第12話『記者会見(前篇)』



 イルリハランに点在する百の内一割近くの浮遊基地は、緊急な状況に応じて政府と防務省の許可を受けずに独自の判断で動くことができる。これは広大な領土に反して人口及び軍人が少なすぎるため、律儀に指揮系統を順守すると対応が後手に回るからだ。内陸に点在する基地は緊急な状況が少ないので独断行動は出来ないが、国境沿いに配備された五万人以上が所属する浮遊基地に限っては、基地司令官に全権が与えられて防務省や政府の判断を必要としない。もちろん連絡は義務だし、あくまで母国に迫る脅威を排除して必要であれば攻め入るために存在しているので、基地の私物化を防ぐため強制的に全権を排除出来る規則はある。



 ラッサロンもその全権が与えられた基地の一つだ。



 そのラッサロン浮遊基地は八月二十九日の午後七時三十分より、基地の警戒レベルは五段階の内最高のレベル五に設定された。



 浮遊基地警戒レベル五は、敵国が軍事侵略してくることが確定し、管轄から内陸に掛け甚大な被害の可能性が高くなった。よって当該浮遊基地は全能力を可能な限り開放して殲滅することを良しする。さらに国境を越えて浮遊基地を他国に無許可で移動することも可能で、事実上侵略可能とする。



 つまり、このレベルが発動された今、ラッサロン浮遊基地は合法的に異星国家ニホンへ侵略は可能となった。だが此度のレベル設定はニホン侵略を目的としたわけではない。



 ニホンから来る来賓の安全を全力で守るために設定されたものだ。



「知っての通り、今夜イルリハランの報道機関に対してニホンが記者会見を開く。俺たちは他の隊とは違い、会見を開く言語学者のハグマとニホンの外務省のキノミヤシズカの護衛をすることとなった」



 八月三十日。ニホンがユーストルに転移して今日で十日目の朝のミーティングで、リィア大尉は上官のみの会議内容を報告する。



 その報告にリィアとルィル、新たに隊に加わったエルマを除く十二人の部下たちは驚きと歓喜の声を上げる。



 世界で初めてニホンと接触したことにより、元はユーストルの一偵察隊だったところニホン専属の偵察もとい交流部隊として活動することとなった。その甲斐あってその他の兵士では任命されない異星人の護衛をすることになれば、検疫など諸々の問題はあれ大きな誉れだ。



 現在、異星国家偵察部隊は、偵察隊七〇三と同時期にニホン周辺を偵察していた他の隊も任命されていて三つの隊が活動している。だがその三つの隊は交代ではなく同時に活動して効果的にニホン語、文化、文明、思想の収集にあたっていた。



 今回記者会見を開くのは異星国家偵察部隊の中で最も七〇三と接していたハグマ達だ。キノミヤは初耳だが外務省と聞けば納得できる。



「会見をする場所はいつもの交流地ではなく保安の関係からここの第一講堂となった。あそこなら千人は軽くはいるからな」



「隊長、ニホン軍も同行するんですか?」



 質問をするのはマンローだ。



「自衛用の拳銃のみを持って五名来る予定だ。俺たちはその五人も護衛をする」



「軍人を軍人が護衛するのも変な話ですね。武器の携帯を許可するのも異例ですよ?」



「向こうにとっても心の安らぎがないときついだろ。それに無差別に報道員を殺して宣戦布告をしても、ハグマたちは二度とニホンに帰れないしニホンを攻める理由になる。いくら侵略目的で来てもするだけ馬鹿だ」



 ただでさえ基地の警戒レベルは最大なのに奇襲をかけても失敗するのは目に見えている。



「分かりました。にしても急な話ですね。普通は一週間か二週間後では?」



 まだレーゲンがユーストルへ侵攻準備をしていることも、ルィルが独断でフィリア技術をニホンに提供していた事実も知るのはごく一部だ。



 混乱と情報漏えいを防ぐためにレーゲンに関しては記者会見後に知らせる予定で、ルィルに関しては怪我の功名とはいえ完全に軍規違反なので機密扱いである。



「ニホンがなぜこの地に来たのか、どうやって来たのかは我々を含めて全世界が知りたいことだ。今までは言葉が分からないから出来なかったが、片言でも言えるようになったから向こうも早めに言いたいと言ってきたんだ。いつまでも聞けないと不安だけが募って攻め滅ぼせと言われかねないからな」



