第5話『世界情勢 10月~11月』



 十月三日 国際気象機関


『赤道で降雪を確認


 空が粉塵で覆われてから半年近くが経ち、それによって日光が遮断されて地上の気温は例年より低くなった。


 それによって危惧されていた赤道上での初雪が初観測された。


 赤道上でもキリマンジャロのような標高が高い場所では雪は降るが、海抜0メートルの地表付近では気温が高いため雪が降ることはなかった。


 しかし、世界気温が低くなったことが原因で、十月二日にケニアで降雪が観測された。


 十七年にも降雪が観測されて話題となったが、その時は雹だったことが分かって落胆した記憶はまだ新しい。


 今回は正真正銘の雪であり、最終的に一センチの積雪となった。


 国際気象機関は、レヴィアンの影響による気温低下は予測よりも大きく、五℃の低下を最終的に十℃から十五℃は平均気温は下がる見通しと修正した』



 十月七日 暗黒地域評議会


『いざ、暗黒地域へ


 米中ロで構成される暗黒地域評議会は、三ヶ国による共同チームによる暗黒地域への派遣を決定した。


 チーム規模は一個中隊で期間は一ヶ月。全員防護服を着用し、拠点には除染施設を設ける。


 派遣終了後は三週間の隔離措置を行い、万が一暗黒地域に疫病があっても流出を防ぐ予定だ。


 調査目的は暗黒地域は地球由来のものか、それとも別世界由来のものかを科学的に立証し、生身で行動して安全かも確立させる。


 生身で移動できるのなら調査の活動範囲は広がり、レヴィニウムの研究にも捗る。


 暗黒地域は既存の地域で言えば鹿児島と北海道は緩やかな傾斜で上陸がしやすく、その他は断崖絶壁でヘリを使わなければ上陸は難しい。


 そのことから調査隊は鹿児島方面から上陸する。


 ロシアは地理的に北海道方面の方が上陸がしやすいのだが、ここは共同戦線と米中に足並みをそろえる方針だ』



 十月八日 国連


『暗黒地域評議会は国連傘下に


 暗黒地域である日本跡地の調査は必要不可欠であるが、三ヶ国が日本跡地の資源を独占しては世界のバランスを崩してしまう恐れがある。


 世界の一部が世界の大半を支配する体制は是正しなければならない。


 よって米中ロで構成される暗黒地域評議会は国連傘下に入ることを勧告する。


 日本跡地にあるあらゆる資源は独占するのではなく、世界の復興及び経済発展に平等に分配するべきだ。


 消失した日本も、争いの火種になることは決して望んではいない。


 この非常時だからこそ人類は一つになるべきだ』



 十月十日 ネットコラム


『国連は必要な組織か?


