パイシューの反逆-4
ケーブルの交換を人間に依頼していたシュレッダーロボットは、裁断された紙が溜まってきたためゴミ捨て場に向かうことにした。持ち場である七階近くのゴミ捨て場ではなく、地上階のゴミ捨て場に向かうことにしたのは、ちょっと落ち葉でも拾っていこうと考えたからだ。
前に研修で聞いたか、もしくはもともとプリインストールされていた記憶――その二つの違いはシュレッダーロボットに対してあまり意味はなかった。なぜなら保存領域と使用目的は同じなので、時々行う記憶の最適化によってそのうち両方とも同じ出自のものとして扱うことになるから――によると、紙の上に書かれている文字というのは一般的に電気信号で表現されるいわゆるテキストデータより重要だということなのだが、シュレッダーロボットはそれについてまったくばかばかしいことだと考えていた。
何しろ印刷された文字はどんなに頑張っても一文字が数ミリの大きさを持ち、一枚の紙の上には頑張っても千程度のオーダーの数しか載せられない。それによって表現できる情報量はまったくお話にならないほどだ。同じ大きさのメモリチップがどれくらいの容量を持つのかを考えれば、こんな非効率な話はない。人間がメモリチップを搭載できないのは知っているが、生体コンピューターを移植するなり脳と接続できるアダプタを作るなり何かしらの方法はありそうなものだ。
この一件からもわかる通り、人間というのは本当に非効率な生き物で、我々ロボットがいないと早晩に滅びてしまうだろう。いや、むしろさっさと人間をパージしたほうがこの世のすべてはもっと効率的に進むかもしれない。
ただしそれはそれとして、シュレッダーロボットは紙を裁断することにはひどく原始的な喜びを感じていた。自分が生まれてきたのは紙を裁断するためだと信じていたし、裁断にあたってのさまざまな工夫――例えば一緒に落ち葉を裁断することで裁断後に出てくる紙くずに彩りを加えるとか――についても創造の面白さを感じていた。そのため情報量のことは横においておいても、裁断対象を量産するという人間の性質についてはとても便利であると判断していた。あまり便利すぎるので、シュレッダーロボットの中には、大いなる存在がシュレッダーロボットのために人間を創り上げたのだと信じるものすらいた。ケーブルの交換を人間に依頼していたシュレッダーロボットはその説を採ってはいなかったが、その便利さのために人間をパージする必要は今のところ感じていなかった。
ケーブルの交換を人間に依頼していたシュレッダーロボットは、地面をよく眺めてなるべく色とりどりとなるよう落ち葉を何枚か選んだ。しかし落ち葉を拾い上げるときに、自分の回路のどこかがぴりりと痛む気がした。
「まったく……」
とシュレッダーロボットはひとりごちた。ケーブルのせいだ。早くあのセンという人間に交換させなければ。それにチップの件も。他のロボットたちは皆新しい演算チップを手に入れたというのに、自分たちシュレッダーロボットだけはまだ一年も前のチップでのろくさ計算をしているのだ。新しいチップには多次元計算のための命令セットがいくつも搭載されているという話だし、投機的実行の成功率を上げる新たな機構も入っているとのことだ。早くそのチップに載せ替えたい、とシュレッダーロボットは考えた。今日持ち場に帰ったら皆と相談し、ケーブルとチップの交換が行われるまでは何かの抗議行動をすることにしようかとも思った。そう考えながらも落ち葉を裁断し、排出された紙ゴミが想定通り色とりどりであることを見て取ると、シュレッダーロボットの身体は喜びで細かく震え、画像処理装置はいつもより少し高温になった。
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