第11話

 賢の指が【槍術】の文字を押すように触れると、それまで黒かった文字が【槍術】を除き,色が薄い灰色の変わる。そして【槍術】の文字にも変化が現れた。


       / 薙ぎ

【 槍術:1 — 突き  】

       \ 払い


 【槍術】の横に新たな文字が浮かび上がり、それは槍の主な攻撃方法のようであった。


「これこそが『灯火と導きの神』の加護。過去の使徒達が灯してきたしるべ。そしてこれからあなたの後ろに続く者達を導く明りになるものよ」

「それは、どういう……?」


 理解が追いつかず、固まっていると、サイラが現れた文字について説明を口にした。

 しかしその説明が分かりにくく、かえって混乱してしまう。


「ケンの【槍術】の熟練度はまだ1だから、三つある選択肢の内、一つしか選べない。自分が良く使う、もしくは上達したいと思うものを選ぶといいわ」

「……選んだらどうなるんだ?」

「過去の使徒が培ってきた槍の技術を得ることが出来る。と言ってもその動作のお手本みたいなもの、だけどね」


 ……サイラの言っていることが良く分からない。

 賢が首を傾げる姿をみて、聞いていても理解できないから、まずやってみろと選択を急かした。


 それもそうかと納得し、賢は【突き】の文字に触れる。

 賢が使ってきた槍は、木の枝に尖った石を括り付けた簡素なもので、専ら獲物を突く事以外に使用したことは無い。

 そもそも、薙ぎ、払いなどの動作をすれば、石の穂先はともかく、木の柄が折れてしまうからだ。


       / 薙ぎ

【 槍術:1 — 突き  】  →  【 槍術:1 】

       \ 払い


「あっ」


 選ばなかった【薙ぎ】、【払い】はともかく、指が触れていた【突き】まで消えてしまった事に焦り、声を出してしまった。


 同時にそれまで灰色だった他の文字が、元の黒に戻ったことで、何もなかった様に思えてしまう。


「こ、これでいいのか? 失敗してないよな?」

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと登録されたよ」


 不安になる賢にサイラは笑いながら保証し、安心させる。

 その言葉を信じるも、自身になんの変化も感じられない。力が湧いてくることも、槍が上手くなった実感も何もなかった。


「本当に加護ってものが貰えたのか?」

「だから大丈夫だって。使い方は『極夜の夜明け』に教えて貰いなよ。あいつらもそれくらいしてくれるでしょ。……それより、気付いてる?」

「何が?」


 何の実感もなく、気付いているかと聞かれても、意図が分からず困惑する賢に、悪戯気な笑みを浮かべるサイラ。


「ふっふっふ……言葉使い、丁寧じゃなくなってたの、意識してた? まあ、私はそっちのほうがいいんだけどね」

「え? ……あっ」


 契約の際のサイラの悪戯で、動転して敬語を外してしまっていた。

 驚かされたことから、無意識のうちに、こいつに敬意を払わないでいいかとも

考えたせいかもしれないが。


「いーの、いーの。そもそも開拓者で敬語使うのは変わり者しかいないんだから、余程目上じゃ無ければ普通に話せばいいわ」

「そうか。ならそうするよ」

「うん。じゃあ、他の技能は【槍術】を試してから選べばいいし、これで全部終わりね。ギルドマスターの部屋の場所覚えてる?」

「ああ。大丈夫だ」

「じゃあ、これでいったんお別れね。技能の選択はさっきの言葉を唱えれば一人でできるわ。何か聞きたいことがあれば奥の部屋に居るから声をかけて。……と言っても、次来るときはちゃんとした格好して来てね」