 一九二〇年に国連の前身である国際連盟が発足し、第二次世界大戦後に国際連合が発足した。


 そして七十年以上に渡り最上位の国際機関として君臨し続けて来たが、その存在意義が軽薄となって来ている。


 世界の大半が加盟している国連であるが、実質支配しているのは常任理事国を含む先進国だ。新興国の多くは在籍こそしても影響力は薄い。


 かつて分担金を世界で二番目に支払っていた日本も、加盟後献身的に貢献していても非常任理事国になる回数が多いだけで国連の中での発言権は決して高くはない。


 同じくドイツも大戦時に枢軸国であったばかりに、現代でどれだけ貢献しようと死語となった敵国条項には日本を含めて記載され続け、いつまでたっても消え去ることはない。


 拒否権と言う大権に己惚れ、過去の一時の栄光に七十年もしがみつく烏滸がましさに吐き気が来る。


 その上、常任理事国と言う大役を担っても自国の利益でしか役目を果たさない。


 そんな腐敗した国際組織は必要なのだろうか。


 国連は世界の縮図だ。


 一パーセントの裕福層が九十九パーセントの貧困層を支配している。


 五ヶ国が百八十八ヶ国を支配しているのだ。


 例え百八十八ヶ国が同意しても、五ヶ国の内一ヶ国でも拒否すれば可決しない安全保障に、どれだけの意義があるのだろう。


 レヴィアンが落下し、氷河期に加え大恐慌が訪れていると言うのに五ヶ国は好き勝手に動き、拒否権を盾に国際協調を無視する。


 日本跡地に侵攻しようとしている三ヶ国を、全世界が非難をしても止める手立てがない。


 国際協調を目指して組織した国連がその真価を果たせず、無責任な声明しか出せないのに存在する価値が果たしてあるのだろうか。


 民主主義を謳うのに、常任と言う非民主主義を用意する国連は、失敗組織として何というべきか。


 だからこそ年々分担金の支払いが滞り、年間予算の確保にも苦慮するようになるのだ。


 常識から資金繰りに苦しむ組織は、大規模なてこ入れをしなければ必ず潰れてしまう。


 Ⅴ字回復する企業は必ず聖域に手を出すほどの対策をしてきた。


 国連と言う世界最大の組織だからこそ、聖域に手を出さなければ回復は望めないだろう。


 聖域である常任理事国は邪魔か否か、真っ新な議論をするべきだ』



 十月十三日 邦人団体ジパング


『帰国へのスケジュール発表


 邦人団体ジパング代表は、ボランティア王と協議して帰国へのスケジュールを立てた。


 希望者は現時点で百五十万人中六十万人に達し、中には帰化した日本人も含まれる。


 邦人団体ジパングは、帰化した日本人も原則入会でき、逆に日本国籍に帰化した外国人はお断りしている。


 それ故に純血主義団体と揶揄されるが、日本人のための団体であるため純血を基礎とするのは当然の措置だ。


 ジパング代表は日本帰国へのスケジュールとして、陸路と短距離の海路にて環太平洋の六ヶ国に日本人を集結させ、生き残り不要となった大型船を利用して来年三月までには希望者全員を沖縄に移住させる。


 同時に建築資材や食料も運搬し、沖縄に都市を建設して日本国首都として機能させる。


 沖縄での生活が落ち着いたところで日本跡地への上陸を目指す予定だ。


 それまでには暗黒評議会による日本跡地の調査で安全評価がされるだろうから、人間の居住に適している場合は任意での移住を行っていく。


 尚、その移住による評議会の判断は受けない。


 日本跡地は紛れもない日本国。他国の許可は不要だからだ』



 十月十五日 暗黒評議会


『暗黒評議会特別国際調査隊、日本跡地上陸


 米中ロで構成される軍人及び科学者の調査隊は、津波ゴミの撤去をしつつエア・クッション型揚陸艇で座標では鹿児島沖から二十七海里から上陸をした。


 未知の病原菌対策から居住施設は全て密閉加圧タイプで、出入りには必ず除染作業をしなければならない。野外活動には必ず防護服を着用することが義務付けられ、違反した場合は安全が確立されるまで室内及び跡地から出ることは許されない。


 万が一不治の伝染病が発見された場合は上陸が出来ないよう壁を建設する。


 レヴィニウムを含む日本跡地は欲しいが、不治の伝染病を蔓延させては意味がないからだ。


 尚、調査報告は透明性を求める国際社会に答えてか、映像を含め動画投稿サイトに専用チャンネルを設立して公開する。


 国連が求めている国連傘下への返答はしていない』



 十月十六日 動画投稿サイト


『アメリカは嘘をついていた!


 私はインディアナの日本人クルーだ。


 この動画は借りたスマホで撮影して投稿してる。どうかこの動画を見た人は拡散をしてくれ!


 恐らくこの動画はすぐに消される。テレビで流してくれることもないだろう。だからネットで、あらゆるSNSで広げてほしい。


 いま私はネバダ州レイチェルにいる。


 立ち入り禁止区域のエリア51と呼ばれるホーミー空港にいて、そこから脱走してきた。


 ここは表向きこそ試験訓練場だが、エリア51にエイリアンやUFOがいる噂、あれはその通りだ。


 アメリカ軍はエイリアンの存在を把握していながら公表せずに独占し続けていたんだ。


 これがこの証拠写真だ。


 施設の中にサッカーコート三つ分のスペースが草原となっているところがある。この草原は地球の物じゃない。日本跡地に現れた暗黒地域と同じ草木なんだ。


 日本に起きた異変は今回だけじゃなく、何十年も前にアメリカでも起きていたんだ! ひょっとしたら日本やアメリカだけでなく、他の地域でも知らず知らずに異世界の土地と入れ替わっているかもしれない。


