際社会に蔓延すれば、さらなる未曾有の死者数を出してしまうと危惧する。


 最悪の事態を回避するため、武漢市全体を一級封鎖線、湖北省全域を二級封鎖線、国境を三級封鎖線として定め、人の移動を著しく制限する決定をした。


 分かっているだけで新型ウイルスによって二十七人の発症が確認されている』



 二〇二〇年 一月一日 ネットニュース


『新年の抱負


 世界に闇が訪れて八ヶ月。世界は新たな年を迎えた。


 前向きな言葉で明けない夜はない。止まない雨はないと言う。


 では今に相応しい晴れない空はないと誰が言ってくれるだろうか。


 レヴィアン関連の被害に加えて中国では新型ウイルスまで発生してしまった。


 負のスパイラルが発生して、日にちが過ぎるたびに世界中で自然死の他に多くの人々が死んでいく。


 レヴィアンが落下した当初は混乱期にあった。


 年末までは急激に変わった環境に慣れる騒乱期となった。


 今年はその環境に慣れた安定期となりたい。


 曇った空はあと五年は消えないが、曇った心は晴れることは出来る。


 空模様と心模様は同じであるならば、心が晴れれば空もまた晴れる道理。


 あと四ヶ月でレヴィアン落下から一年となる。


 経済も食料も厳しくとも、心だけは晴れやかとなろう。


 今年に願う抱負はその一点のみだ』



 一月二日 アメリカ


『アメリカ政府、エリア51の情報を公開


 三ヶ国紛争の原因となっていた暗黒地域に関わるとされる情報を、二週間の準備期間を経て公開した。


 黒塗り書類を出すかと国内外で危惧されていたが、思いのほか隠された記述は少なかった。


 エリア51内にあった地球とは違う草原が発見されたのは一九三九年で、空軍の飛行訓練中に発見された。


 砂漠地帯でありながら不自然な楕円形の草原と、草原外に墜落したエアカーが墜落。三人の異星人の遺体が発見されていたと言う。


 アメリカ政府はその草原を隠すため、そこら一帯を軍の施設にすることで隠蔽。その後表向きは空軍施設として稼働し、その裏では草原と異星人のエアカーの研究を始めた。


 異星人の身長はメートル単位で二メートルを超える。女性もまた二メートルを超える巨躯で、脚は一本に退化または進化している。足の様相から自立はしない。


 地面に立てないのに、どうやって生活をするのか検体不足のため分からず。


 エアカーに関してはブラックボックスの作用により、草原の範囲内であれば浮遊することが可能。しかし草原の外に出るとたちまち落下してしまい、なぜ落下するのかは現在でも分からず。


 レヴィアンそのものである熱電変換能力を持つレヴィニウムは草原内に至る所にあり、この地の世界では珍しい物ではないと推測される。


 草木の遺伝子情報は地球の草木とほぼ変わらず、昆虫もまた類似した種類もみられ、近い動植物同士なら接ぎ木や異種交配は可能と試験結果が出ている。


 つまりエリア51に現れた草原と、日本跡地に現れた陸地が同じ星から来たのであれば、地球とその星は全く同じ生命の起源を辿ってきた学術的な証明をしていることになる。


 定説での生物の起源は小惑星に含まれていた有機物だが、もう一つの可能性として他の星から土地が来たことで有機物が来た、またはその星に行ったこともありえる。


 可能性の話に過ぎないが、世界中で記録されている不可解な失踪は、この土地の入れ替えに巻き込まれてしまったとも考えられ、近年では二〇一五年に突如消息を絶ったマラヤ航空730便墜落事故も、その可能性が挙げられる。


 今後入れ替え現象の原理を科学的に突き止めることが出来れば、人類はテレポートをして人や物を瞬時に輸送することが出来るだろう。


 消失した日本も、入れ替わった先で存続していると思われるため地球側から取り戻すことも可能だ』



 一月七日 WHO


『新型肺炎。コロナウイルスの新種と判明


 中国湖北省武漢で報告された原因不明の肺炎は、新型のコロナウイルスによるものと同市保険証の調査で分かった。


 WHOはこの新型ウイルスを国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に相当すると声明を出し、中国政府に迅速な封じ込めを要請した。


