宮廷術師の弟子

五月笑良(ごがつえら)

プロローグ

 国とは、常に栄えていくものだ。

 君主がく道を定め、宰相さいしょうが君主を支える。

 宰相を先頭に、為政者いせいしゃが政をして国を守る。

 憲法やルールの下に国民は安心して商い、営み、そうして国を満たして、また栄える。

 一つでも欠ければせぬ、云千年も昔に築かれた黄金の比率が保たれた、それが国というもの。


 しかしその実、この黄金比率は完璧では無い。

 もう一つの要因が抜けている。

 平民には、あるいは宮廷入りした年若い近衛兵このえへいですら余程知られていない存在がある。

 始まりは誰も知らない。けれど、いつからか大国の王の傍らには必ずその存在があったという。

 君主よりも先を見据え、宰相よりも君主のを支え、為政者達よりもまつりごとの是非に明るく、いにしえの文字を生まれながらに読み、その力や技術を巧みに扱うことの出来る存在。


 その存在知る者達は畏れ敬い、彼等を総じて【術師じゅつし】と呼んだ──



御師様おしさま、書物を片付けたいので、その場所失礼頂きたいのですが。」


「シオリア、あと五分待ってください。」


「五分前にも同じことを仰いました。」


「何百年も生きてるので惚けてしまいました。」


「御師様。この西塔の下にはそれはそれは立派な薔薇がびっしり自生していますので今から重力に従って強く抱擁されれば若返るかもしれませんよ。」


「あはは、辛辣ですね〜。」



 これは、前世の記憶を持ちながら術師としてこの世に生まれ変わった少女と変わり者な宮廷術師の、何でもない師弟の日常のお話。

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宮廷術師の弟子 五月笑良(ごがつえら) @nakanishiera69

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