 NASAの連中は日本に起きた入れ変わり現象から、エリア51で起きたことと似ているとしてもっともレヴィアンと接していた私とアメリカクルーを連れてきて見せた。


 日本跡地とエリア51の因果関係を調べるためと言っていたが、傍観しか出来なかった私たちが分かるわけがない。


 アメリカは少なくともレヴィアンのサンプルデータを手に入れた時から、多くのことが分かっていても一切公開しなかったんだ。


 エリア51の事、入れ替え現象のことを分かった時からすぐに言えば、何らかの対策が取れたのかもしれない。


 アメリカは知っていながら知らぬふりをし続けたんだ。


 そして、入れ替わった土地には巻き込まれた異星人もいた!


 二本脚がくっついたような一本脚で、二メートルほどの背丈で、けど人間と変わらない手を持つ異星人だ。これが兵士の隙をついてなんとか撮影したホルマリン漬けの遺体写真だ。


 映画で見るような異形の生物ではない。狂暴そうな知性の欠片のない化け物でもない。


 人間と変わらない姿をしていた。生きている異星人はいなかったが、アメリカは異星人の存在を何十年も前から知っていながら、噂に留めて秘匿し続けたんだ。


 異星人は乗り物に乗っていた。反重力みたいに音もなく空に浮く車みたいな乗り物だ。


 おかしなことに入れ替わった土地の範囲内しか飛べないけど、異星人は地球と似た……いやそれ以上の科学力を持っているかもしれない。


 アメリカが日本跡地に固執するのも、このエリア51での調査があってのことだ。


 おそらく私は消されるが、この動画だけは拡散してくれ。


 アメリカは嘘をついていたんだ』



 十月十七日 アメリカ


『エリア51の密告動画、世界中で波紋


 十六日未明に投稿された動画が、アメリカだけでなく世界中で波紋を呼んでいます。


 通称エリア51と呼ばれるネバダ州レイチェルにあるアメリカ空軍に極秘施設は、予てよりUFOやエイリアンがいるのではないかと言う噂がありました。


 アメリカ政府及び国防総省はその存在を否定、あくまで極秘試験施設としてありましたが、昨日投稿された告発動画で否定が嘘だったことが分かりました。


 オリジナルの動画は投稿からわずか十分後に削除され、視聴者も十人しかいません。しかし、その内の一人が動画をダウンロードし、あらゆるSNSに投稿して世界中に拡散されました。