 まだこの新型ウイルスがどの程度の感染率や死亡率を持っているのか分かっていないが、レヴィアンにより医療体制が脆弱になっているいま、免疫のないウイルスの蔓延は人類の活動に尋常ではない制限が起きる恐れがある。


 早期にその懸念を払しょくするため、ウイルスキャリアが国外に出る前に封じ込める判断を下した。


 同時にWHOは各国にも国外からの人の動きは厳重な対応をするよう呼び掛けた』



 一月十日 暗黒地域評議会


『停戦から終戦へ


 アメリカが提供した情報をもとに、先の争いの遺恨は消えていないが先に進むため水に流しすことを三ヶ国一致で決定した。


 決定した際に再び意見の相違から紛争が起こることを恐れ、三ヶ国の軍艦の警備はそのままに上陸チームはあらかじめ決められた武器以外の持ち込みが禁止された。


 違反した場合は違反していない国に、武器一丁につき各国それぞれ百万ドルを支払うこととした。法的根拠こそないが、少なくとも違反すればその国の信用は落ち、三ヶ国全てが違反すれば再び無益な争いが始まる。


 そして情報が公開されたことで、日本跡地の領有権に関しての疑問が現れた。


 国際法上、暗黒地域は日本国であり、主権を有する日本国籍百五十万人の領土となる。


 しかし、世界を救う画期的な超物質が総量こそ不明だが十分な量があると見込めると、国家として体を成せていない日本に一任させるべきか疑問は拭えない。


 暗黒地域を新日本として開拓するのにレヴィニウムは必須だ。だが独占すれば日本の開拓も世界の復興も遅れる。


 少なくとも日本人の手でレヴィニウムを採掘して世界に流通するころには、世界は復興どころか衰退の一途を辿る。


 ここは時代の逆行としても、時限的に既存の日本領を除く暗黒地域を他国が強制統治し、世界を救うレヴィニウムの流通確立を果たすべきとの意見がある。


 この意見に邦人団体ジパングは非難するだろうが、今はとにかく時間とレヴィニウムが必要だ。


 話し合いでは必ず平行線となるため、ここは資材も人員もある他国に委ねるべきではないだろうか』



 一月十二日 邦人団体ジパング


『どこまで盗人猛々しいのか


 ジパング代表は暗黒地域評議会の考えに落胆のコメントを発表した。


 世界が貧窮し、その解決にレヴィニウムが必要なのは我々も百も承知である。


 だがそれを決めるのは当事国以外の国ではなく、主権を有する日本だ。


 無論我々ジパングがレヴィニウムを独占するつもりはなく、必要に応じて流通させるのがボランティア王を始めジパング幹部の総意でもある。


 しかし、いくら必要であり、我々より他国の力も能力もあるとはいえ、主権国の同意を無視して強引に地下資源を貪る権利は断じてない。


 まずは我々と対話をし、確たる筋を通して採掘事業をするべきではないだろうか。


 暗黒地域評議会は一度として我々とそうした話をせず、評議会に加入する連絡すらしていない。


 表向き人道的な対応をしようと、その裏付けをしていない組織の言葉をどうして信じられるのだろうか。


 安保理の常任理事国であり、強国と言う立場に胡坐をかき、上から目線でモノを言う組織の言葉を我々は聞き入れない。


 まずは頭を下げるところから出直せ。


 ジパング代表は対等での対話を求め、一方的な要望に対しては応じない姿勢を見せた』



 一月十五日 日本跡地


『私の話を聞いてください


 私は今、日本跡地にいます。レヴィアンが落下した時はオーストラリア南部に住んでいた日本人で、単身ヨットで戻ってきました。


 場所は丁度九州の桜島があった場所です。


 津波が来たみたいで、海水で草木は枯れ果ててしまっています。


 それでも植物の生命力は凄く、全て枯れてはいません。この氷点下以下の気温でも植物は懸命に生きようとしています。


 この土地は他の星であっても他の世界の物であっても、この地球で生きようとしています。


 巨大動物は残念でしたけど、小さい動物や昆虫は星が違っても生きようとしています。


 地球や人類にとってこの動植物たちは地球外生物で外来種です。


 ならこの土地に住む動植物たちにとって私たちはどうなのでしょうか。この土地の生態系を狂わす外来種なのではないでしょうか。


 私自身もまた外来種として立っています。でも、生体系を壊さないように種子を持ち込まないようにして消毒もしています。


 国際社会はこの土地を利用して世界の立て直しを望んで、日本人団体のジパングは日本跡地を日本として再建しようとしています。


 私はどちらの考えも理解しています。


 世界は氷河期と飢餓で電気を多く必要としています。レヴィニウムは発電能力をを二倍にも三倍にも出来るから、それで多くの人が暖房を使うことが出来ます。


 ジパングは今はいない日本のために、日本がこの地球にあった証を、国と民族を残そうとして排他的にしたいとしています。


 ただ、思うんです。


 広い目で見れば正しいのかもしれないですけど、ではこの土地に住む生き物のことはどう考えているのかと。


 今のところこの土地と共に地球にやってきた異星人はいなくても、植物や動物は来ています。


 怪獣のような巨大動物はいなくても、小さな動物はたくさん見れます。


 高層ビルくらいの巨大な木が生えています。この木を使えばきっと多くの木材が出来るのでしょうね。


 人々が森林伐採を繰り返しし続けて地球温暖化が進んでいるのに、異星の木々を伐採してまた大事な緑を削ってしまうのでしょうか。


 開拓するには必要な資源です。社会でも日本人でもこの土地の資源は必要です。


 それは分かっています。


 つい四週間前までこの土地では三つの国が、自分の国の利益のために無駄な血を流しました。


 その血はまだ残っていて、外来の遺伝子を残して穢してしまいました。


 私は政治は分かりません。だから私の考えと社会の考えは違うと思います。


 ただ、いくらこの土地に社会を救う資源があるとしても、この土地全てを利用するべきではないと考えます。


 異星の土地の自然を守りつつ、日本国と地球社会を守るだけの土地を大切にするべきです。


 無秩序に自然に人間が手を出すから生態系が壊れ、資源が無くなり、地球温暖化が進みました。レヴィアンが落ちて全てがリセットされた今、また人類の愚かなことを繰り返すべきではありません。


