月宮殿(げっきゅうでん)⑧
■エピローグ、もしくは
無惨に打ち捨てられた花嫁のブーケを眺めて思った。
部屋は静寂に包まれた。夫の呼吸が止まったのだ。私はしゃがんで手を伸ばし、彼の瞼を閉ざそうとしたが、叶わなかった。悲惨な結末。私があまりに早く別れを告げてしまったのが、すべての間違いの元だったのか。まだ幼い慧を残して逝くのをためらいながら、病苦に耐えかね、自ら命を絶ってしまったことが——。
朧月の残酷な微笑。あるいは、慧はそこにあるという伝説の宮殿へ召されたのかもしれない。抱き締めて慰めてやりたかったが、私にはそのための腕もなく、また、どう足掻いても同じ場所へ辿り着けそうにない気がしていた。今や家族は自殺者と殺人者、そして、殺害された者とに分かれていた。銘々の行き先が異なる証拠に、硬直し始めた夫の肉体から透き通った幽魂が脱け出して私の前に立ち現れる気配は、一向になかった。
【了】
◆ 初出:旧々個人ホームページ(現存せず)
*縦書き版はRomancer『月と吸血鬼の
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116522&post_type=rmcposts
月宮殿 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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