 ワシントンではこの動画の真偽を知りたくホワイトハウスでは数万単位の国民がデモ活動をしています。


 アメリカだけでなく、世界各国でもアメリカが日本に起きた陸地の入れ替え現象及び、異星人の隠匿の真偽が注視されています。


 ホワイトハウスは投稿された動画は完全なるフェイクであり、この混乱期にさらなる混乱を起こそうとしたインフォデミックテロと断言しました。


 昨今のCG技術は実写と思えるほど高精度となっているため、動画内の画像が本物かどうかは専門職の方々の調査が必要とされます。


 もし投稿された画像が捏造ではなく真実であった時、文字通り歴史が塗り替えす事件となります。


 アメリカ政府は地球外知的生物を数十年もの間、世界に秘密にしていたのです』



 十月十七日 暗黒地域評議会


『暗黒地域評議会、暗礁に乗り上げる


 アメリカの隠ぺいを暴露する動画が投稿されたことを受け、暗黒地域評議会のパワーバランスが大きく揺らいでいる。


 今までは三ヶ国は平等のバランス下であったが、アメリカが日本跡地の真相を数十年前から知っていたことを受け、中ロはアメリカに対し排他的な対応をし始めた。


 それは現在進行中である調査でも現れており、中ロは協力的な連携を見せているが、アメリカに対して独自の知見による身勝手な行動を移さぬよう監視を強化している。


 アメリカはこの行為にを速やかに止めるよう評議会に掛けたが、多数決で棄却された。


 言わなければ嘘にならない方便があるが、重大な事実を知っていながら報告しないのは重大な裏切り行為に等しい。


 三ヶ国は利害の一致から国益優先でテーブルの上では手を握り、その下では足の踏み合いをしているが、今回は手ですら握るのを拒む形となった。


 アメリカは動画は捏造であり、この対応は不敬極まりないと主張しているが、二ヶ国はエリア51の全面公開をしない限り考えは変わらないと返答をした。


 エリア51はアメリカ空軍の中でも最高機密に基地であり、何があろうとありえないとして平行線となっている。


 調査部隊には銃火器を持ち込まれているため、銃撃戦が起きる可能性も低くない』



 十月十八日 邦人団体ジパング


『沖縄からアメリカ軍の撤退を要求


 ジパング代表はアメリカが日本列島に起きた事実を知っていながら隠蔽していたことで、偽りに満ちた国に我々の母国に居座られたくない。直ちに全面的な退去を要請する。


 アメリカ、そして中国が行っているのは国際法でも定められている明確な侵略だ。


 例の密告動画により、国際世論がアメリカに対し不信感が募っているタイミングで代表は国連本部にて声明を出した。


 しかし、邦人団体ジパングには軍隊を排除する合法的組織は存在していない。


 来年、邦人が沖縄に戻ったところで強制的な退去が出来る保証はなく、事実上の実効支配が続く恐れがある。


 邦人団体ジパングが軍隊を保持すればよいが、他国で軍装備を整えれば過激派テロ組織となってしまうため、少なくとも日本に戻るまでジパング内で国家権力を持つことは出来ない』



 十月二十日 アメリカ


『映像は無修正と判明


 十六日に公開され、世界規模で物議を醸しだしているエリア51の密告動画の検証が、アメリカにIT企業にて行われた。


 CEO直々の発表に注目が置かれた発表は、結論で言えばCG等は一切使われていないとのことだ。


 動画内にはサッカーコート三面分に相当する草原が広がり、それ以外は荒野の大地が広がっている映像。その草原内で車輪もなければジェットエンジン、ローターなど推進器が一切ない車相当の乗り物。


 ホルマリン漬けにされた一本足の異星人の三つがあったが、それら全てでCG処理されたものでないことが確認された。


 しかし、CG処理がされていないだけであり、映画のセットのように作り物をそう見せるだけでも本物ではある。


 映像からでは学術的な地球外の物であるかは分からない。


 少なくともこの発表でCG処理の疑いは晴れたが、根本的な本物か偽物かは不明なままだ。


 アメリカ政府は動画に関してはフェイクである主張を続けている』



 十月二十三日 アメリカ


『日本人クルーはどこに?


 密告動画が投稿されてから一週間。NASAからエリア51に移送された日本人インディアナクルーは、投稿の前日に失踪してから八日間一度も姿を見せていない。


 陰謀論では証人をアメリカ政府が秘密裏に処分したとか、CIAかFBIがすでに確保して留置して拷問を掛けているなど根拠のない憶測が駆け巡っています。


 NASAは地元警察、FBIが捜索中としているが、どこまで本当なのか誰も分からない。


 さらにアメリカ政府の隠ぺい疑惑によるデモは過激の一途をたどり、複数の州では警察だけでなく州兵との衝突も発生。それに便乗した略奪も横行している』



 十月二十五日 日本跡地


『アメリカの隠ぺいは真実か? アメリカ調査チーム、感染症対策を徹底せず


 中露の調査チームは、アメリカ調査チームが徹底しなければならない感染症対策をせず、屋外でマスクを外している場面を目撃した。


 アメリカチームは感染症対策は徹底していると主張しているが、動きずらい防護服を脱いでいる証拠映像もあるとして現場で論争が激化している。


 少なくとも中ロはアメリカを中ロ側の施設内には入れない決定をしている。


 一応各国それぞれ施設を設置するので、中ロの調査チームに感染症が広がる恐れはないが、アメリカがルールを無視すると言うことは、当軍人の怠慢か、すでにこの地に疫病はないことを知っていることになる。