「ならニホンは元首を出すのでは? なぜ外務省を?」



 ニホンがこの地に来た理由を話すのであれば、まず国家元首が話すのが筋と誰もが考える。しかしニホンが出したのは一番マルターニ語を理解しているハグマと外務省の官僚だ。



 国家元首など政府を出せないことを知っているリィアたちは受け入れられるが、それを知らないのであればその疑問は自然と言える。



「テロを警戒してのことだ。ハグマや外務省のキノミヤの命を蔑ろにするわけじゃないが、万が一ニホンを敵視して凶弾を撃つ兵士や報道員がいないとも限らない。この状況でニホンの元首が死ねばどんな動きをするのか予想も出来ないし、バスタトリア砲に近い兵器をニホンが持っていれば極小国であっても脅威だ」



 バスタトリア砲の名前を聞いて全員が息を飲む。まだ実戦では投入されていない兵器であるが、レヴィロン機関を新規開発できる国であれば開発可能な兵器で、下手をすると国家だけでなくこのフィリアの地形すら万年単位で変わらない変化を与えてしまう。



 もしこの兵器を主軸とした戦争が起これば滅亡は必然だ。



 その分抑止力としては十分あるため、イルリハランも特務艦の一つにその兵器を搭載している。



「まさか。あんな小さな国にバスタトリア砲があるわけ……」


「文明の発展は兵器の発展と同じだ。文明が発達して武器が未熟なことなんてない」



 事実、兵器を民間に転用することは歴史上多々ある。逆に民間用を兵器に転用することもあるため、その二つにズレが起こることはありえない。



 もっとも知識と技術はあっても持たない国もあるが。



「だからニホンも用心として記者会見は通訳をハグマで声明はキノミヤがする。俺たちは全員で七人を護衛し、無事にニホンに帰す。その際不審者がいた場合職質を掛けて、自分の勘でいいから不審に思えば憲兵に差し出せ。徹底して身分証明と身体検査をしても八百人近く来ると漏れる可能性があるからな。今回に限っては不審に思うだけで一晩懲罰房に入れていい」



 まるで国王か国賓を護衛するような対応だ。ニホンからすればおそらく権威的に見て一般から数歩進んだ程度だろう。しかしフィリア外知的生物のレッテルを張られると一般人どころかホームレスでさえ国賓扱いをしてしまう。



「隊長、ちなみに報道関係者はどうやってここに来るんです? 一番近い都市だとマリュスで千キロくらい離れてますよ? まさかロケット旅客機で直接くるとか?」



「テロと検疫を考えてマリュスからこの基地の輸送艦で連れてくる。ジェットでもロケットでも直接は来させない」



 まだユーストルは全域で民間の立ち入りは禁止だ。いくら記者会見を開くからと言っても民間の旅客機を入れるわけにはいかない。これはニホンから攻撃を受ける危険ではなく、民間人を引き入れたことによる交流のトラブルを防ぐためでもあった。



 もしニホンに非がないのにユーストル内で民間人の行方不明者を出せば、誰でもニホンが拉致したと考える。なれば調査だ戦争だとニホンの都合も考えず世論が動き、その世論に政府が折れることも考えられる。



 なんにせよ不安を作らないためには不規則な言動をする民間人は極力入れないのが一番だ。



 今回の記者会見も誰一人浮遊基地から出さないよう考えられ、その一環として不安と言う勘だけで懲罰房に入れられることとなった。



 特報を求めて無茶をするのが報道員だから、最大限の用心を常にしなければ取り返しのつかないことになる。



「今日一日の流れだが、今日の交流はせずニホン人を受け入れる準備をし、正装して午後五時に向こうのオスプレイと呼ぶ非浮遊機来るのを迎える」



 あの両肩に二機のプロペラを搭載した非浮遊機だ。ニホンとしても安全と分かってる異星人の乗り物に乗るのはまだ怖いだろう。そのため直接向こうの乗り物がこの基地へと乗り込んでくる。



