猟犬を生かしてうさぎも残る その14

テレスたちが最も懸念したことは、「ひだまりの国に対して計画の遅れを容認した分、デンゲルに対する侵略の優先順位が上がったのではないか」ということでした。


デンゲルはガチスに情報や文化や思想の面で依存 (デンゲル人の多くは認めないが) していました。

その一方でソーラー連邦に経済と軍事において密接な関係を築いていました。


その国内の分裂をひだまりの国をいじめることで隠し通していたという事情は以前話しました。

テレスたちはそれによって世論が一致していたものが壊れ、世論が分裂することを恐れました。


もし、デンゲルが一度分裂した場合、かの国の国民性から二つが三つ、三つが四つと際限なく世論が分裂、憎しみ合い収拾がつかなくなる可能性が高いのではと想像したのです。


そうなれば、ガチスはその国家方針に従い介入をして、デンゲルを傘下に収めることは規定事実ではと危機感を強めたのです。

この時のデンゲル宰相はガチス信奉者であると同時に現実よりも理想を追い求める傾向の極めて強い「思想家であり夢想家」でした。


そんな状態でしたから、テレスは絶望的な観測を持っていました。

正直、悪い意味で祖国デンゲルに何が起きても不思議ではないほどの不安定感を感じてしまったのです。


テレスとしてはソーラー連邦とひだまりの国と同盟を結びガチスと対抗出来れば理想でしたが、彼の父の国会議員をはじめ、今彼の味方となりうる勢力は非主流派である上に政権を倒す力もありませんでした。


ソーラー連邦に頼んでも、内政干渉という表向きの理由と、複雑怪奇で法も約束も当てにならないというもっぱらの評判であったデンゲルには深く関わりたくないという本音がありどうにもならなかったのです。


また、テレス自身もデンゲルの世論はひだまりのように素直にいかないため、下手にいじるとかえって悪化したり深みにはまる恐れを強く抱いていました。


「我が祖国ながら忌々しい」 テレスの偽らざる本心でした。


今のテレスたちに出来るのは、今ひだまりの国で組織を保ちつつ彼らに貸しを作り、将来起きる可能性の極めて高い祖国の有事の時に援助してもらうこと、そう諦念するしかありませんでした。


全く信用できない宰相と、自分の祖国の民が賢明な判断をすることを願いながらテレスたちはひだまりの会議を聞くことにしました。


次はひだまりの会議の続きを紹介します。




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