 しかし、別世界の陸地であるならば我々地球人の免疫システムでは対処できず、別世界の生物にとって軽症以下の病でも地球人にとって難病になる。


 それをアメリカの調査チームが分からないはずがないから、やはり疫病は存在しないと事前に知っての行動か。


 暗黒地域評議会は、アメリカの脱会を視野に動きつつある』



 十一月一日 国連


『レヴィアン関連死急増


 空が分厚い雲に覆われてから半年以上が過ぎ、世界の平均気温が十℃と低下したことで赤道付近で寒冷に伴う死者数が急増している。


 それに伴い、大型動物の凍死が急増。牛レベルの動物が次々に死に、植物もまた寒冷対策をしていない種は枯れていった。


 草木が生えなければ草食動物は生きられない。草食動物がなければ肉食が、小型動物もまた生きられない。


 食物連鎖の崩壊が始まり、我々人類の食料が不足し始めたのだ。


 加えて二億人以上の人口が減少しても世界人口は七十五億人。


 それら全員の食料を維持することは不可能で、貧困国と寒冷とは無縁だった地域から死者が増え始めた。


 国際連合食糧農業機関(FAO)は、このままでは三年以内に世界人口の過半数が食糧不足で餓死または栄養失調になると予測を発表した。


 専門家の意見では、粉塵が地上に落ちて日光が注ぐまでに四十億人から三十億人は減るであろうと警鐘を鳴らす』



 十一月三日 日本跡地


『世紀の発見。植物の遺伝子配列は地球のと酷似


 津波による塩害で海岸地域の草木の多くが枯れてしまった。


 その中で生き続けている草木と、津波が届かなかった内陸の草木のサンプルを採取。


 遺伝子配列を調べたところ、地球の植物と九十九パーセント以上が一致していることが調査の結果分かった。


 これは謎の陸地の生物と地球の生物は同じ発生起源を取っていることを示してることになる。


 地球の生物の発生起源の定説は、小惑星に有機物が含まれ、その小惑星が落下したことで原始生物発生の条件が揃ったとされる。


 遺伝子情報がほぼ同じであるなら、現れた謎の陸地の起源も地球に落ちた小惑星に付着していた有機物と同じ有機物が落ちたからである可能性が高い。


 即ち、日本跡地に現れた陸地はフィクションで目にする異次元の世界ではなく同じ宇宙のどこかの陸地となる。


 生物学的に二ヵ所の星の生物の起源が同じであることは極めて重大な事実で、今後の生物学の発展に期待が寄せられる。


 動物の遺伝子情報はまだ手にしていないため、巨大動物を含めて採取し検査をする予定だ』



 十一月五日 カリブ合衆国


『カリブ合衆国建国議案可決!


 南アメリカ大陸にある十二ヶ国を対象とした合衆国建国議案が先日、各国を一票とした投票を実施した。


 結果、十対二として十二ヶ国をそれぞれの法を維持したまま州格下げにし、南米を一つの国とする合衆国化することが決定となった。


 わずか二ヶ月での建国は異例でしかないが、異例の背景にレヴィアンによる食糧危機、経済不安を回避するための利害の一致。さらに強国アメリカ合衆国への対抗が挙げられる。


 これによりカリブ共和国はオーストラリアより大きい大陸全土で一つの国となり、ロシアを抜き世界最大の国家となった。


 首都は名前の通りカリブ海にある島を開発し、通貨は各国の通貨に加えて合衆国共通通貨であるケイルを採用し、軍隊は州となった各国の軍を再編し、州兵と連邦軍へと編入される。


 政権は各州から旧国家元首である知事と副知事をそれぞれ選挙で選び、知事は合衆国内閣に、州の知事は副知事が務める。そして各州の知事と副知事の二十四名により投票を行い、大統領を始め閣僚を選任する。大統領継承権は公平のためクジで選び、自分以外の継承順位は知られないようにする。そうすることで暗殺等で順位を意図的に繰り上げる可能性を低くさせる。


 懸念される様々な犯罪は各州に委ねられ、犯罪歴のある人の州の移動は原則できない。


 麻薬の密売も、使用者、売り子、生産者は同列で死刑に処すことを全国で実施し、強権を用いて撲滅にすることとなった。


 しかし平時でも撲滅が出来ていないのにできる保証はどこにもない。


 十二の国を一つの国家にまとめ、果たして発展できるかは誰にもわからない』



 十一月七日 日本跡地


『ついに恐れた事態か、発砲を確認!


