第6話 休息
薄暗い自分の部屋のベッドに深く座り込み、ひとつ、深いため息をつく。窓から差し込む月明かりだけで照らされた部屋はどこか物悲しさを感じさせた。まだ整理されきっていない頭をふるふると横に振って気持ちを落ち着かせる。とにかく状況を整理したかった。こうして家に帰れたと言うのに、俺の心は落ち着かない。ずっと、ふわふわと空中を漂っている気分だ。
あの後、目の前の少女の得体の知れない怖さから、走ってトイレもせずに逃げ去ってしまった。ぐるぐると目まぐるしく思考が頭の中で回転する。分からない、怖い。あの少女は異常だった。彼女は俺が走り去る寸前に小さな声で「なんで男子トイレにいちゃいけないんだ」と呟いた。意味のわからない質問に「分からない」とだけ答えてくるりと少女に背中を向けて全力でダッシュした。この少女はやばい、というのが率直な感想だった。
「あー、もう、なんなんだよ、一体?」
体をベッドの上に倒し独り言ちる。こっちに来てから分からないことばかりだ。俺なんかしたっけ?不幸ばっかだ。いや、あの少女と出会ったことを不幸というつもりはないけれど、いいこととは言えない。あの少女が変質者の可能性だってあるわけだし。ただ、やけにあの少女が綺麗な女子であったことは言える。髪型や服装はだいぶ男子のようだったけれど。
「もう二度と会いたくねぇな、あれは」
そもそもあれは人間だったのか?という馬鹿げた考えが頭をよぎる。いや、何を考えてんだ、俺は。いろいろありすぎて頭パンクしたるのかもしれない。「水でも飲みに行くか」と呟いて体を起こす。ベッドから立ち上がると、急に視界がぐらついた。慌ててベッドに座り直す。勢いよく座ったので、ベッドがギシリと軋んだ。
「帰ってきてからなんも食ってねぇからなぁ。あ、いや、正確には昼からか。さすがに疲れが溜まってんのかなぁ?」
今度は慎重にゆっくりと立ち上がると、壁に手を付きながら歩く。部屋を出ると階下から微かにテレビの音が漏れて聞こえていた。
「あら、
俺が何も言っていないのにおばあちゃんはそう言うと、いそいそとキッチンへ向かった。
「ありがとう」
「いいのよ、お礼なんて。なんか、慌てた様子で帰ってきたからそっとしといた方がいいかな、と思って声はかけなかったんだけど。声掛けといた方が良かったかね。ご飯、ちょっと覚めちゃったしね。
「……なんで俺が父さんが苦手ってこと知ってるの」
「だから、態度で分かるんだってば」
おばあちゃんはニヤッと笑うと俺の頭をぽんぽんと2回叩いた。子供扱いされているようで、少しモヤっとする。けれど、なんでもおみとおしなおばあちゃんのことを素直にすごいと思った。
「はい、カレー」
出されたカレーを前に「いただきます」と手を合わせる。
男子トイレで出会った少女のことは、いつの間にか忘れ去っていた。
僕らのステラ 鷹宮 まゆう @Toruma
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