第162話 楠木正成、光武帝、サラディンといろはの「り」

理も法も 立たぬ世ぞとて 引き安き 心の駒の 行くに任すな


現代語訳

ものの道理も法律も役に立たぬ世の中だからといって、好き勝手に、自分の心のおもむくままに行動するのはよくないことです。


この現代語訳を読んで、わたしは「北斗の拳」の世界を思いだしました。

「ヒャッハー」と叫ぶモヒカンの群れたちが好き勝手に物を奪い、警察も治安組織もなく弱者が虐げられる世界。

あるいは食べ物や水が不足する世界です。


犯罪を犯しても裁かれない世の中でも強く自制するというのはある意味難しいかもしれません。


題名に挙げた3人、楠木正成、光武帝、サラディンは時代と地域は違いますが共通点があります。

それは前の王朝が倒れ、行政機関がマヒするいわば北斗の拳の世界のような無法時代を経験しながら、自制しつつ世の中をまとめていく人生を送ったという点です。


まず、楠木正成から見てみましょう。

彼が活躍したのは鎌倉幕府の末期から建武の新政にかけての時期です。

鎌倉幕府の末期、政治は乱れ、庶民は重税に耐えかねて悪党となり暴れまくりました。


鎌倉幕府の権威はますます低下してやがて全国で無政府のような混乱が起きます。

楠木正成は最初幕府方として、そうした反乱勢力を得意の戦で討伐していましたが、幕府が持たないと悟ると、新たな秩序を求めるべく後醍醐天皇側につくことを決心します。


彼の戦い事態は少数で大軍を相手に戦い勝利する「ゲリラ戦」が多かったようですが、彼の戦いの目的は、「体制側の安定」でした。

言い換えれば、盗賊になって領地を荒らすのではなく治安を回復するために戦い続けたというのが本当のところだと思います。


鎌倉幕府末期のように体制が腐敗し、役に立たなくなったなら新たな体制を作って育てればいい、それが彼の生き方だったのでしょう。


私たちの中にも現代の政治に不満を持つ人がいるかもしれません。

今は、そのような心配は杞憂かもしれませんが、もし災害や戦争などで無政府状態になったり、行政機構がマヒする様であればいろは歌の「り」を思いだしたいですね。


それは無秩序にふるまうのではなく、体制を守る、あるいはよりよい体制を築くように力を注ぐ、そう行動ができれば理や法のない暗いトンネルからもいち早く脱出できる可能性が高まります。


今の日本で無政府状態というのはあり得ませんが、アメリカの一部(シアトルなど)では無政府、警察無効化状態は現実に起きてしまいました。

対岸の火事のままであることを願っています。


さて、次の章では中国のチート皇帝、三国志の英雄たちの英雄、光武帝といろは歌の「り」について考えてみましょう。






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