 現在米中ロが調査中である日本跡地にて、銃撃戦があったと報告があがった。


 その銃撃戦が米中ロで起きたのか、それとも異星人と起きたのかは不明だ。


 日本跡地は暗黒地域評議会の三ヶ国の共同での調査が行われているが、先の密告動画によって三ヶ国のパワーバランスは崩れている。そしてアメリカの検疫対策の不備も合わさり、突発的な銃撃戦が起きてもおかしくはない。


 もし銃撃戦が事実である場合、局所的に留まるか全面戦争になるか大変注目される』



 十一月七日 アメリカ


『中国軍が発砲!


 ホワイトハウスは現在調査中である日本跡地にて、中国軍が我が軍に対し背後から発砲したことを発表した。


 死傷者は不明であるが、過度のストレスの中での捏造動画に触発されたものとして、中国政府に抗議した』



 十一月七日 中国


『アメリカの主張は荒唐無稽だ


 暗黒地域で起きた銃撃戦は、米軍が発砲したことによる対応である。


 我が軍が先に発砲した事実はない。


 共同での調査でありながら、主導権を獲得するために発砲して排除するとは人道的に決してあり得ることではない。


 信用を著しく失わせて共に歩むことなど出来ない。


 即刻暗黒地域からの撤退を要望する』



 十一月七日 ロシア


『ロシアは中国の主張を支持


 アメリカが主張する中国軍が発砲した事実はなく、発砲はアメリカ軍からであるとロシア政府は認識している。


 その証拠も映像として残してある。


 銃火器は未知の猛獣対策で所持しているのであり、味方同士が撃ち合うためではない。


 味方が信じられなくなった今、アメリカと共同で調査などとてもではないが出来ない。


 中国と同じで日本跡地からの撤退を要請する』



 十一月八日 アメリカ


『中ロの要望は拒否


 ホワイトハウスは中露が共同でアメリカ軍の撤退を主張していることに対し、捏造による動画を根拠に揺さぶられ我が軍に銃撃した挙句、資源を貪るため退去を命じるとは甚だ遺憾だ。


