第168話 張良といろはの「る」

流通すと 貴人や君が 物語り 初めて聞ける 顔持ちぞよき


現代訳

既(すで)に自分がよく知っていることでも、目上の人の話は、初めて聞いたような顔つきで聞くことがよいのです。

相手の身になってあげることです。


以前の章で島津いろは歌を紹介したとき、この文章を選びました。


今回は歴史上の人物ということですぐに「張良」が思いつきました。

はずかしながら、その後他にないかと思案を巡らしましたが出てきませんでした。

もしこの章をお読みになった後他に紹介したい人物や出来事がありましたらご紹介していただけると勉強になります。


さて、張良とは今から約2200年前の人物です。

よく、三国志の諸葛亮と比べられる天才軍師です。

彼の父も祖父も「韓」という国の相国(首相)を務めていました。

当然彼は若きエリートであり、知識も沢山あったに違いありません。


そんな彼ですが時代が変わり過酷な運命が容赦なく襲ってきます。

彼の国は「秦」という国に滅ぼされ、かれは流浪の旅に出なければならなくなります。


ある日、張良が橋の袂を通りかかると、汚い服を着た老人が自分の靴を橋の下に放り投げ、張良に向かって「小僧、取って来い」と言いつけました。

張良は頭に来て殴りつけようかと思ったが、相手が老人なので我慢して靴を取って来ます。


すると老人は足を突き出して「履かせろ」と言います。

張良は「この爺さんに最後まで付き合おう」と考え、跪いて老人に靴を履かせました。


老人は笑って去って行ったが、その後で戻ってきて「お前に教えることがある。5日後の朝にここに来い」と言い残します。


5日後の朝、日が出てから張良が約束の場所に行くと、既に老人が来ていました。

老人は「目上の人間と約束して遅れてくるとは何事だ」と言い「また5日後に来い」と言い残して去ります。


5日後、張良は日の出の前に家を出たが、既に老人は来ていました。

老人は再び「5日後に来い」と言い残して去って行きます。

次の5日後、張良は夜中から約束の場所で待った。しばらくして老人がやって来た。


老人は満足気に「おう、わしより先に来たのう。こうでなくてはならん。その謙虚さこそが大切なのだ」と言い、張良に太公望の兵法書を渡して「これを読めば王者の師となれる。13年後にお前は山の麓で黄色い石を見るだろう。それがわしである」と言い残して消え去りました。


長い引用でしたが、要は老人の話を我慢強く聞くこと、それは「この爺さんに最後まで付き合おう」と考えたという点に表れています。

いうまでもないですが、彼は老人の話を聞くことを決心していたので自分からは話をしないことも意識していたでしょう。


さて、張良のこの謙遜な態度はその後どうなったのでしょうか。

彼はその老人から太公望の兵法書を受け取り「これを読めば王者の師となれる」というお墨付きを得たと記録されています。


その後、彼が劉邦という人物の軍師となり、天下を統一したのは有名な話です。

この話には別の解釈があり、張良が誰かの弟子となって兵法を学んだという解釈もあるそうです。


いずれにせよ張良は老人の話を黙って聞き、その心証の良さによって人生が開けたといえるでしょう。

読者の皆様もいろは歌の「る」の教えから目上の人を立てるこうした方法を実践されてみてはいかがでしょうか 。







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