猟犬を生かしてうさぎも残る その13

大国、まして覇権国を狙うのであれば、平和ボケしたひだまりの国とは違うだろうとは、この会議室にいた人々も概ね理解していました。


しかし、期間を区切って戦争やクーデターの予定を組んでいるところまで想定していた人々はいませんでした。

その点で、外務官僚の報告は会議室の空気を一気に緊張感の渦にしてしまいました。


前に述べた通り、ガチスと昵懇の外務省のレポートなどどうせいつもの定時連絡程度と、内心見くびっていた多くの人々にとって裏をかかれたという意味で二重のショックでした。


後から冷静に考えれば、潜在的敵対関係である軍事や情報を仕切る総務よりも、普段から仲間関係のような密接な外務省の方が情報の管理が甘いというのは当たり前のことでした。


ひだまりの民は素直で気真面目なので、こうした発想がポンと出てこなかったのです。

やはり、多少の犠牲を払っても交友を保ち、情報を得る努力をすることが大事だといまさらながら若き出席者たちは認識を改めました。


さて、この情報を聞いて別の意味でショックを受けていた人々がいます。

デンゲル人テレスとその仲間たちです。

この情報は主にひだまりの国が対象でしたが、報告のなかにあった「周辺国全体に対する侵攻の速度」に関する情報はデンゲルも対象と考えるべきでした。


地理的にも文化的にも経済的にもガチスとデンゲルは近い関係にありました。

いままでは対ひだまりの共通の味方ということで信頼関係にありましたが、この情報を分析すると、そんな悠長なことは言っていられないと強く感じたのです。


以前も説明した通り、デンゲルも「唯我独尊」の空気が強い国家です。

国民の意識としては自己評価が極めて高く、超大国ガチスに対しても鼻息が荒い国民性がありました。


その一方で現在の宰相はガチス崇拝者であったために、国内世論は見事に分裂していました。


その亀裂を隠す存在だったのがひだまりの国に対する政治、文化、経済、序列などの優位性でしたが、このところのひだまりの国の情報戦による巻き返しでその優位性が怪しくなってきました。


さて、少し長くなりましたのでデンゲルの現状と未来に関するテレスたちの分析と憂鬱は次の話で紹介します。




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