患者衣を着た先生

@life-debugger

第1話 雨の日

 午後2時、今日も病院のある一角に子どもたちが集まっていた。中央に青い患者衣を着た、少し背の低い青年が座っていた。

「よーし、午後2時やね。じゃあ今日もお話始めようか。」

「ねーねー、先生、今日は何の話をするの?」

「ねーねー、先生は今日はすごく頭ぼさぼさだねー。」

 その言葉を聞いて青年は頭を掻きながら、少し恥ずかしそうにしていた。

「...頭がぼさぼさなのは、雨が降っているからだな。君たちは雨は好きか? 嫌いか? 」

 子どもたちの中ですっと坊主頭の少年の手が上がった。

「僕は嫌い。」

「どうして?」

 青年はニンマリした顔でその少年に理由を尋ねた。

「じめじめしていやだし...」

「じめじめするのは私も嫌いかな。たしかに雨の日はじめじめするよね。でも夏でお日様が照っているときもじめじめするよね。なぜだろう?」

「え、あ、うーーん」

 少年は頭を抱えてから1分経過した。

「お日様が照って暑くてみんなが汗をかいちゃうから?」

「ちょっと違うかな~」

 青年はとても愉快そうな顔をしている。

「答えを教えてよ」

「うーん、そうだなー」

 青年はおもむろに立ち上がり、そばのホワイトボードに世界地図と、地球儀を書いた。

「まず君たち、夏が暑く、冬が寒いのはなぜだろう?」

 小さい少女が手を挙げた。

「...夏はお日様が元気で、冬は元気でないから?」

「そんなわけないやろ」

 坊主頭の少年が腹を抱えながらそう言った。

「じゃあ君はなぜだと思う?」

「地球は太陽の周りをまわってるから、それがまんまるじゃなくて、つぶれた丸だったら、太陽と近いときと遠いときができて、夏と冬ができるよ」

坊主頭の少年は自信満々にそう答えた。

青年はニンマリとした顔で、坊主頭の少年の言う通り、ホワイトボードに楕円を書いてみた。

「確かに、楕円だったら夏と冬ができるね。でも一年で地球は太陽の周りを一周するらしいから、楕円だと一年で夏と冬が2回ずつきちゃうね」

「あ、そっか、なら、つぶれた丸じゃなくて、まんまるだけと、太陽の位置がちょっと真ん中からずれてるんだ」

「でも、残念、地球の軌道はほぼ真円で太陽もほぼ真ん中にあるよ」

「えー、じゃあ、どうして夏と冬があるの?」

「みんなギブアップかい? なら話そう。」

 青年は愉快そうな顔つきで、ペンを走らせた。

「地球が回っていることはみんな知っているかい? そう、地球自身が回る自転と太陽の周りをまわる公転。まずこの自転の軸は公転の軸に対して23.4度傾いているだよ。で、太陽と地球との距離が1億4960万キロメートルと長いから、太陽光は平行に飛んでくるんだけど、それに対し地球は丸いから中央は面積当たり日光がよく当たるけど、端っこは全然当たらないんだよね。それで、軸がずれているからこの中央と端っこという部分は地球の公転と伴い変わるんだよ。これが夏の時の図で、これが冬の時の図ね。日本はこの辺だからこの変化の影響を受けやすいね。話をまとめると、夏と冬がある理由は軸が傾いているからだね。」

 子どもたちは真剣な目で話を聞いていた。

「先生、それで夏お日様があるのに、じめじめするのはなんでなの?」

「あともうちょいでわかるから、あせらんで」

「はーい」

「次に、大陸と海について話すよ。大陸は海に比べて熱しやすく冷めやすいんだ。」

「どういうこと?」

「例えば、水と金属を火にかけると、先に金属の方が熱くなって、逆に、同じ温度の水と土を冷ますと金属の方が先に冷めちゃうってこと」

「どうして?」

おさげの少女がすぐさま尋ねた。

「これは難しい質問だね。原子というめちゃくちゃ小さい粒子の運動を考えないといけないから、また今度話そうか。」

「えーーーー、ケチ」

「ケチじゃない、ちょっと難しいから、今度ゆっくり話そう。今はじめじめの理由が気になる人を優先。」

「じゃあ、約束ね。」

「はいはい、わかったわかった、約束しまーす。...よし、えーと大陸と海の話までしたっけ。大陸は熱しやすく冷めやすいから、夏にめちゃくちゃ熱くなって、冬にめちゃくちゃ寒くなるだよね。で、その上の空気にもその暑さ寒さが伝わる。温められた空気は軽いというのはわかるかな。」

「どうして?」

「...今度本当に原子と熱の話をしないといけないな...」

「ねぇ、どうしてなの?」

「うーん、気球って見たことあるかな? あれって浮かんでるけど、それは気球内の空気をあっためて、気球外の空気よりも軽くしてるからだよ。」

「なんとなくわかった気がする。」

「そこが感覚的にわかれば、あとはもう簡単だよ。」

 青年は世界地図のほうにペンで書きこんでいく。

「夏の時は大陸上の空気があっためられて、上に行く。そして大陸周辺から大陸上に空気が流れ込む。そして、上に行った空気はいずれ冷やされて、海の方に落ちていく。冬の時はこの逆の方向へ空気は回るんだ。で、夏の時、日本には海からの空気が流れ込むから、その空気は湿っていてじめじめする。」

「へーなるほどーーー。」

「じゃあ、夏じめじめするのは地球の回転する軸が傾いているから?」

「そういうふうに言うこともできるかな」

「じゃあ、なんで軸は傾いているの?」

「...............私にはわかりません。」

「先生にもわからないことがあるんだね。」

「わからないことの方が多いいよ。そういうことはみんなで考えていこう。じゃあ今日のお話はおしまい。みんなも3時のおやつの時間だぞ。」

「おやつだーーー」

 青年は笑顔で子供たちを見送った。

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