case1. 許されたい女(3)
それからしばらくして突然、麻美から冴子にメールが来た。
誠二から聞いた通りの経緯が書いてあり、最後に、冴子に会いたいと書いてあった。
いろいろ訊きたいこともあり、冴子は会いに行くことにした。
日曜の昼。場所はファミレスだった。
驚いたことに、彼氏がいっしょだった。
「はじめまして、でいいでしょうか。何度かうちの集まりに来ていただいてるのは知ってますが、個人的にお話するのは、初めてですよね」
礼儀正しいその彼は、私たちよりいくつか年上らしかった。
「実は、ずっとお会いしたかったんです」
思いがけない言葉に、冴子は驚いた。
「僕たちを出会わせてくれたのは、冴子さんですから」
冴子は、そこでハッとした。第三者のように、彼らの動向を批判的に見たりしていた自分が、実はコトの発端を作っていたことに、今さらながら気づいたのだ。
「いえいえ、そんなことは……」と言いながら、冴子はすべての巡り合わせにショックを受けていた。
それから、相手の彼氏には実は闘病中の妻がいること、その看病のつらさの中で麻美と出会い、精神的に支えてもらってることなどを聞かされ、冴子はその妻にも申し訳ない気持ちになった。しかし、目の前の二人は自分に感謝している。こういう時、どういうスタンスを取ればいいのかますますわからなくなって、黙って聞くことしかできなかった。
話の最後に、二人はまたサークルの発表会を見に来てほしいと言ってきた。誠二が抜けたあと、この彼氏と麻美とほか数人が中心になって準備したものだ。
誠二が哀れだ。
だから、行きたくない。
でも、誠二が抜けてどういうものを彼らが生み出すのか、見てやろうという気持ちにもなった。
日程を聞き、冴子は行くと約束した。
そして当日、彼らが今までとまったく違うテイストのものを披露するのを冴子は見せつけられることになる。
まるで主宰者のように振る舞っている紅一点の麻美。それを眩しそうに見つめている彼氏。
内容はすばらしいのだろうが、その舞台に浸ることはできなかった。
SNSによると、そのころの誠二は新しい会を作るべく奔走しているようだった。本当だったら、今、麻美がいる場所に誠二がいるはずだったのに、追い出され、新たなメンバーを見つけるのにも苦労している。そんな誠二のことを思わずにいられなかった。
舞台が終わる前に、冴子は会場を出てきた。
***
だいたいの話を聞き終わったと思った時点で、私は冴子さんに訊いた。
「今のお話を一言で言うと……『何年越しかの復讐』みたいなことでしょうかね?」
昔、遊ばれた男の、その夢を奪って後釜に座る。麻美さんが意識的にやったかどうかは別にして、結果だけ見れば、見事に復讐を果たしたような格好だ。恋愛がらみの部分だけ見ると、そんなに珍しくもない話なのかもしれないけれど、オチが恋愛がらみだけで終わらず、錯綜しているところがおもしろいと言えばおもしろい。
冴子さんは私が総括して言った”一言”についてちょっとだけ考えるように視線をそらしたが、すぐにまたこちらに向き直った。
「復讐、ですか。確かに、まあそれは、聞いた方がどう捉えていただいてもかまいませんが……。それよりも、実はほかにも聞いていただきたいことがあるんです」
意外な言葉に虚を突かれながらも、私は話の続きを聞くべく、彼女がゆっくりとコーヒーを飲み干すのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます