第7話『世界情勢 2月~4月』
二月四日 日本跡地
『少女はどこへ?
暗黒地域評議会はジパングの公表を受け、日本跡地に開拓区と自然保護区を設けることをジパングに打診。ジパング主導による条件が加えられたが許可が下り、開拓区の調査として再び三ヶ国調査団は日本跡地に上陸した。
同時に昨年十二月二十四日に上陸した少女の安否及び、他の上陸者の確認も行う。
しかし、少女が乗っていたヨットはなく、少女の姿はどこにもいなかった。
一月十五日に投稿された動画は調査地域に残置した機材からされたものであることが調査の結果分かったが、不正なアクセスはされず厳重にロックが掛かっていたセキュリティは正規の手順で解除されていた。
残置した機器は全て軍事用で、一般ネットにアクセスは可能だが民間人がアクセスできる代物ではない。
一体少女は何者なのだろう』
二月五日 ネット記事
『漂流少女はウィザード級ハッカーか?
日本跡地に突如上陸し、世界に対して人としての誇りを取り戻すよう主張した少女の動画が削除された報告がネット内であふれかえっている。
オリジナルを始め、ソフトを使って一次コピー、二次コピーにスクリーンショットなど、少女の姿が映るものは全て消え去ってしまった。
異変はパソコン上の話ではない。動画を外部機器で直接撮影した動画や写真は最初から映像が乱れて映らず、アナログカメラでさえはっきりと表示されない。
プログラミングの専門家は通常そうしたことは出来ないとしており、なぜそうしたことが出来るのか疑問であるとした。
ひょっとしたら少女は広告塔で、その裏には巨大な組織があるのではないかと言う憶測も飛び交っている。
パスポートも日本国そのものがないため真偽の確認も出来ない。
少女は先日までは確かに存在して世界に声を届けたが、今となっては亡霊と化してしまった。
思えば、現地からの動画であるとはいえ、たった一度の動画で世界を動かしたのも不可思議な話である。
人の誇りや調和と言った前向きな言葉を出しても、その実は日本にとって都合のいい話でしかない。
なのに各国や世界中の人々の心を動かし、批判を最小限にするのは不自然としか言いようがなかった。
もしかしたら、我々は動画を通じて幻覚や催眠を掛けられたのではないだろうか。
何もかもがフェイクで、この精神がすり減った時を利用して集団催眠を掛けたのなら不自然な一致団結も納得出来る。
では一体誰が?』
二月十日 NASA
『衛星事情は半世紀前に戻る。
地球上を覆う粉塵は、地上からの宇宙への通信を妨げる。
通常の雲と違い、今現在空を覆っている粉塵は言葉通り細かい塵などが舞い上がっている状態だ。それでは地上から衛星にアクセスするため通信を行おうと、粉塵が壁の役割をして衛星にアクセスできない。
レヴィアン落下当初はまだ地上からのアクセスが出来たが、地球上に粉塵が覆って九ヶ月近くが過ぎ、制御を失った衛星は次々と地球の引力によって落下している。
幸い住宅地に落下した衛星の報告はされていないが、静止軌道以外の低軌道上の衛星は次々と落下していると思われる。
現在低軌道上で最大の人工物はインディアナであり、計算上では八月ごろ太平洋上に落下している。
よって粉塵が自然落下して空が晴れやかになっても、宇宙にあるのはスペースデブリだけとなろう』
二月十四日 邦人団体ジパング
『帰国希望者、沖縄に向け移動を開始。
邦人団体ジパングは予定通り、帰国希望者を乗せたクルーズ船など多くの人を収容できる船をチャーターし、一路沖縄への航路を取った。
沖縄ではすでに希望帰国者を上回る人を収容できる仮設住宅が九割近く完成しており、中央集権用行政施設も完成している。
今後、帰国希望者によって選挙を行い、新日本政府を発足させる予定だ。
原則新日本政府は元々の日本を模する形を取り、新しい時代に沿った変更をしていく。
民主主義は絶対として独裁者または独裁機構にはしない方針である。
津波ゴミは次第に海底に沈降しているので、沖縄までの航路は問題ないとしている。
順調に行けば三月初めには定住できるだろう』
二月十七日 日本跡地
『消えた少女はどこに?
