第167話 司馬衷といろはの「ぬ」

さて、暗君三部作最後の一人は司馬衷です。

この人物の心を盗んだのは「悪女」賈南風です。

さて、彼の人生を見てみましょう。


司馬衷は三国志で有名な「司馬懿」の孫で全国統一を果たした司馬炎という人物の息子です。

彼の父も全国統一するまでは優秀だったようですが、統一後緩んでしまいます。

司馬衷はその司馬炎の後を継いで皇帝となりました。


ところが彼の政治の主導権は皇后の賈南風とその親せきに乗っ取られてしまいます。

というか、この人物やる気を感じないのです。(この時点で良心が盗まれていたのかも)


そしてこの賈南風は自分の意に合わない人物を片っ端から粛清していきます。

その中には彼女が危機にあったときかばってくれた司馬衷の先の皇后もいました。


彼女と賈一族の専横の結果、綱紀は大いに乱れ、賄賂が公に行われ、貴族の家柄は他者を軽んじ、忠賢の道は断絶した。讒言・邪説をなす者ばかりが得をするというひどい有様であったと記録されています。


余談ですが、皆様はマリーアントワネットが言ったとされる、(実際は別の貴族の発言で彼女は冤罪とされる)「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。


この言葉よりも約1500年前に、この司馬衷は天下が荒れ果てて、穀物がないため民衆が餓死していると聞き「何不食肉糜(何故挽肉で作った粥を食べぬのか)」と言ったと記録されています。


物を知らないといえばそれまでですが、庶民の心というものを全く理解していないのがこの発言からもよく分かります。

司馬衷という人物を見ると「心が弱かった」と思えてきます。

その弱い心を賈南風に盗まれたように思えます。


ちなみにこの後、賈南風は宮廷闘争で敗北し自殺に追い込まれます。

でもそのことで司馬衷は悪政を変えたという記録はありません。

彼の盗まれた「良心」は結局もとにはもどりませんでした。


そしてその後中国は三国志の時代よりもはるかに長い間分裂し、その間民衆は戦と悪政に苦しめられることになります。


補足になりますが、殷の紂王、夏の桀王など中国の歴史を見ると悪女におぼれたり、女性におぼれて国政をおろそかにした愚かな男性が沢山現れます。

三国志演義でも劉備を堕落させるために孫権が酒池肉林を計ろうとしました。

ある意味定番のお話なのかもしれませんね。


さて、三つの章にわたって、「心が盗まれる」ことについて考えてきました。

私たちが耳と目に映るものに注意を払い、危険なもの、有害なものには気を付けましょうとアドバイスを受けました。


今回挙げた3人の暗君のようなことはないにしても、私たちの周りにも良心を破壊する耳目に入る情報は沢山あると思います。

叶うならば強い心をもってそうした情報に惑わされないようにしたいですね。


次はいろは歌の「る」です。

これはすぐ思い当たる話がありましたが、逆に言いますと一つしか思い浮かびませんでした。

どうぞお楽しみに。




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