第50話『超国際会議(前篇)』



 採掘現場、初めて日イが邂逅した約束の湖、接続地域等、日イが絡む部分をアルタランは三日掛けて視察をした。



 イルリハランが三ヶ月掛けて理解しようとしている日本を、たった三日で資料しか見ていないアルタランが理解することなど到底不可能だが、パフォーマンスと受け止めている日本は遺憾も不満も抱かなかった。



 すでに日本は農奴政策を進めようとするアルタランに極めて遺憾を抱いているからだ。


 表向きはイルリハランが集めた資料の再確認のような形で進むも、その質問にはカマ掛けに近い、日本に不利になる言質を取るような物が多かった。


 けれど日本は百戦錬磨とは言わないが、苦い経験を幾度と経験しながら先進国として世界を相手に交渉してきた日本だ。カマ掛けに引っかからず不利になるような言質は取らせないように、営業スマイルを前面に出しながら日本を説明する。



 やはり一番質問が多いのが、結晶フォロンと核兵器だ。



 地上、地下含め核実験の映像は直撮りの形でイルリハランに提供して、おそらくはアルタランにも行き渡っているだろう。


 ただ、実際に実験しなければその資料映像の真偽の証明は出来ない。それに地上実験は一九六三年以降地下しかしていないため映像は当然古かった。


 鮮明な映像ほどCG処理は見分けがつくが、古いと逆に見分けがつきにくいので偽装がしやすい。基礎知識を知っていれば核兵器の強大さが分かっても、無ければ信用はされにくかった。


 アルタランはその威力を直に見てみたい質問をしても日本は煙に巻いた。



 核兵器自体はこの世界にある。が、あるだけで使うことは出来ない。物理的にも法的にもだ。


 そしてなにより威力を分からせるなら、地震波やクレーターなどで威力を測る地下核実験よりも、キノコ雲を出す地上実験が有効だ。


 単純明快にして最も日本にとっては厄介な方法。確実に環境汚染で非難を受け、風向きによっては浮遊都市や日本に死の灰がくることだってあり得る。


 なにより核実験が一度もない綺麗な星を、わざわざ核で汚染する必要はない。



 知らないからこそ要求できるのであって、知っているからこそ実験から実戦まで核は使わず、政治的カードのみで終わらせたいのが日本の絶対の方針だ。


 ただし、その核実験を見たいのは日本を危険視するためのアルタランの政治的策略であることを見抜いている。核兵器を保有する日本は極めて危険だ、と核実験の映像と共に喧伝すれば農奴政策を推し進めやすくなる。



 日本はそうはさせまいと言葉には気を付けた。


 特にマルターニ語に訳す羽熊は神経をすり減らしながら一言一言注意深く選んで、なるべく日本語と同じ意味合いで話す。


 それはルィルも同じ。


 そうして無意味に近く、けれど両者ともに見えない殴り合いの応酬を繰り返しながら三日が過ぎ、ついに来る最終日。



 ちなみに、この手の視察では必ずある夕食会は行っていない。これは日本からの要望で、三日と言う準備期間では満足な料理を用意できないと言うことを建前に、食中毒などを偽装されては困る本音があった。


 基本として、日本は今のアルタランを信用していない。農奴政策と言う日本を陥れる政策を完全撤回しない限り、いま信用できるのは三ヶ月苦楽を共にしたラッサロン天空基地のみだ。



 最終日に行われる首脳会談はラッサロン天空基地で行われる。


 参加する国は、日本、アルタラン理事七ヶ国、日本委員会理事国を除く五ヶ国、イルリハラン王国、エルマを含むラッサロン天空基地幹部、ユーストルと隣接する国としてレーゲン共和国。


