第32話 *願望
長い沈黙の後、枢機卿がその重く閉じた口を開く。
「ナ、ナオユキ王よ。この、御方は、その」
その余りにも驚愕した様子に直幸はにこやかな笑顔を見せながら答える。
「今、神が直接、おっしゃった通りです。この御方こそが、この世界に4柱しかいない至高の神にして、時と空間を支配する御方。時空神クロヴァリス様ですよ」
「それは、つまり、その」
「信じることが出来ませんか?。神がこの世界に降臨なされたことが」
「ナオユキよ。あまり意地悪をするな。奇跡を見なければ人は神を信じることも、感じることもないのだから」
「申し訳ございません」
「では、とりあえず、一つだけ聞きたいことを質問してよいぞ。まぁ、あまり深く考えないでよい。また会えるのだから」
「で、では、一つだけ。その御姿が御身の真の姿なのですか?」
「ふふふ、そうか、人は一つだけであったな。その問いの答えは否だ。この姿は私であり、私ではない。神の姿に形はない。だが、形を作ることは出来る。故に今の真の姿はこの姿だな。わかりずらいかな?。すまない言葉とは不完全な物ゆえ許してくれ」
「いえ、答えをくださり、ありがとうございます」
「それでは、リンダー・フォン・オリバー。ミハイル・ベン・オリバーの息子よ。時と空間を支配する私に何を求める?。
この世界に私が降臨したことを広めてもらわねばならない。故にその代価にあった褒美を授けよう」
「ほ、褒美でございますか?」
「そうだ。この土地の民は、私の存在を認め崇める。故に褒美として木を与え、飢えから解放し、悪政から解き放った。お前は何を望む?」
「わ、私は」
*
「ああ、緊張した。失敗したかと思った」
「中々の名演技だったじゃないか」
「本当に?。あの長い沈黙は、完全に終わったと思ったけど」
「ハハハ、確かに、あれは予想外の長さだったな」
千歳と直幸は枢機卿が帰った後、肩の重荷がなくなったかのように、すっきりした表情で会話をしていた。
「でも、本当にあんなものが欲しいなんて、よくわからないわね」
「君を神だと思った。証拠ということなんじゃないかい?。因みに、護衛はどうする?」
「必要なの?」
「当たり前じゃないか。君はもう少し歴史を勉強した方がいい」
*
「枢機卿。よろしいのでしょか?」
「何がだ?」
「改宗を教皇にお伝えするというのは、そのこのままここに居ればよいではないですか。わざわざ、身の危険を冒さずとも」
「神は私に、崇めるための教会をくださるといった。だが、同時に広めるための褒美として、これをくださったのだ。広めるために最も効果的な方法を取るまで」
「しかし、私たちで地道に広めてゆけば」
「それは、姿すら見せぬ神が讃え続けられる世を認めるということか?」
「いえ、それは」
「地母神ローコミナはその姿を見せてくれる神である。故に我らの神の次に慈悲深いといえよう。だが、それでも我らの神の次である。そのような状況が続くことを許すことなど出来はしない。
さらに言えば、死するときまで姿を現さない死蘇神ディメルアなどもはや信仰に値しない。なぜなら、この神の道具を使えば、神のお言葉を聞くことができるのだから。これを聞けば自ずと考えを改める筈だ」
枢機卿リンダーのその手にはボイスレコーダーが握られていた。
「それとミナ」
「はい、枢機卿」
「今日から私は枢機卿でない。ただの一介の信者に過ぎないよ。共に神の言葉を届けようではないか」
「はい、では、リンダー殿。神からお許しいただいた。木の実もいくつか持ち帰りましょう」
「おお、それはいい案だな」
枢機卿とその御供のミナと共に、時空神の存在を広めるため王都を後にする。
*
「そう言えば、遅いよね」
「機長の柳さんかい?」
「うん。すぐに帰ってくると思ってたから」
「もしかしたら、新大陸を見つけて戦闘中だったりしてな」
「アハハ、まさかぁ」
最強国家ミレニアム 周(あまね)克(まり) @AMANEMARI
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