生かすか、殺すか
「ひだまりの中にガチスのスパイがいる」
この報告は会議室の中をカオスにしました。
どこの世界でも裏切り者は許されないものですが、ひだまりの民はとてもまじめで素直なため、特に裏切り者には厳しい風潮がありました。
前の話でコウメイとテレスが発言したのは、そうした空気の行き過ぎを懸念し、冷静になるようたしなめた面もありました。
コウメイもテレスも人間というのはそんなにきれいな存在ではないし、善悪で人を判断するのは戦ではマイナスであるという考えでは同じでした。
この点を少し補足すると、コウメイの場合、孫子や韓非子のような思想を学び尊ぶことにより、こうした裏切り者を道具として有用な者と見るという思考が根底にありました。
テレスの場合、母国デンゲルの歴史が大国に翻弄された小国ゆえに裏切りに対する経験値と許容度がとても高いという背景がありました。
しかし、どちらもひだまりの考えと自分たちの考えを天秤にかけ、比較したうえでより賢い方法、問題に対して有効な道筋を求めるという点では同じで、そのためこの会議室での「清廉」な空気を変える必要を強く感じていました。
さて、会議室での討論ですが、やはり初めに出たのは、「裏切り者許すまじ」という正義と処断の言葉でした。
それに賛同するもの多数、次から次へと勇ましい発言が飛び出してきます。
そして、一通り発言が出尽くし、血気盛んな若手官僚たちの気力が萎え、隙ができた頃合いを見てコウメイが発言します。
「で、具体的にどうするのが皆さんのご意見の総意なのでしょうか」
この言葉でまたもや会議室の雰囲気は変わりました。
最初に威勢のよい発言をした若手官僚たちもごにょごにょ言うだけではっきりしません。
それも当然なことで、この会議はあくまで私的なもので何の権限も決定権も与えられていません。
官僚たちも失礼な言い方ですが組織の中では下っ端が多く、自分たちより立場の上の「裏切り者」たちに何かを行うということは事実上不可能でした。
ここでコウメイが畳みかけます。
「ここは裏切り者を殺すことを考えるよりも、どうやって活かすか、利用するかを考えた方が建設的ではありませんか」
こうして沈静化した会議室で、今度は具体的な話が行われますが、それは次回のお話で。
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