謎の少女は依然と姿を見せない。
ヨットもなく、日本跡地でキャンプなど野宿をした形式もみられない。
完全に少女は存在そのものを消してしまった。
もしかしたら出向先であったオーストラリアに戻ったかもしれないが、ならオーストラリアから情報が出てくるはずだ。
世界中から少女の顔が消えても記憶は消せない。あれだけ話題となり、不自然な一致団結をした少女を見逃すはずはないだろう。
なら世界を動かした少女はどこに消えた。
ヨット程度では無人島でも長期滞在は出来ない。ヨット共に沈没していなければ必ず有人島に戻るはずであるが、動画投稿を最後にこのひと月、少女の目撃情報は一件とない。
ひょっとしたら少女は神の使いではなかったのだろうか。
このままでは自然も人類も滅んでしまう。それを食い止めるために使いとして来たのではないか。
日本列島が別世界の陸地と入れ替わるのだ。ならば神の使いがいても非科学的とは言い切れない。
科学的に神の存在は証明出来てなくても、存在しない証明もまた出来ていないのだ。
空想上の現象である転移現象が実際に起きている以上、その可能性を捨てるのは時期尚早だろう』
二月二十日 アメリカ
『速報、アメリカ大統領死亡!
我が国を含め、世界中に衝撃が投稿時間から五分前に起きた。
定例記者会見の最中、世界一厳重なセキュリティを突破した反大統領派の男が記者に紛れ複数人が同時に壇上へと向かい、シークレットサービスの護衛を掻い潜って大統領の首にナイフで切りつけたのだ。
これが致命傷となり、大統領は即死。テロ集団は全員射殺された。
大統領は内乱を抑えるため治安維持部隊に実弾使用許可を与え、多くの不安に駆られて暴動に走った人々の命を奪ったことがある。
それが引き金で大統領の退陣思想が高まっていたが、テロを起こすことはなかった。
しばらくの間大統領はテレビ会見で遠隔会見をしており、今回今年初めて記者団に出たのだった。
これにより大統領継承権により、副大統領が大統領を継承する』
二月二十一日 アメリカ
『世界からお悔やみの声が続出。
アメリカ大統領が公の場でテロ被害に受けると言う衝撃的な事件から一夜明けた。
大統領が殺害された速報は瞬時に世界中に広がり、各国からお悔やみの声が届いている。
副大統領から大統領に昇格した新大統領は各国に謝意を述べるとともに、国内のあらゆる脅威に屈しないと宣言をした。
今年の十一月には大統領選挙があり、新大統領は十一月までの繋ぎの大統領として勤める。
新大統領は今年の大統領選挙に出馬しない考えだ』
三月一日 邦人団体ジパング
『帰国希望者の入島、半数を超える。
ジパングが公表する帰国希望者は百万人を超えている中、その半数が沖縄本島に入島したと発表した。
この帰国は完全任意のもので一切強制をしておらず、帰国してもすぐに贅沢な生活は出来ない。それでも百万人が帰国を希望し、五十万人の移住が成功したのは世界的にも珍しい事であり、移民問題を抱えるヨーロッパ諸国からは驚きの声が出ていると言う。
入国管理はジパングが行っており、帰化していても元日本人であれば入国を許可しており、代わりに純粋な外国人の入国は許可していない。出国時に検査をして確認を取っている。
ジパングは沖縄を三区画に分け、住宅区、商業区、農業区として他国に依存しない国づくりを目指すとしている。
ほかの琉球諸島も、レヴィアンや津波災害から残った自然を守りつつ移住を促進して自給自足の生活を目指す。
日本跡地は暗黒地域評議会と事前に合意した通り、九州相当の地域を開拓区として人の出入りを行い、本州、四国、北海道相当の地域は自然保護として立ち入り禁止区域とする。