 忘れそうになっていたが、現在賢は毛皮一丁の半裸である。

 己の姿を再認して苦笑いしながら、サイラに礼を言って岩のある部屋をでた。




 記憶を辿りながら、レリード達と別れたレーガンの部屋の前に戻ってきた賢は、扉をノックした。


「いいぞ」


 レーガンの声の後に扉を開け、部屋の中に入ると、ソファーに座りお茶を飲むレリードとアグー、その体面に座るレーガンが見えたが、後の二人の姿がない。


「おお、賢か。契約は終わったのか」

「はい。……グランツさんとベッグさんは?」

「アイツ等なら今は用事をしている。直に帰ってくるだろう。それで、お前の技能はどんなものだった」


 レーガンの言葉に納得した賢は、岩に浮かんだ文字を口に出していく。


「ううむ……実力がありそうだと踏んではいたが、予想以上だな」

「それだけあの森の深部は魔境だという事でしょう」


 技能の数と、その熟練度を聞いた三人は目を見張り、やがて納得するように頷く。

 技能によって浮き彫りにされた賢の三年間の苦労を労わる様に、アグーは暖かいお茶を賢に差し出した。

 有難くそのお茶を口にいれれば、いい香りと少しの渋みが喉を通る。

 陶器の美しいカップといい、文明の素晴らしさに涙腺が潤む。


 久方ぶりの嗜好品に安らいでいると、扉が音を立てて開いた。


「入るぜ、ギルドマスター! 言われた通りに買ってきたぞ!」

「まずノックをしろ」


 部屋に入ってきたのはそれまでいなかったグランツとベッグだった。目を向ければ、いくつかの荷物を手にしていた。


「お、ケンもいるな。ちょうどよかった」


 賢の姿を認めると、グランツはそう言って手に持った包みを差し出した。


「これは?」


 包みをうけとるとそこそこ軽く、中身は柔らかいものだった。


「ケンさんの服ですよ」


 不思議そうに尋ねる賢に、レリードが答える。


 その言葉に、体ごとレリードの方に向ける賢。驚愕の表情を隠そうともしない賢に微笑みながら、言葉を続ける。


「ケンさんが教えてくれた植物などを、ギルドが買い取った金額から出しました。余った分は後程渡します。正真正銘、ケンさんのお金で買ったものです。遠慮せずに受け取ってください」

「いや、でも……それじゃあ四人の分は」

「俺達は依頼の分で結構貰っているしな。そもそも金には困ってねえ。依頼外で持ってきた物の金は要らねえんだ。それに、渡す分はお前が採った物じゃねえか。正当な報酬だぜ」


 困惑する賢にグランツが諭し、他の三人もその言葉に頷く。

 遠慮する方が失礼だと考えなおした賢は、包みを開き、中に入っていた服一式――下着含む――をその場で着始めた。


「おお……服だ……俺、今ちゃんとした服を着てる……」


 三年ぶりの感覚に感動する賢に、その場に居た者達は憐憫の想いを隠せない。

 賢が今着ている服は平民が普段着るような、特殊な効果も希少な素材でもないただの服であり、貰っても普通、感動するものではないからだ。

 全身を包まれる安堵感に涙が浮かび、四人にしきりに礼を言う賢は、レリード達に宥められ、渡す物があるといったレーガンに顔を向けた。


「これは開拓者の証であり、お前の身分を保証するものだ。無くさずにもっていろ」


 そう言って渡されたのはドッグタグそっくりな首飾りで、このものは開拓者のケンあるといったことが記されていた。



「ありがとうございます」

「開拓者にはいくつか決まりごとがある。まっとうに暮らしている人を傷つけるな。自分の身は自分でを守れ。余裕があれば他者を助けろ。この世の全てを開拓しろ。だ。これらを守れ。あとは自由にやればいい」

「いやいや、ギルドマスター。それだけでは彼が困ってしまいますよ」

「他にも階級とか暗黙の了解ってもんとかあるでしょ」

「俺が教えられるのはこれぐらいだ。不安なら後はお前等で教えてやれ」


 レーガンの言葉に苦情を上げるレリードとベッグだが、レーガンは取り合おうとせず腕を組むばかりである。

 諦めてため息を吐くレリードは賢たちを促して、へやから出る。

 扉をくぐる賢の背に向かって、レーガンは言葉をかけた。


「これから力を貸してくれ。新たな同胞よ。ギルドは君を歓迎する」


 賢は背を押されながらも振り返ると同時に、部屋の扉が閉まった。






















以下、作者のあとがき的なやつ


 …………はい。ということでいったんここで話を切ります。

 と言うのも私が小説を書くのは、自分が読みたい面白い話を作りたいという気持ちがあるからでして。

 ある日ふと思いついた、野生に還った主人公が異世界で暴れまわったら面白いな。読みたいなと思い、思いつくままに書きなぐっていきました。

 しかししばらくして熱が冷めると「あれ、これそんなに面白くないな」と思ってしまい、モチベーションを失ってしまいました。これからの展開もうっすらと浮かんではいますが、盛り上がりにかけそうなので、森の賢人が半裸の変態から文明人になった今話で一応の完結にさせて戴きます。エターナルフォースブリザードですね。

 楽しみにして下さっていた方がいたなら、申し訳ありません。


 今作は、主人公の名前とちょっとした設定以外書きながら考えていました。

 名称も適当です。まずイェドという言葉が頭に浮かび、森の名前にして、グー〇ル先生に聞いたら星座の名前にもあるという事を知り、関連するものを他の町とかの名前に使わしてもらいました。

 人名も適当、開拓者辺りは少し考えましたが5分くらいなものです。


 まあそれで行き詰まる辺りプロットの大切さが身に沁みます。

 設定は大切。はっきり分かんだね。



 次何か書くときは20話くらい書いてから投稿することにします。

 ……プロットの書き方とか誰か教えて。

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三年あれば人は理性を捨てられる(個人の意見です) 人工衛星 @sow717

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