 自然と人類の線引きを上手くまとめ上げて付き合っていくことが大事だと私は思います。


 そしてジパングの要求と世界の要望は、上手くまとめ上げられると思います。


 だって二億五千万人以上の人がいなくなっても、まだまだ頭のいい人はたくさんいますから。


 この大変な時だからこそ、人として誇れる行動を取るべきだと私はニュースと見て感じました。


 国際社会もジパングも、自分の主張ばかりで譲り合うことをしません。


 野生動物でも必要以上のことはしません。動物より考えることが出来る霊長類だからこそ、野生動物にはない子供たちに自慢できる判断を私は願います。


 なお、私と邦人団体ジパングは関係ありません。


 ここには私の意思で来ました』



 一月十七日 ネットニューズ


『調和を促す動画が話題


 日本跡地で撮影されて動画投稿サイトに投稿された日本人女性の動画が話題となっている。


 昨年クリスマスに単身で上陸し、調査チームの保護を断って日本跡地に滞在し続けており、十五日に突如動画を投稿した。


 邦人団体ジパングは少女のことについては認知しておらず、コメントも発表していない。


 少女とジパングは無関係で、少女の意思で来たとされる。


 動画での主張は地球と入れ替わった土地、自然と社会との調和を願ったものだった。


 入れ替わった土地にはアメリカの情報が確かであれば貧窮する国際社会を救うレヴィニウムがあるが、同様に異星から入れ替わる形で来た独自の生態系もある。


 人類のエゴで資源を貪れば、二十世紀後半から悩まされ続けている自然破壊を再びすることになる。


 人類は自ら犯した愚を再び起こしてはならないと、少女は単身で訴えたのだ。


 この動画は翻訳されて世界中で視聴され、日本跡地の在り方を考えさせる。


 文明再生にレヴィニウムは欠かせないが、それは現れた七十万平方キロメートル全土で採掘をする必要はない。


 開発区と自然保護区を事前に定め、そこで計画的に開発と開拓をすれば自然を必要以上に壊すこともなければ、外来種の流出を抑えることが出来る。


 九州相当の範囲で採掘をしても、世界に十分流通させられる量はあるだろう。


 決して夢見語りではない。


 過去のニュースを見ても、調和を求める声は皆無と言っていいほどない。


 どの国も利権を主張し続け、押し付けて奪い合おうとするものばかりだった。


 少女は無人の土地で一人声を上げたのだ。


 奪い合いでは何も解決しない。分かちあい、分け与えることでこの困難な時代を生き抜こうと。


 世界中に散らばり、集まろうとしている日本人は百万人規模。百万人であれば沖縄のみで十分生活は出来る。


 心配されていた三ヵ国紛争は過激になる前に収まり、どの国も日本跡地の領有権を主張していない。


 あとはジパングがどれだけ世界に譲歩するかだ』



 一月二十日 国連総会


『国連総会、全会一致で調和を採択


 ここ九ヶ月と続いた負の連鎖を断ち切るべく、世界総出で資源の奪い合いから分け与えの精神の切り替えをすることを全会一致で可決した。


 きっかけは日本人少女の訴えと、世界中で起こる犯罪率の増加が例年の二十倍に膨れ上がっているからであった。


 無論各国政府が略奪を容認していたわけではない。


 ただ、実に簡単な世界が一つに思想を持つことをしていないだけであった。