「そして七時までミーティングをした後に記者会見を五時間開き、日付が変わると同時に終了。ハグマ達はオスプレイで帰ってもらう」



 記者会見に五時間の時間を用意したのは相当数の質問があると見込んでのことだ。全く異なる生活環境に国際社会、惑星の大きさから地形の違いでも発展に違いが出てくるから、防務省が公開している以上に気になる質問が出るはずだ。



「何か質問はあるか?」



 リィアの問いにティアが手を挙げた。



「まあ多分私たちが手を貸すと思うんですが、ニホン人は出入り口通れませんよね? やっぱり私たちが持ち上げるんですか?」



 空に立つ人と地に付く人の生活で如実に表れる違いは高さだ。



 交流の時にハグマにタブレットでニホンの街並みを見せてもらったが、その全てが地に付いた生活を前提としている。逆に地に付いた生活を前提としないリーアンは、入り口一つ高さを持っている。



 分かりやすく説明すると、部屋に入るための入り口も部屋の高さの中間にあって地面ではない。扉は平均で地面から三メートルの高さにあるので、二メートルにも満たないニホン人ではそもそも部屋に入ることすらできない。



 中には天地全てつかう入り口もあるが、一般的には地面から離れたところに入り口があった。



「ああ。ティアの言う通り高さについては俺たちが補助する。外務省官僚のキノミヤは女性だからルィルとティアが補助してやってくれ。他の男は俺たちがする。嫌とか言うなよ。マンロー露骨に嫌な顔すんな」



「いやー、やっぱりおんぶするなら女の人が良いかなーって」



「言っとくがキノミヤは三十八歳だぞ。チキュウとフィリアは年間日数が一ヶ月近く違うし、俺たちと向こうの寿命も四十年近く違うから正確には言えないが、まあ五歳から十歳プラスと見とけ」



「やっぱり男でいいです」



 そのマンローの態度にルィルとティアはジトッとした目で見る。



「そうそう、恐らく報道員たちは俺たちも取材しようとするだろうが、任務中と言うことで無視していい。もししつこければ不審者扱いで憲兵に差し出せ」



 ユリアーティはラッサロンの中では一番ニホンに触れている。そしてそれは防務省経由で公開されていてニホンに関するニュースで度々登場していた。



 一番ニホンに近い部隊であることで取材申し込みは千件を超すそうだ。そんな部隊が近くにいれば記者会見ついでに取材をしたい輩が出ても不思議ではない。



 特にルィルは美人兵士と喜んでいいのか複雑な肩書きで報道され、広報で止めているがルィルに取材したい人も多くいるらしい。いったいどこで調べたのか親への取材もしている。



 ただ、報道陣としては娘の晴れ舞台を期待する親の言葉が欲しかっただろうが、大喧嘩をした末で家を出たのもあって一言目に「バカ娘」と出て絶句をさせたときは笑わせてもらった。



「俺とルィルは特に注目されているから気を付けろ。不注意な返答でユリアーティを辞めさせられたら損だからな」



「そうですね。それだけは嫌です」



 様々な偶然が重なったからとはいえ、史上初の異星人とのファーストコンタクターとなり、それが今も継続しているのにマスゴミの質問で辞めさせられたら墓まで後悔する。



 ルィルは強くうなずき、他のユリアーティのメンバーもうなずいた。


 なんだかんだと他のみんなもニホンとの交流は楽しいようだ。



 そしてミーティングは終わり、ユリアーティはニホンを受け入れる準備に取り掛かった。



 約五万人を収容して運用しているラッサロン浮遊基地は、三交代制で二十四時間フル稼働している。常に一万五千人以上が活動しているが、今日に限っては日勤の兵士約千人近くが通常業務から離れてニホン受け入れの準備に取り掛かった。



 ニホン人は地に付く人であるため、地面を移動することからまず取り掛かるのは床の掃除だ。



 ニホンから見れば信じられないだろうが、空に立つ人種にとって床の汚れはあまり気にしない。一応清潔を保つために床の掃除を新兵とロボット掃除機に任せているが、広大な敷地を掃除出来るロボット掃除機はまだないので数が揃わず取りこぼしがあり、新兵も地面に近づくのを避けたいのと、心構えがまだなっていないので掃除率は三割から四割と言ったところだった。