 つまるところ農奴政策に関わる国は全員参加と言う超国際会議となった。


 ほとんどの国が大使または外務次官など外務関係高官だが、二ヶ国だけは首脳が参加した。


 日本とイルリハラン。佐々木源五郎総理とリクト・ムーア・イルリハラン国王代理だ。



 ラッサロン天空基地の会議室。宙に浮く円形のテーブルに三十近い浮く椅子に、十五ヶ国三十人が着席する。


 壁際には厳選された大手メディアがいて、夥しい数の写真を撮る。


 場所がメディア用ではないので写真のみで映像は事前に撮影をするのみだ。会議の内容も完全防音された部屋では記者たちも聞く耳を立てることも出来ない。


 報道に使われる写真撮影が終わり、イルリハラン軍広報官の指示で報道陣は退出する。


 しんと静まり返る会議室。



「……では、始めようか」


 進行はアルタラン安保理議長国のモーロットで、テーブルに着く三十人を一瞥して言葉を発した。


「本日はまさに歴史に深く刻まれる日となろう。各国代表共々、それは深く理解した上で会議に参加してもらいたい」


 モーロットは佐々木総理と、隣に座る羽熊を見る。


「なお、ニホンはマルターニ語のみの習得であるため、各自発言はマルターニ語のみとする」



 国連でも国際機関の公用語は英語を筆頭に六ヶ国語があり、他の国際機関でも二ヶ国から三ヶ国語は当たり前だ。フィリア社会の国際機関も同じく複数の公用語を持ち、その数は各大陸の統一言語と重なる。


 その中にはもちろんマルターニ語が含まれ、アルタランに勤める人であればまず話せた。


 十五ヶ国三十人もいる超国際会議の言葉の壁は、アルタランと言う国際機関の存在、羽熊の努力もあって存在せず、手間を掛けることなく進めることが出来だのだった。



「では、史上初の異星国家首脳を含む国際会議を始める」


 モーロット議長の宣言により各国代表は拍手をする。日本はその作法を知らないからワンテンポ遅れて拍手をする。


「議題は知っての通り我々フィリア社会は、遥か彼方の星で生まれ繁栄した異星国家ニホンにどう向かい合うか。もう一つは、異星国家ニホンが現れたことで突如発覚した無尽蔵とも言えるフォロン結晶石についてである」



 会議内容自体は非公開で、公表内容はあとでどうとでもなるがモーロット議員は言葉に気を付ける。


 イルリハラン経由で日本が農奴政策を知らないわけがないはずだが、事実上の農奴政策とするまでは言質は取らせないそうだ。


 ならば日本もその流れに乗る。


 四面楚歌なのに敢えて藪をつついて蛇を出す必要はない。



「初日はイルリハラン王国軍ラッサロン浮遊基地の兵士たちへの意識調査、翌日から三日間は地質調査をはじめ複数個所を見させてもらった。イルリハランから提供された情報に誤りが無いかの再確認を兼ねていたが、概ね情報通りであった」


 理事国、日本委員会の面々が頷く。


「異星国家ニホンは大変友好的で、我々が長年抱いて来た創造的異星人とは全くの逆である」


 意外にもモーロットは日本を褒めた。



「気になる軍事力だが、レヴィロン機関を持たず、チキュウにはフォロンがないため非浮遊機のみの航空戦力を持っている。我々と比べて著しく機動力が低いと断言して問題ないだろう」


 地球では飛び、フィリアでは浮く。飛ぶと浮くは似て非なるものだからそう評価されて仕方ない。


「だがその反面、地上や水上を移動する乗り物を探すのが困難だ。地上を移動することを当たり前とし、今後レヴィロン機関を手にして浮遊化に至れば、いずれは侮れない戦力になる可能性が高い」


 羽熊はモーロットが話す警戒を佐々木総理に訳すと、すかさず手を挙げた。



「モーロット議長、我が国は憲法により軍事的侵略行為は放棄しています。今後国防軍にレヴィロン機関を搭載し、浮遊化に成功しようと、他国への脅威はありえないと言わせてもらいます。我が軍は日本を守るためだけの組織であります」


「……ササキ首相、それはどの国も言えることだ。どの国も侵略を目的として軍は持っていない」



 軍は攻めるために持つのではなく守るために持つ。侵略は、自国を守る大義名分で他国を攻撃するのだ。それは地球でも歴史が証明している。



「ではモーロット議長、アルタラン安全保障理事会としては、日本はいずれ軍事的侵略行動を行うと疑っていると見てよろしいですかな?」


「それは当然だろう? 日本以外の国は遥かなる太古から共に、世界共通の魔獣を絶滅に追い込んで今日に至っている。しかし貴国は我々とは異なる社会で発展してきた。腹の内が分からない間は警戒するのが普通だ」



