第5話 男子トイレの少女
俺が足を止めた理由。それは、男子トイレに、明らかに女子と思われる人物が平然とした顔をして立っていたからだ。1回トイレの外に出て、標識を確認するが、ここは間違いなく男子トイレだ。そう、女子がいていい場所ではない。そのはずなのだが、目の前の女子はボーっとした顔で、トイレの上の小窓から入る光を見つめている。どうするべきか分からず、俺も突っ立っていると、女子は俺に気づいたのか、首を回転させる。ばちり、と目が合った。目が合った瞬間、時が止まったかのような錯覚に襲われる。恐ろしいくらいに、目の前にいる女子が美しかったからだ。つぶらな大きな瞳、けれど、光を決して宿していないその瞳は、なぜだか俺を引き付けた。
『
意味もなく、おばあちゃんに言われた言葉がフラッシュバックする。俺は、首をブンブンと横に激しく振ると、目の前の女子をマジマジと観察する。目の前の女子は、髪型はバッサリと切られ、一見男のようにも見えるが、細身の体に強調された大きな胸が、彼女が女子であることを物語っている。服装も、女子、と言うよりはサッカーの練習帰りの少年のような格好で、綺麗な顔立ちとミスマッチしている。小さな顔に、大きな目と、すっと通った鼻筋、桜色の唇がバランスよく配置されている。控えめに言って、彼女の顔は美しかった。彼女は俺がマジマジと見つめていることを不審に思ったのか眉根を寄せた。その表情に俺は慌てて言い訳するように言った。「あの、ここ、男子トイレなんですけど」と言ったは良いが、目の前の女子が『変質者』である可能性もあるのでは、という思考が浮かんでくる。彼女は俺の言葉を聞いても、表情を変えなかった。というか、更に険しい表情になった。
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