 だがニホン人が来るのに汚い地面を移動させるわけにはいかないと、新兵から一等兵まで駆り出し、移動する予定の区画の大掃除を行った。



 記者会見会場の第一講堂は、地下五階で基地の大体中心の位置にある。ラッサロンの大きさは五キロでその大体中心部なので、基地上部離着陸場の入り口から距離は二キロにも及ぶ。



 リィア率いるユリアーティ偵察部隊は基地上部離着陸場の一角に、ニホン専用の着陸場所を用意するのだが、その用意はニホンで言う『ヘリポート』と呼ばれるHを〇で囲ったマークを描いてほしいとのことだった。



 今後またオスプレイやヘリコプターが基地に来る可能性を考え、これを機に専用の場所を用意することも視野に入れている。



 ラッサロンに限らず全世界の空港は浮遊機の大きさによって着陸場所が異なる。小さければ五メートル、大きければ五百メートルを超すのもあるため、大きさに合った離着陸場を使う。オスプレイは二十メートルもあれば収まるので、比較的建物に近いが使用頻度の少ない場所が選ばれて黄色いペンキを使って描き始めた。



 けれどこれは言ってしまえばすごく簡単である。曲がらぬよう測量しながらだが直径二十メートルの〇とHで終わるのだから楽以外にない。



 その逆に繊細な注意を要求するのが保安関係だ。



 史上初の異星人が民間の報道関係者の前に出るともなれば、テロを警戒して徹底的な確認をしなければならない。条件としてイルリハラン国籍で戸籍がはっきりし、個人ではなく会社に属する人とされ、万が一レーゲン人やニホン人を快く思わない国の人が来て凶弾を撃たれたら取り返しのつかないことになる。それを防ぐためには身分証明、身体検査をして正真正銘純粋な報道員であることを確認することとなった。



 常識であればたっぷりと時間をかけて安全対策をするのに、たった一日半で安全を確保する矛盾は大変以外にない。



 ラッサロン浮遊基地は大型軍事基地だが国際施設ではないので、徹底とは言えない程度の身分確認しか行わない。だからイルリハランは急きょ、総務省から個人情報にアクセスできる生体認証の設備を取り寄せることとなった。



 まずはラッサロンから輸送艦を最寄りの浮遊都市であるマリュスへと派遣し、そこで集まっている報道陣たち全員を検査をして乗艦。さらに成りすましを防止するため移動途中でもう一度。到着してからもう一度。最後に記者会見場でもう一度の計四度もの確認を行う。



 これは国王に謁見する際の確認の倍もあり、それだけニホン人を必ず守るようラッサロン、防務省、政府は判断したのだ。



 もう一つ重要な準備として検疫対策がある。ラッサロンはすでに最悪ニホン産の病原菌に汚染されて現在潜伏期間中の可能性があり、外部から来る報道員に病気をうつさせて各地に散らばらせ、そこで同時多発に原因不明の病が流行しては大問題どころの騒ぎではなくなる。



 なのでラッサロンには千着以上の防護服を用意し、除染と着替えが出来る施設をユーストルの山脈付近に設置して除染済みの輸送艦から中間地点に進み、防護服に着替えて汚染されている輸送艦に乗り換えることとなった。



 これらを全て一日半でしなければならないから相当に大変だ。しかし怪我の功名でルィルがハグマに渡した無線機によって半日以上の時間短縮が成された。実際に許可が下りたのは午後だったが計画自体は数時間前から考えられたのでなんとか間に合いそうである。



 だったら一日の謹慎処分とかしなくてもよかったのではと考えてしまうが、極めて例外的で投獄されても致し方ないと言われれば何も言えない。リィア隊長に殴られた後頭部はまだ痛い。



 それとレーゲンを中心とした国際部隊が集結していることは基地全体に知れ渡っている。と言っても秘密裏のユーストル侵攻準備ではなく、いつもこの時期になると共同訓練しているからで集結すること自体は別段気にすることはなかった。



 だがニホンの声明によって反応するかもしれないと言う建前で、防空警戒は最大レベルで行っていた。万が一向こうが密かに要求してきたニホンの声明に不服として侵攻してくる可能性があるからだ。