 言っていることはもっともだ。それは日本も承知している。


「分かりました。なら質問を変えましょう。転移から今日までの我が国の行動で、軍事的侵攻を疑うそぶりは見られましたかな?」


 日本は先の会見で、声明ではなく過程を見るよう言っている。そのことを聞いているのだ。


「……前線基地は今も拡大中だ。それだけでも警戒するに値する」


 それを解釈でモーロットは返す。



「日本とユーストルを繋ぐ陸路、通称接続地域と呼んでいますが、そこは今現在国防軍陸上自衛隊が運用しています。今後情勢が落ち着いたところで陸上自衛隊は撤収し、国境の検問所として運用する予定です」



 接続地域の建設計画は、急ピッチながら駐屯地だけでなく貿易と国境検問所としての再活用を考え、情勢が落ち着き次第シフトする手はずとなっていた。


 神栖市にとっては近代都市レベルに大発展することが確立されたわけだが、農業を中心に生活をする住人からすればはた迷惑な話でもある。


 そこは政府と協議を重ねて妥協案を模索してもらうほかない。



「軍の撤退、これは政府の正式な決定でよろしいか?」


「撤収は決定事項ですが、時期は安定したと判断した時です」


 いくら撤収を決めても、それが二十年後では決めていないも当然だ。佐々木総理もさらりとかわす。


「ササキ首相、安全保障の観点からニホンの軍事力は未知数だ。異星人であり、地に付く人種であれば我々との軍事戦略、戦術は異なる。いかに転移から今日まで平和を標榜しても、今後もそうである確証がない」



 たった三ヶ月では政治的信用を得ることは出来ず、アルタランはそこを突く。


 こればかりは日本側も反論できない。


「では伺いましょう。アルタランは我々に何を求めますか?」


 佐々木総理はさっそく会議の本質に手を伸ばした。



「軍事力の無条件放棄だ」



 実質の農奴政策を進めるならその条件は必須だ。抵抗する力を持たされたら使役できなくなる。しかしそれを直球で来るとは、羽熊は内心ぎょっとした。


「核爆弾と言うバスタトリア砲に匹敵する兵器が貴国はともかく技術が存在していることも看過できない。核兵器の情報開示、及びニホン軍の解体をアルタランはニホンに求める。その代わり、ニホンの安全は我々安保理が保証する」


 武器を捨てる代わりに安全を手に入れる。一億二千万人の安全を守るなら、と思うが詭弁だ。


 要は飼い殺しをしようとするのが素人目でもわかる。


「モーロット議長、それはあまりにも直球過ぎでは?」


 羽熊がその言葉を訳している間、エルマが口を開いた。



「彼らはここでの活動の何の準備もなく、地球で起きた自然災害に対処した結果この星へと来ました。ニホンは自分の立場を十分に理解し、同時に一億を超える自国民を守るために平和的な活動を続けてきたのです。地球の国々との集団的自衛権が行使できない以上、軍事力は残された数少ない安全保障です。それを安全のためとはいえ奪えば日本国民の反発は必至です」


「エルマ大使は接触初期からニホンと関わっている。だからニホンを信用して味方をするのも無理はない」


「信頼に関係なく、客観的と合理的な考えです」


「エルマ、客観や合理を言う前に異星人であることを忘れるな」


 エルマにかき回されることを嫌ったが、イルリハラン国王代理のリクトが加わる。



「考え方が根本から違うんだ。こちらの常識を当てはめるな」


「毎日接していれば考え方が同じであることは分かります。リクト国王代理も、アルタランも、日本とほとんど接していないから創造的異星人の偏見が抜け出せていないんです」


 若造が、と小さい声で誰かが呟いた。三十人といながら静寂な部屋だからこそ声が通る。


「固定概念に縛られて臨機応変に動けない人よりはマシと思いますがね」



 と、エルマはさわやかな笑顔で世界の重鎮たちに喧嘩を売った。


 これが日本の国会なら紛糾するところ、さすがに十五ヶ国三十人となれば騒ぐ国はいない。多国籍だから騒げば自分の国の評価が下がると考えてしまうからだ。



「警戒は当然でも理解をしない理由がありません。中立を謳うのなら警戒と理解は同時にするべきでしょう? 我々ラッサロン側は日本と深く関わっているから理解の幅が広くとも、警戒をしていないわけではありません。日本と接していないリクト国王代理は逆に理解の幅が狭くても、アルタランは半々でなければならない。私はそれがアルタランの本来の姿と認識しています」



 明らかな挑発行為。いかに王室の一員でイルリハラン大使でも、あそこまで挑発行為をすれば自身の立場も危うくなるはずだ。


 リクト国王代理の顔色はこの政治の場でもお構いなしに怒りに満ちている。馬鹿にされていると同じなのだから仕方ないが、エルマほど聡明な人なら若気の至りで言いたい放題言うはずがない。