 我が軍が撤退する理由は一切なく、逆に秩序を著しく妨害する中ロこそ撤退することを要求する。


 中露の調査は杜撰もいいところである。


 生物調査は足元に生える草や土を簡単に採取するだけに留め、ほとんどは地質調査として地下資源の採掘をしている。


 ロシアも拠点から東京方面に向かって資材を投入して実効支配の準備をしている。


 調査よりも、いかにこの日本跡地を手に入れるかしか考えていない動きだ。


 この地は空白地域であるが、日本があった場所に変わりはない。ゆえに、ジパングが主張するようにこの地の主権は日本人にある。


 我が国はこの地の実効支配と日本にさせるため、略奪を続ける中ロは即刻退去せよ』



 十一月十三日 邦人団体ジパング


『三ヶ国ともに退去せよ


 アメリカはいかにも日本の味方をしているが、安全保障を買って出ることで日本に居座る気概がにじみ出ている。


 例えそんなことはしないと否定しようと、過去七十年間日本に寄生し続けた在日米軍の傍若無人さは生き残った人々は全員知っている。


 日本はアメリカ、中国、ロシア、三ヶ国の言葉を信用していない。


 この世界中が氷河期と飢餓で苦しもうとしている中、日本に現れた未知の世界に土足で踏み込み、よだれを垂らしながら貪り合っている。


 強国が聞いて呆れる』



 十一月十六日 アメリカ


『暴動が過激化。ほぼ内乱状態


 アメリカ全土で暴動が過激になり、内部の一部の州を除いて治安部隊と大規模な衝突が起きている。


 これは一ヶ月前の捏造動画をきっかけに、各地で燻っていたストレスや不満が爆発が続いているからだ。


 最初はデモ程度であったが、ついには銃火器が使用されて暴動は過激の一途をたどっている。


 治安部隊は放水やゴム弾で対抗しているが、非殺傷武器では限度がある。


 大統領は治安部隊に殺傷武器の使用を認めるか問われている』



 十一月二十日 アメリカ


『合衆国大統領、暴動鎮圧のために実弾の使用を許可


 アメリカ大統領は過熱化を続ける暴動の鎮圧のため、全州で非殺傷武器のみに定めていた治安部隊の装備を殺傷武器の使用も可とする大統領令に署名した。


 これにより治安部隊は非殺傷武器と併用して実弾を使用することが出来るようになった。


 事実上警察、州兵は民間人に対して殺傷許可を与えたのだ。


 大統領は会見でこう語った。


「合衆国大統領として、この大統領令に署名をすることは決してしたくなかった。愛する国民に牙を向けることは決して許されることではない。しかし、今ここで国民の活動を抑制しなければ国家そのものが沈没してしまう。そのため抑止力として実弾の使用を許可した。政府は決して虐殺をしたいわけではない。国民よ、どうか暴動を抑えて家にいてほしい」


 実弾使用は二十一日深夜0時から開始される。


 明日の夜明けまでに何人が死ぬだろうか』



 十一月二十一日 アメリカ


『死者五百人を突破


 暴徒鎮圧のため実弾の使用を許可する大統領令が署名されてから一夜明け、大統領令の効果が見えてきた。


 日付が変わった0時より警察、州兵は実弾を使用しての暴徒鎮圧を開始した。


 原則実弾で狙うのは足などで、命の危険のある上半身は狙わないことになっている。


 だが流れ弾で即死、または致命傷を負う人が相次ぎ、近隣の救急病院には銃で撃たれた人々が緊急搬送された。


 夜明けまでに判明した民間人死者は全米で五百人を超え、警察、州兵は百人に及んだ。


 それでも暴動は治まらず、完全なる内乱状態となった』



 十一月二十二日 暗黒地域評議会


『中国、ロシア、軍艦の派遣を決定


 中国海軍とロシア海軍は、アメリカの暴挙を排除するため軍艦を派遣することを決定した。


 評議会の一ヶ国であるアメリカは断固拒否するが、二ヶ国はそれを無視し、それぞれ三隻を派遣する。


 目的はアメリカ軍の排除で、日本跡地内でもアメリカ軍とアメリカ人科学者の確保が始まっている。詳しいことは不明』



 十一月二十三日 国連安保理


『イギリスとフランス、安保理を要請


 世界の安全保障を握る五ヶ国の内、三ヶ国が不毛な戦闘をすることは決して許容できる事案ではない。世界を襲う脅威は日本跡地だけではないのだ。


 この愚かな争いを収集するべく、暗黒地域評議会ではなく安保理にての開催で平和的な解決を要望する、とイギリスとフランスは連名で要請した。


 中国とロシアはアメリカが悪いと言い、アメリカは濡れ衣と平行線が続いている。


 第三者を交えた安保理で解決できればいいが、拒否権を持つ国々が果たして協調性を見せるか分からない』



 十一月二十六日 アメリカ


『内乱鎮静化


 約一ヶ月続いたアメリカ全土での内乱は、実弾の使用許可を出した二十一日から四日が過ぎた二十五日には暴徒は姿を消した。


 局所的なものはあるが、大規模な暴動は沈静化したと各警察署は声明を出した。


 ただ、実弾の使用許可を出した大統領令はいまだ継続中だ。


 これは今現在が小康状態で、治安部隊が引き払ったら再び暴動が起こるためだ。


 少なくとも翌年までは有効とされる。


 死者数は、民間人で千二百人。警察、州兵が三百人』



 十一月三十日 アメリカ


『虐殺大統領は退陣せよ!


 デモ活動は強制的に鎮圧されるため、ネットでの掲示板や動画サイトないでだが、自国民虐殺を容認した大統領の退陣を求める抗議がネットで蔓延している。


 歴代でも暴徒鎮圧でこれほどまでの死者を出した例はない。


 医療界でも無益な血と傷を作ったとして、強権を出した大統領を非難する声明文を出している。


 さらにエリア51の情報を頑なに出さない事。日本跡地での三ヶ国紛争。寒冷化に飢餓。西海岸の壊滅と大統領が負う責任は山積みだ。


 ホワイトハウス高官は、大統領は夥しい量の問題にうつ状態になっている恐れがあるとコメントもしている。


 広報官は健在だと言うが、これだけの問題を一人で抱えきれるか疑問が残る。


 過去最悪の国難に、果たして乗り越えることが出来るのだろうか』

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