 向こうが求める答えは、レーゲンの都合にイルリハランとニホンが振り回されること。政府レベルではなく行政レベルですればある程度に抑えられ、かつ秘密裏だからこちらの都合で声明が発表できる風に装えるが、声明を受け入れられないとして侵攻してくることは十分にあり得る。



 しかし政治的に見れば、レーゲンが侵攻条件をリークしたとしたところで政府の人間でない上に先手はこちらから打ったし、そんな事実は知らないと言えば向こうの戯言で終わるだろう。何よりニホンの声明をイルリハランは転移初日から求めていたから、ニホンの口から今日する理由を言えば済んで侵攻の建前は消える。



 そうしているうちに時間は過ぎていき、訪れた午後四時四十五分。



 正装に身を包み待つユリアーティ偵察部隊に無線が入った。



『――ザザ――こちら、ニホン軍、オスプレイに、乗る、ハグマです。イルリハラン軍、聞こえますか?』



 ルィルが密かに手渡した熱発電式民間用無線機の周波数より連絡が入り、それをユリアーティ偵察部隊全員が共有しつつリィアが答える。



「よく、聞こえます。待って、ました」



 声の主は変わらずのハグマで、リィアは聞き取りやすくはっきりと片言で応える。



『あと、五分で、着きます』



 ニホン人は時間に正確だ。約束の時間から遅れることはなく、むしろそれよりも前に着く場合が多い。午前九時に会う予定でも八時五十分にはすでに到着しているので、大体ピッタリか少し遅れるイルリハラン人とは大違いだ。



 リィアは双眼鏡を片手にニホン方面を見る。



「こちらリィア、オスプレイ、見えてます。こちらの、準備は、大丈夫、です。そのまま、来てください」



 双眼鏡から見える景色には一機の双発プロペラによって空に立つ航空力学式非浮遊機がいた。信頼の表れだろう。ニホンの護衛機はなく単機で近づいてきている。



『サンファー。キチョウ、ソノママラッサロンニイッテダイジョウブデス』



 礼の後の言葉は搭乗者に向かってだろう。



『報道員は、何人、来てますか?』



「イルリハラン、全て、から、八百人、来てます。安全は、大丈夫です」



『八百!? そんなに、来たんですか?』



「異星国家、を、知る、機会、ですから。一人、一人、確認、して、武器、持って、ない」



 すでにラッサロンには報道員はすでに到着していて、四度の確認の内国籍、戸籍、思想諸々で五十人近くが引っかかった。一番最悪だったのがカメラに分解した拳銃があったことで、その者は武器の不当所持で警察に引き渡している。



 四度の確認で万全かどうかは時間の短さから不安が残るが、それでも安全確率は上がったはずだ。最悪の時は身を挺して守るだけ。



 次第にオスプレイのエンジン音が大きくなる。



「……よし、誘導するぞ。ユリアーティ偵察隊はオスプレイの周囲に展開。プロペラに十分注意しろ」



 ニホン式の離着陸場に誘導するため、基地の縁にいた十五人のユリアーティ偵察部隊は移動を開始。基地に近づいたことでプロペラの角度を変えて高速モードから低速モードへと切り替えているオスプレイの周囲に広がった。