九州地方相当で採掘された資源は国際社会再生の要として使われるが、法的拘束力を持って手数料を日本に支払う義務が課せられる。
新日本政府はそれを主な財源として日本再生を図る』
三月九日 暗黒地域評議会
『暗黒地域評議会改名
アメリカ、ロシア、中国の三ヶ国で構成される暗黒地域評議会の名称を、日本再開発委員会に改名。予てより国連が主張していた傘下組織になる決定を下した。
今までは日本跡地をどうするかについて地政学的に近い三ヶ国が主導する目的だったが、日本跡地での活動が定まったことで国連傘下に入る方がメリットがあると判断。同時に国際社会の批判をかわす考えもあり、国連に加わることとなった。
具体的な活動はしばらく先になるが、新たな委員会の構成は元々の三ヶ国と日本を常任理事国として続投。イギリスとフランスは二年ごとの交代。さらに非常任理事国が加わる十五ヶ国での運用となる。安保理のような拒否権はない』
三月十五日 邦人団体ジパング
『帰国希望者移送完了。
沖縄を中心に日本再建を目指すジパングは、現段階で帰国を希望する百万人の日本人の移送を完了したと発表した。
すでに移送した人々の手によって開拓が始められ、農業区画では冷害と光量不足に強い農作物を作るため、土地の耕作が始まった。
同時に港の整備に商業区域の建築も始まっている。
注目される警察と自衛隊に関しては、前職で警備員以上の仕事に従事していた人を中心に勤めてもらう。治安維持組織が素人では治安が悪化するため、装備品も原則銃火器は持たず警棒や刺股となる予定だ』
三月二十日 日本跡地
『レヴィニウム採取開始
困窮する世界経済再生の要として期待される、熱を電気にノーコストで変換し続ける夢の物質であるレヴィニウムの採取が開始された。
まずは日本全周に落下した小惑星レヴィアンと、九州区域の地表にあるものを中心に行う。
採掘許可区域外による無許可での採取を防ぐため、比較的上陸のしやすい北海道沖はロシアが警護、日本海側は中国、鹿児島沖はアメリカが護衛することとなっている。
警護費用はレヴィニウムの分配比率をその分上乗せすることで賄う。
採取されたレヴィニウムは争いの元になるのを防ぐため一度全て国連に預けられ、その後委員会を通して世界へと流通される。
レヴィニウムを不正に横流しされないよう、運搬はダイヤモンドのように0.1g単位で厳重に管理される』
三月二十四日 日本
『新日本政府発足
希望帰国者の移送が終えてから約十日が過ぎ、仮設された国会議事堂にて新日本政府が発足したことを発表した。
新日本政府初代総理はジパング代表が行い、財務省兼副首相はボランティア王が担い、各大臣もその分野で仕事に従事していた人が務める。
この内閣は一年間限定と定め、来年四月には国政選挙を行って改めて組閣することが決まっている。
国会議員は沖縄議会を参考に人数を絞り、これもまた一年としている。
まずは政府を発足することで日本再建を世界にアピールし、落ち着いた翌年に改めて真なる日本政府を立ち上げる狙いだ。
初代首相は初めての会見で、海外記者団にこう答えた。
「この日を迎えて大変うれしく思います。一年と言う期間とはいえ国を背負う大任に屈せず、百万人の国民。海外に住む五十万人の人々に恥じない仕事をしていきます。
今は多くの人が明日を恐れていると思います。私の唯一にして絶対の仕事は、一人でも多く明日を望めるようにすることです。
政治にほとんど関わっていなかった私が百万人の国の首相を果たせるかは分かりませんが、一つ言えることは絶対にあきらめません。世界中に散らばった日本人をここに集めた責任は必ず果たします。
