企画書「この度、この世界の仕様の一部が変更になりました」

山本弘

第1話

長編企画書


この度、この世界の仕様の一部が変更になりました。

山本弘

2016/08/06



 スラップスティックSF。「オーナー」の変更にともない、この世界の設定がどんどん突拍子もないものに変化してゆく様を描く。

 ルディ・ラッカーやR・A・ラファティあたりのノリを目指す。

(ストーリーの細部は変更になる場合があります)


【設定】

お知らせ──必ずお読みください


 この世界に生きておられるすべての知的生命体のみなさまにお知らせいたします。

 このたび、この世界のオーナーが従来の螻aYユリ嫣Gkxmキ譛ャ讒l縺ェ縺逋コ逕溘@から莨轟縺輔∪縺翫r諢丞峙縺∋縺肴に変更になったのに伴い、来たる6月1日グリニッジ標準時午前0時をもってシステムの大々的なメンテナンスを実行し、従来の世界の不具合を改善するとともに、一部の仕様の変更を行うことになりました。


 ある日、そんな立て札が世界中に立つ。あらゆる言語で書かれ、すべての人間に伝わるように。その突然の出現の様子から、誰かのいたずらではなく、超自然的な存在によるものであることは明白だった。

 この通告に世界中の宗教信者が不安に襲われた。従来のオーナーというのは、この世界の創造主のことだろう。自分たちが信じてきた神様が、この世界を見放し、今はどこの誰かも分からない莨轟縺輔∪縺翫r諢丞峙縺∋縺肴とかいう奴が今はこの世界のオーナーなのだ。人類の生殺与奪の権はそいつに握られている。

 しかし、主人公の4人の高校生──レイジ、ノゾミ、ヨシミツ、ナホ──は気楽なものだ。彼らはみんな神を信じていなかったから、オーナーが代わったと言われても、特に衝撃は受けなかったのだ。それどころか、昼休みには不謹慎な会話に花を咲かす。


「神様ってどんな姿してるのかね」

「人間をはるかに超える存在が、人間と同じ姿をしてること自体、ありえないよ。ドロドロだったりグチャグチャだったり、眼が百個ぐらいあったり腕が千本あったり、見たらSAN値が下がるような姿だってこともありうるだろ」

「だから姿を現わさないのかなあ? 自分のみっともない姿をあたしらに見られるのが恥ずかしいから」

「いやいや、向こうからすりゃ、自分の姿の方が当たり前だろ。僕らの方がグロテスクな怪物に見えてるんじゃないかな」

「今のオーナーだけじゃなく、前のオーナーも?」

「もちろん」

「じゃあみんな、見たらSAN値が下がるようなモンスターに祈ってたわけか」

「これまで姿を現わさなかったのも、たぶんそれが理由だよ」


 彼らは不安を抱いていなかった。これまでのオーナーは無責任すぎた。世界の管理をすっかりさぼっていた。今度のオーナーが不具合を解消するというのなら、それに期待してもいいのではないか?


 人々は固唾を飲んで、メンテナンスの瞬間を待ち受ける。

 その時が来た。とたんに全人類の前に手紙が届く。


 メンテナンスが終了しました。


 メッセージの伝達手段を変更しました。〔詳しく〕

 世界から環境汚染物質を取り除きました。

 地球温暖化を抑制しました。

 核兵器を取り除きました。


 この変更により、オーナーにメールを送り、リクエスト(神頼み)することかが可能になった。人々はここぞとばかり、神頼みをはじめる。だが、今度のオーナーは慎重だった。個人の幸福だけを願うリクエスト、他人を傷つけるリクエストは受け入れてもらえない。

 それからも頻繁にメンテナンスが行なわれ、仕様が変更されてゆく。


 栄養不足の方に無料で食料を配布いたします。


 治療法のない疾病を取り除きました。


 肉体的・精神的障害の治療が可能になりました。


 死ななくなりました。


 この世界の他の知的生命体を攻撃することを禁止いたします。


 外見を変更できるようになりました。


 まさに奇跡の大安売り。飢餓も病気も差別も戦争もなくなり、地球はどんどん理想境になってゆく。人は死んでも、近くのセーブポイントで健康体となって復活する。

 最初は不信感を抱いていた人々も、しだいに新オーナーを信頼し、崇拝するようになっていった。

 しかし、しだいに奇妙な変更が多くなってきた。


 種族を変更できるようになりました。


 魔法が使えるようになりました。


 人間は狼男やハーピーや蛇女に変身できるようになり、火炎を放射したり空を飛んだりできるようになる。人々は面白がってそれを試した。だが、他者を傷つけることは禁止されているので、物騒な力を持ってもまったく安全だ。

 しかし、こんな仕様の変更に何の意味があるのか。リクエストを出したのは誰なのか?

 やがて、これらの新仕様には意味があることが分かってくる。


 他の世界からの侵略が開始されました。


 他の世界からおぞましいモンスターが大量にこちらの世界に侵入してきて、人々を虐殺しはじめたのだ。魔法が使える者たちがそれに立ち向かう。この世界の存在ではない敵なら、攻撃することは可能だ。

 死んだ人間はすぐに復活するので、たいして支障はない。しかし、ようやく人々は気づく。モンスターたちは他の世界の知的生命であり、彼らから見れば人間の方がおぞましい怪物に見えるのだ。彼らはゲームのプレイヤーであり、オーナーはこの世界をゲームのためのフィールドに改造していたのだ。

 これから人類は、異世界の怪物たちとの終わりのない戦いを強いられることになる。

 しかし、レイジたちは気楽だった。これまでたいして面白みのなかった世界が、一挙にスリルあふれるエキサイティングなゲームになったのだから。

 それに敵に勝つことにはメリットもある。プレイヤーの勝利を妨害すれば、プレイヤーはより戦闘力を強化しようと、課金してアイテムを手に入れようとするはず。つまりオーナーが儲かる。

 この世界が利益を上げ続ける限り、オーナーはこの世界を終わらせないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

企画書「この度、この世界の仕様の一部が変更になりました」 山本弘 @hirorin015

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る