 もしかしたら今の立場が不動になる細工をしているのだろうか。



「公平さを欠いているとエルマ大使は申したいのか?」


「真偽はどうあれ、日本は軍事侵攻を一切していません。実は我々を信用させるための策略だとしても、これまでの経緯と今後の警戒は同等で見るべきです。ですが平和的交流を続ける孤立無援の日本から、安全保障を条件に武装解除を要求するのは、明らかに日本を警戒しているとしか見えません」


「エルマ大使、ニホンは自国に最強兵器と謡う核兵器の有無を明らかにしていない。実験映像は見せてもらったが、真実であれば首都級の浮遊都市は間違いなく壊滅するだろう。その上放射能で生き延びた人まで遺伝的に死が訪れるのであれば、本性を表す前に安全確保に乗り出すのは自然な考えと言える。違うかね?」



 それだけではない。核兵器は直接的な熱と衝撃波だけでなく、高高度で爆発させれば半径千キロ以上で電磁パルスが襲って電子機器を破壊することができる。


 いくらフィリアが広大で天空島が密集していないとはいえ、直径二千から三千キロにはいくつもの天空島があり、首都級天空島上空で爆発させれば数千万人が街を失う。建物から逃げきれずに落ちる可能性だってある。



 けれど電磁パルスは羽熊の知る限り一切話していない。これは実験映像から伝わる危険度を桁違いに上げるため、外交カードも含めて言わないよう言われていたからだ。


 エルマも地球側最強兵器を出されると即座の返答が出来ない。


 本音で言えば信用してくれているだろうが、政治の観点から言えばないとは断言できない。


 通訳を終えると佐々木総理が挙手した。



「いま、核兵器について話がありましたのでお答えいたします。今現在、我が国には核兵器があります」


 羽熊は佐々木総理を見る。


「構いません。訳してください」


 言われて羽熊はマルターニ語で核兵器の存在を明かす。


 当然日本以外全員が動揺するが、佐々木総理は構わず続ける。



「その数など詳細な情報は伏せさせていただきますが、有無に関してはあると明言させていただきます」


 佐々木総理は核兵器と言う強大な政治的カードを切った。


「核兵器は過去に二発が我が国に落とされ、六十万人以上の人が亡くなりました。転移以前は核兵器は作らず、持たず、持ち込ませないを国是として歴代政権が守ってきました。しかし転移し、孤立無援となった今、忌むべき核兵器は我が国を守る最後の盾として保有する考えを持っています」



 日本が核兵器を使う場合は国を守る名目だが、アルタランからすれば攻撃として使うと思うだろう。


 この認識の差を埋めて行かなければ、この核兵器のカードは日本に牙をむくことになる。


「前もって明言させていただきますが、この核兵器は日本を守る最後の手段として考えており、先制攻撃で使用することは一切考えておりません。日本はあくまで対話による解決を強く望んでおり、戦闘と戦争は断固回避する姿勢です」


 佐々木総理は核兵器による反応が来る前にそう釘を指す。



「ササキ首相、もう一度確認するが、二発で六十万人以上の人命を奪ったチキュウ最強の兵器を保有しているのか?」


 さすがのモーロットも動揺を隠しきれないらしく、僅かに声を震わせながら再確認する。



「はい。転移をする以前であれば我が国が保持することは法律と国民感情から不可能でありました。保有している核兵器も我が国で製造したものではなく、共に転移した外国の軍艦に装備されていたものです。同盟国がおらず、イルリハラン王国とも軍事協定は愚か国交条約も結べてはいません。完全なる孤立無援の我が国に於いて、核兵器は最後の切り札となっております。世論もこの情勢下では容認する声が八割を超えています」



 どういう意味での容認と言わないあたり政治家だ。


 それをこの場でもさらりと言うのだからさすがは総理だ。訳する羽熊はツッコまれないかヒヤヒヤである。


「モーロット議長、話を戻しますが、我が国は自身を守るための実力組織である国防軍及び軍装備の解体はしません」


 堂々と、佐々木総理は二十人以上の異星人を相手に言い切る。その顔には緊張の色も汗もかいてはいない。


「ニホンが最強兵器である核兵器を持っているのなら、我がイルリハランは考えは大きく変えなければならないな」


 挙手しながらリクト国王代理が話す。



「ユーストルにはラッサロン浮遊基地が転移直後から来て活動をしている。その人数は五万人を超え、イルリハラン軍の中では主戦力の一つだ。異星国家ニホンと言うイレギュラーに対処するため、ハウアー国王は艦隊ではなく基地そのものを派遣した。どんな意図で使うにせよ、基地に被害が及ぶ可能性があるのであれば移動を考えなければならない。五万人の兵を危険にさらすわけにはいかないからな」


