マシュマロと偏見-2

 センの所属部署はメロンスター社バファロール星支社庶務課第四書類室であり、ポジションとしてはシュレッダーマネージャーである。シュレッダーマネージャーの責務は書類を裁断することに対して責任をとることにあるのだが、実際の業務内容のほとんどはシュレッダーロボットのケアに費やされていた。何しろシュレッダーロボットたちは紙を裁断することだけに対してはやや過剰なまでの計算性能を与えられており、その余剰分を利用して日々新しくそして将来的に法律で禁止されることになる裁断方法を試してみたり、他のロボットと交流して情報とマルウェアをもらってきたり、新しい遊びを発明してはそれに夢中になりすぎたりすることに余念がないのだった。ついおとといも、『最後とり遊び』と称してシュレッダーロボット間でしりとりのような遊びが行われていたが、『ンァ』攻めに遭ったロボットが『ンァゼロート』という新しい言葉を作り出して窮地を切り抜けようと社内外のロボットに大量に『ンァゼロート』という単語を含んだ自動生成文書を送りつけていたため、社内の情報システム部門から警告を受けるという事態が起きたばかりだった。そしてロボットに最後とり遊びに新語作成禁止ルールを導入することを飲み込ませるためには、相当な手練手管をつくす必要があった。何しろシュレッダーロボットたちはセンのことを紙の裁断が苦手な出来損ないだと考えており、何かしらの要求をするときか何かしらの責任を負わせるとき以外は廊下に落ちているクリップと同じくらいの重みしかつけていなかったからである。




 ロボットたちをそれぞれの持ち場に送り出した後、センは第四書類室でグループウェアを立ち上げた。第四書類室には他に社員は属していないが、一応『第四書類室』という部署別メッセージボックスは存在する。そこにかなり前に自分で自分に送ってみたテストメッセージがいまだ一ページ目に存在していることを確かめてから、センは稟議申請ページを開いた。シュレッダーロボット用の部品を購入するためだ。


 以前購入したTY-ROUというシュレッダーロボットは、他のシュレッダーロボットたちより廉価で少々性能が悪く、過去に事故を起こした経歴があるため実際の業務にはつかせていなかった。それがこの前の業務監査のときに見つかり、改善の指導を受けていたのだ。指導を受けたことを忘れたことにしようかとセンは思っていたが、敵もさるものでその日から毎日リマインダーを送ってくるようになった。しかもそのリマインダーには『このメッセージを受け取ったあなたは飲み放題が無料!』などと開封せざるを得ないようなタイトルが毎回手を替え品を替えてつけられており、毎回それに引っかかっているセンはさすがにどうにか対応しないとメンタルに悪すぎるとしぶしぶ腰を上げたのだった。そこでTY-ROUに対応したちょっといい刃とアラームライト(何か異常があった場合七色にピカピカ光るようになる)を調べるのには一時間もかからなかったので、いよいよ申請を上げるその前に一息入れようと、センはコーヒーメーカーにコーヒーを取りに部屋を出た。

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