第15話 瀬戸の大神
夜明け前、東の空が白みかけると、上りの日に先駆けて、明けの明星が輝き始めた。
「さあ、
五人は力を合わせて早瀬に向かったのだが、漕げども漕げども、船は進まない。東流れの潮が勢いを増して、船を押し流している。
「早瀬を避けよ。島影に隠れて、上陸だ。」
「海獣クジラだ。海が
「漕ぎ方やめぇい。」
すると、次に大きく潮が引き、五人の船は、たちまちに潮のまにまに流された。寄せる波、引く波がぶつかって水しぶきが柱となって立ち昇った。潮の流れはますます早くなり、大きな渦潮を巻き始めた。小舟は、その渦の中に取り込まれる
「
「なれが
五人衆は、皆々、縮こまって動けない。
「恐れることはない。そちらの日々の働きには感謝しておる。おかげで瀬戸の海、瀬戸の島々は豊かになった。
全身に響き渡る声に包まれて、五人の若者は身動きが取れない。だが、名指しで呼ばれた
「畏れ多くも、
「昨日、
山津見の誠意が伝わったのか、大神は山津見の言葉に丁寧にこたえた。
「門戸の神、
意外にも、
「この早瀬の海は入り江が多く、朝夕の潮の流れは速いが、気候は凌ぎやすく
驚いたのは、
「ところが近頃、瀬戸の東の海に光射し、海も島も人住みて豊かになった。われ、日高見一族との出会を嬉しく思えども、なにせ、海に住みて久しく、クジラの姿長きによって、人の姿かたちとなることが出来ない。
なんと、瀬戸の大神は、
「争いを治めるために、人を寄せ付けない海にされたと申されますか。」
「その通り。汝らの北の国でも、寒さがひどく寒気が抜けず、宇迦の育たぬ時には、多くの争いがあったであろう。
五人は、気づかれないように、互いを見やった。
「われら瀬戸の者たちは、汝らを新たな
「あの時、
若者たちは、「あめつちを守る」という姿なき声が胸に響いた。
「われも、当初は、人の姿をして陸地をわが物とする汝らを信じなかったが、阿波の里での汝らの行いを思い、大島より東の海は、汝らに任せてみようと思ったのだ。阿波姫の気持ちが分からないわけではなかったのだが、次第に、島々に木々が育ち、
大神の話に聞き入っていた
「だが、西の海は違うぞ。西に海があることを知らせれば、必ずや、若衆が渡るに違いない。ここの瀬戸だけは闇の門として閉じ、この海域に近寄ることを禁じてきた。西の海には争いが絶えず、われらの
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