 ラッサロン天空基地の撤退。リクト国王代理は暗にそう示唆する。


 予期してはいたが、やはりそのカードを切ってきた。



 政変したイルリハランは日本の味方から離れても、転移以来ずっと接してきたラッサロンは日本に深い理解を示してくれていた。


 さすがに軍事的な味方は出来なくても、理解できる現地の人がいるのは大変心強かった。


 リクト国王代理はそこを奪いに来た。ラッサロンを奪われたら日本はいよいよ孤独になる。


 ルィルもリクト国王代理の言葉を聞いて焦りの表情を浮かべた。



「ラッサロン浮遊基地は、明日ユーストルから撤収させる」



 日本が核兵器を持ち、情勢悪化が考えられ、果てに五万人の兵と主力艦隊と施設を失う可能性があれば撤収は向こう側すれば合理的な判断だ。


「リクト国王代理、ご承知での決断かとは思いますが、ラッサロン天空基地には日本大使館が設置されています。他国軍事施設内に大使館を設置するのは我々の社会でも異例のことではありますが、ハウアー国王陛下の許可の元で合法的に設置され、国家承認と信任状を捧呈したことで治外法権が発生しております。可動する土地に不動の施設を設置する矛盾は、事前の協議で外務省に移動の旨を三日前から伝えるとで解決しています」



 さすがに多少の移動は状況によって行わなければならず、この場合の移動はユーストル外に出ることだ。


「ユーストルからラッサロン天空基地を撤収させるのならば、一度外務省に伝えてその三日後を願いいたします」


「核兵器を持つニホンのそばに大事な兵を置いておくわけにはいかない。明日、移動する」


 ハウアー政権時の決め事を無視してまで、リクト国王代理は日本から味方を排除するようだ。約束を無視して国の信用を落とす以上に、味方を奪う方が得と見たか。



「……失礼ですがリクト国王代理、その命令をラッサロン浮遊基地は了解できません」



 いよいよもって最後の味方が奪われた直後、ホルサー司令官が否定した。


 突然の否定に、日本側、アルタラン側とホルサー司令官を見る。


「なんだと? いま何と言った」


「ラッサロン浮遊基地のユーストルからの移動は了解できません」


「ホルサー大将、何かの冗談か? 私は代理とはいえ王であるぞ」


「承知しております」


「ならば最高司令官として出す私の命令が聞けないと言うことか?」


「そうです」


 明らかに様子がおかしく、何も知らない羽熊はどう訳して総理に伝えればいいのか困惑してしまう。



 それはアルタラン側も同様のようで、隣同士で耳打ちしあっている。


「ホルサー大将、分かっているのか? 私の命令を無視すると言うことは軍規違反だ。これまでのキャリアを捨てるつもりか」


「いえ、軍規には反しません。今現在、ラッサロン浮遊基地に限り指揮権はリクト国王代理にはありませんので」


「なに?」


 突然の謀反宣言に、会議室はざわめきが広がる。真っ先に動揺しそうなリクト国王代理は、その立場からか平静を維持する。


「一体どういうことだ。私がハウアー国王の代理で就いていることを不服として謀反を起こす気か?」



「いいえ違います叔父上」



 すっかり日本とアルタランは蚊帳の外だ。


「決して叔父上の判断を不服として謀反しているわけではありません。合法的にラッサロン浮遊基地は最高指揮官が変わったのです」


「……っ! まさか!」



「ハウアー国王が倒れられる前に出していた勅令により、今現在ラッサロン浮遊基地に所属する全ての指揮権は私、エルマ・イラ・イルリハランにあります」



「は?」


 思わず羽熊は呟いてしまう。


「羽熊博士、何と言っているんですか?」


 羽熊は分かっても佐々木総理は意味が伝わらない。予想を超えた事態についていくのが大変だが、これだけは分かった。



「ラッサロン天空基地が、イルリハラン政府から独立しました」

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