 操縦席にいるニホン軍の兵士と目が合うと親指を立ててルィルも答える。



「オスプレイ、そのまま、前に。黄色い、ヘリポート、へ」



『了解。ヘリポート、感謝します』



 オスプレイの移動速度は変わらないままラッサロンの敷地内に入る。周囲に目を向けると異星国家の乗り物が来たことで、仕事中の兵士たちは皆釘付けになっていた。



 中にはカメラや携帯電話で撮影する兵士も見られる。



「目の前に、見えるのが、ニホン用、ヘリポート、です」



『了解。これから、着陸、します。離れて』



 ヘリポートまで残り五十メートルのところで十四人は一斉に外側へと離れ、ヘリポート付近で待機している誘導員に任せた。



 オスプレイで来る際にリィアが確認したところ誘導の仕方はほとんど同じらしい。そのため誘導員の誘導にオスプレイは戸惑うことなく動き、車体の下から車輪を出す。



 全く異なる星と文明によって作られた機体は、着陸の瞬間機体を左右に揺らしながらも無事にラッサロン浮遊基地へ着陸した。



 着陸の瞬間周囲の兵士たちから握手が沸き起こる。



 ルィルたちには見慣れた機体でも交流組ではない兵士たちにとっては生の異星人の乗り物。興奮しなければ軍人としてどうかと思う。



 完全に着陸したことでプロペラの回転数が落ち始める。



 こういう場合、普通であれば正装した兵士たちが集まり歓迎の姿勢を見せるのだが、国賓級の保護対象としても正式な国賓ではないためその手の歓迎は出来ない。なにせまだニホンとは国交がなっていないのだからしてしまうと色々と面倒になる。



 出来るのは基地司令官と上級幹部、ユリアーティ偵察部隊の正装くらいだが向こうも機嫌は損ねないだろう。



 プロペラが完全に止まったところで基地司令官、上級幹部、ユリアーティ偵察部隊が近づいていく。同時に後方の扉が開いた。



 もしここでネガティブな考えをする人がいれば、大量の火器を持ったニホン軍が出てきて乱射を想像するだろうが、それはないことをルィルは交流から確信していた。



 最初に出てきたのはイルリハランの会社員と変わらない背広を身に着けたハグマである。



 とことん文化文明が似ていることに驚きつつも、表情は出さずにこちら側も近づく。



 続いて出てきたのは三十代後半の見慣れない女性。おそらく外務省官僚のキノミヤシズカだろう。このニホンの大きなポイントとなるのに女性を起用すると言うことは相当な度胸と話術を持っているに違いない。



 そしてこの大舞台で女性が出てくることを考えるとニホンは男尊女卑ではなさそうだ。



「ハグマ、ニホン、ノ、ミナサン、ヨク、キテ、モラエマシタ」



 最初に声をかけたのはニホン語を理解しているリィアだ。



「こちらこそ、我々の、ため、準備、ありがとうございます」



 ニホン語に対してマルターニ語での返しは、いつからか暗黙の了解で両国間の礼儀となっている。



「初めまして。無線、では、話、しましたが、ラッサロン浮遊基地、司令官、ホルサー・ム・バルスター、です。基地を、代表し、歓迎、します」



 ハグマとリィアが握手をする中、六十代半ばで基地の全権を任されたホルサー大将も挨拶をして手を差し出す。



「ニホン国、言語学者、ハグマヨウイチ、です。こちらは、ニホン国、外務省、外交官、キノミヤシズカ、です」



「ハジメマシテ。ニホン、外務省、キノミヤシズカ、言います。今日は、提案、聞いてもらい、ニホン、代表して、お礼、いいます」



 ハグマとキノミヤは揃ってお辞儀し、さらにオスプレイからアマミヤを始め見慣れたニホン兵が顔を出す。



「空、と、地、住む、環境が、違う。建物の、中は、大変ですが、お願いします」



「それは、お互いさま、です」



 そう聞いてルィルはくすっと笑ってしまった。こうして安全に交流が進めば、いずれはイルリハランからニホンの接続区域や国内に入ることもある。なれば今度は我々が苦労するのだからお互い様だ。



 イルリハランとニホン、それぞれ挨拶を済ませたところで五時を過ぎ、時間も迫っていることから基地の内部へと案内をした。

後書き編集


 皆さま、遅くなりましたがあけましておめでとうございます。


忙しかった去年の年末をやり過ごし、それでも忙しさは残っていますが今年も『陸上の渚』を続けていきたいと思います。



 実のところ、本当でしたら先週には投稿できたのですが、書いている途中でこれは違うと思い、全て書き直すことにしたため遅れてしまいました。


 で、出来れば前篇後編合わせたのを投稿したかったところ、一ヶ月以上投稿していないのが嫌なので前篇だけ投稿させていただきました。


 書き直してもほとんど進んでないのは申し訳ないのですが、次回の後編で日本の声明とイルリハラン側からの質問をやり、次々回でレーゲン側の反応を書いていきたいと思います。予定なので断言はできませんが、予定ではそのように行きたいと思います。

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