 調和、平和と言う当たり前の思想を改めて確認する必要などなかったからだ。


 だが、レヴィアンによってその確認を改めて必要にさせられ、我々人類は心の片隅に理想論として追いやってしまっていた。


 こんな時だからこそ、レヴィアン対策と同様に人類は再び一つの考えに向かわなければならなかった。


 地域や国は多数ある。人種、肌の色、宗教と違いは数多く違いを持ち、その違いからくる摩擦から対立が生まれ、歴史の積み重ねで発展してきた。


 だが人類は一つだ。


 異星人と言う存在が確認されようと、この星に住む人類は一種類しかいない。


 なら、気持ちを一つにすることは出来る。


 今は発展を忘れ、後退を恐れず、停滞を選ぶ。


 一人でも多くの人類を生かし、空が再び晴れた時に歩み始めるのだ。


 残るは日本跡地の主権を持つジパングだけである』



 一月二十三日 中国


『新型コロナウイルス収束


 昨年に報告され、今月七日にWHOが認めた新型コロナウイルスだが、二十二日に武漢市で確認されていた感染者が陰性になり、新たな陽性者が出ていないため、武漢市は新型コロナウイルスが終息したと宣言した。


 武漢市は中国政府の命令で直ちに武漢市を封鎖し、人の出入りを物資の移送のそれも入ってくる一方通行に限定した。


 人の行動を著しく制限したため、武漢市外にウイルスキャリアが出ることを防ぐことができた。湖北省含め他省でも陽性者は出ていない。


 発生源は海鮮卸売場とされ、そこは無期限の閉鎖となった。


 最終感染者数は三百五十人、死者二十五人』



 一月三十日 邦人団体ジパング


『ジパングも調和を希望


 ジパング代表とボランティア王は共同で最近の世論の動きに対して声明を発表した。


 過去の自分の発言を聞き返すと、他の国々の主張と何も変わっていないことに恥を感じる。


 例えこのまま我々が強行したとして、三ヶ国のにらみ合いに巻き込まれて無辜の人々に被害が及んでしまう。


 少女の言葉で頭を冷やすことが出来た。


 あの土地は法的には日本であっても、地政学的には日本ではない。


 例え日本人である我々であっても、我が物顔で踏み込んでいい領域ではないのだ。


 無論主権は私達日本人にあるため、入れ替わった土地であろうと守る義務はある。


 しかし、争いの果てに手に入れても残るは禍根の念だけだ。


 調和と言う話し合いのテーブルで解決するのであれば、邦人団体ジパングもまた参加する。


 幹部会でも三ヶ国が上陸した鹿児島沖から九州地域までは開発、開拓区とし、そこから北海道方面は永久自然保護区として立ち入り禁止区域にするべきと意見が出ている。


 最大百五十万人しかいない日本人ならば、現存する日本領と九州区域のみで十分だ。


 もしかしたら日本列島が再び戻ってくる可能性も考え、日本跡地への居住は最小限にしたい。


 今は各々の主張ではなく、人類と言う一つの組織のために動くべきだ。


 邦人団体ジパングも国連が可決した調和政策に参加を表明する。


 この代表の発言により、日本を中心とした負の連鎖は断ち切れるかは不透明だが、少なくとも第一歩とはなる。


 日本人移送は予定通り、二週間後に行われる』

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