第10話 クリスマス、夜の街
「ねぇねぇ、クリスマスマーケットってどんなだろうね?」
私の横に並んで歩く彼に問いかける。
今近所のモールの広場では、ドイツのクリスマスマーケットを模したイベントが催されている。
『実際にドイツからお店やメリーゴーランド持ってきてるらしいよ』
彼もワクワクが抑えられないような表情で答える。
今日は12/24、クリスマスイブだ。
今回催されているイベントでは、実際のドイツのクリスマスマーケットを再現するために、ヒュッテと呼ばれる出店やメリーゴーランドをドイツから送って来ているらしい。
開催期間も長くて、11月の中旬からクリスマスの12/25日まで。
ドイツのクリスマスマーケットにならってそうしているそうだ。
つまり、日本にいながらドイツ旅行気分を楽しめる素晴らしいイベントってわけ。
駅から10分ほど歩いたところで、暖かなオレンジ色の光に彩られたイベント会場が見えてくる。
入り口では『Merry Christmas』と書かれたアーチと、大きなメリーゴーランドが出迎えてくれた。
アーチをくぐって中に入ると、食べ物やツリーの飾り、ワインやビールを売る屋台が並んでいて、中央には綺麗に飾り付けられた大きなクリスマスツリーと、イベントスペースがあって、イベントスペースでは子ども達がクリスマスソングを歌っている。
「結構賑やかだね」
『クリスマスイブってのもあって今日来てる人も多いんだろうね』
賑やかな人の波を見つめながら、屋台を巡っていく。
「ドイツと言えば、やっぱりビールだよね!」
『ビールも美味しいけど、僕はワインの方が好きかな』
『白の甘口とか、すっきりしてて飲みやすいよ』
「一口ちょうだい」
『ほい』
「ほんとだ、美味しい!」
「フランクフルト1つと白フランクフルト1つお願いします」
『白い方はどう違うの?』
「白い方はハーブとかが入ってて、普通のとは違う美味しさがあるんだー」
『どっちが好きなの?』
「…どっちも」
『結構食べるの好きだよね』
「見て見て!」
「あれ可愛い!」
『スノードームか、綺麗だね』
「結構種類あるんだね」
『ペンギン可愛いね』
「…君は結構乙女なとこあるよね」
一通り屋台を巡り終わったところで、それぞれお酒と料理を買ってベンチに座る。
「思ってたより色々有って楽しいね!」
『お酒も美味しいし、景色も綺麗、何より…』
『…いや、何でもない』
(そこで止められると気になるんだけど…)
「ねぇ、何て言おうとしたの?」
『ちょっと雰囲気に当てられただけだよ』
トイレに行ってくるからちょっと待ってて、と言って彼は歩いて行く。
(暇になっちゃうじゃん)
(まあ、ちょうど良いか…)
彼が歩いていった方向とは逆、さっきまで巡っていた屋台の方に足を向ける。
トイレには少し長い時間をかけて、彼が帰って来た。
「遅い!」
『ごめん、ちょっと混んでてさ』
『お詫びというか、いつも一緒に居てくれるお礼に』
そう言って彼が渡してきたのは、綺麗な緑と赤のリボンでラッピングされた焼き菓子だった。
「これはなに?」
『シュトーレンって言って、ドイツのクリスマスでは定番のお菓子らしい』
『ちゃんとしたのは、明日のクリスマス本番に渡すけど、今日もこうやって付き合ってくれてるお礼がしたくてさ』
「…実は私も」
私は両手のひらを上に向けて、さっき彼と一緒に見たペンギンのスノードームを置く。
『これ、さっきの』
「うん、気に入ってたみたいだから」
『ありがとう!大事にするよ』
『あっ、僕も貰っちゃったらお礼にならないかな?』
「そんな事ないと思うけど…」
「なら、さっき言いかけてたこと教えてよ」
そう言うと彼は少し照れたように、
『ちょっと恥ずかしいんだけど…』
『大好きな人と一緒に過ごせて良かったな、って』
「っ///」
(これは確かに照れ臭い)
でも、言葉にしてくれた彼にはちゃんとご褒美をあげないとね。
「私も、大好きだよ」
言って、お互いに顔を赤くしたまま笑い合う。
『来年も再来年も、その次の年も一緒にいよう』
「それってプロポーズ?」
『っ、プロポーズは、まだ先…』
「今さら照れることも無いのに」
(でも、これから先もずっと一緒に居れたらいいね…)
周囲の喧騒が二人を包み、イブの夜は更けていく。
大きなツリーとヒュッテのオレンジは、最後まで暖かく、二人を照らしていた。
《100PV感謝!》 School Love Stories 宵埜白猫 @shironeko98
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