多くの人々の助力があったとはいえ、小惑星が落ちて一年も経たずに戻ることが出来ました。ならその先に行くこともできると確信しています。
そしていつの日か日本列島が戻ってくることを、日本人一同待ち続けます。
最後に、かつてこの沖縄に住み、レヴィアンが引き起こした災害によって亡くなった沖縄県民の方々に、深い哀悼の意を捧げます」
国際法上、主権を持つ日本人によって継続されたことになるため、十一ヶ月半日本国はなかったが途切れることなく二〇一九年四月十一日から続いたこととなる。
世界最古の国としての日本は一応守られた形だ』
四月十一日 地球社会
『今日は小惑星レヴィアンが落下してからちょうど一年となる。
世界各国ではレヴィアン関連で亡くなった人々の追悼式が執り行われた。
レヴィアン落下から今日までで亡くなった人々は累計で三億七千万人を超えた。そのうちの二億五千万人は消えた日本を含む環太平洋の国々で、残りの一憶二千万人は津波被害を乗り越えた後に亡くなった人々だ。動植物の死は計測不能で、少なくとも数十種類の動植物が絶滅したとされる。
レヴィアンが落下した東部標準時十一日午後十一時二十分に全世界で一分間の黙とうが捧げられた。
同じくバチカン宮殿で黙とうを捧げたローマ教皇はこの日、世界に向けて演説を行った。
「この一年は人類史上最も過酷な一年であった。
一つの国が消え、歴史上数回しかない巨大津波が環太平洋の国々を襲い、冷害や飢餓、人が人を殺し、三億七千万という多くの、それは多くの尊い人々が失われてしまった。
空は暗く、人の心もまた暗く染めてしまう。
一体世界中で明るい気持ちを持てる人がどれだけいるのか想像もできない。
私自身もそうだ。
しかし、希望は捨ててはいけない。
空が暗いのと、心が暗いのはイコールではない。
例えどれだけ空が暗かろうと希望を捨てる義務はないのだ。
明日は必ずやってくる。いつか空は晴れて日光が世界を照らす。
日本跡地を中心に一触即発であった争いも、忽然と姿を消した正体不明の少女によって沈静化し、世界再生を第一に目指して世界は一つとなった。
方法はどうあれ、世界はレヴィアン対策のように世界再生のために一つになれたのだ。
世界は一人を見捨てはしない。人類一人一人がこの星に住む同士なのだから。
民族、地域、国、人種、宗教の枠を超え、人類と言う一点の共通点で生き延びてほしい。
世界が遠いなら隣にいる人に手を差し伸べてほしい。そして手を差し伸べた人がまた隣の人に手を伸ばし、延々と握り合っていく。
それが円環となって人類は一つとなる。
これからも様々ななことが起こるだろう。理不尽な暴力や犯罪が襲うかもしれない。
しかし忘れないでほしい。手を差し伸べ合うことを忘れた時、人は人であることを無くす。
不条理に耐え、明日を生きてほしい。
全人類、そして生き続けているであろう日本に神のご加護を」』
四月十一日
『奇跡! 十ヶ月ぶりに陽光が地表を照らした。
空が粉塵に覆われて約十ヶ月が過ぎ、多くの人が太陽を見なくなって久しい。
そんな中、気象の影響によるものかグランドゼロである日本にて粉塵の一部が割れて日光が地上にまで注ぐ奇跡が起こったのだ。
極地でも依然と粉塵が漂って日光が注がないが、十五分と短い時間とは言え地上を明るく照らした。その光景は動画で撮影され、動画配信サイトで世界中を巡った。
空を見上げるとそこは黒い雲しかないが、確かに眩い太陽はそこにある。
完全に日の光が注ぐのは数年は掛かるだろう。
けれど必ず雲は張れるのだ。
日が再び世界を照らすまで生き抜け』
外伝 アフター・レヴィアン 完
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