救えない自分と降り続ける欠片
「知らない天井だ」
ありきたりな言葉を零す。すると、
「おっ、目ぇ覚めたんだな」
「えっと……」
知らない場所で知らないベッドの上で知りもしない人が僕の前に座っている。
「あぁ、やっぱり覚えてないか」
「覚えてない? 僕とあなたは知り合いだったんですか?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
答えたくないのかはぐらかす。そして態度は……人を見下す目をしている。
「何か食うか?」
「じゃ――――」
「――――俺的にはリンゴだな」
僕の言葉、意見には耳を傾けずに、リンゴの皮を剥き始める。
「あの――――」
「――――そういえば、自分の名前は覚えてる?」
またも僕の言葉を遮り質問してきた。なんとも当たり前の質問だ。自分の名前なんて忘れる……わけ、ない。
「あー。その様子だと覚えてないんだな」
どこか馬鹿にするような、
「いや、思い出せない馬鹿か」
否、馬鹿にしてきている。そもそも僕は初対面だ。なのにこの馴れ馴れしさと来たら一級品だ。それに、人を馬鹿にするような態度。とくに目が明らかに人のソレを見下してる。
「あの、ここは病院ですよね?」
「あぁ、そうだな」
男は皮を剥いて切り分けられたリンゴを食べながら答える。どうやら、僕には分けてくれないみたいだ。なら、なんで聞いたんだよ。
「ん? どうやら、自分の置かれてる状況が理解できていないんだな」
「状況? それっ――――」
「――――記憶喪失。主に人間関係と自分を忘れてるんだよ。まぁ、安心しろ。俺がしっかりと思い出させてやるから」
「いや、医者じゃないあなたに何が出来るんですか?」
つい強めの、煽るような言葉遣いになってしまう。
「へぇー。言うねー」
男は気に障ったのか睨んでくる。ただただ目つきが悪いだけかもしれないが……。
――――ガラガラガラ
急に病室の扉が開いて、知らない男女が入ってくる。そして僕と目が合うと女性の方は涙を浮かべて、
「**」
「えっ?」
「よかった。目を覚ましたのね、**」
「えっとどちら様で?」
「「ッ!」」
女性と男性は僕の言葉で同時に息を飲んだ。それだけである程度は予想がつく。僕の母親と父親だと。
「あれ?」
さっきまでここにいたはずの男が消えている。すれ違いで出て行ったりだとかはしていなかった。
「私はあなたのお母さんだよ。こっちはお父さん」
「そうなんですね。どうやら忘れてしまったみたいです」
「そう、ね。**はそんな言葉遣いが丁寧じゃなかったし、表情も柔らかくなかったものね」
女性は、お母さんはそう言いなが鏡を見せてきた。そこに写ったのはさっきまでここにいた男と同じ顔だった。
救えない『モノ』と降り続ける『モノ』 ホタル。 @h0__taru
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