第7話 クジラの鰭(ひれ)
祭の日から二年がたち、三年過ぎたが、
「なぜ、使者は来ないのか。確かに約束を結んだはずなのに。このままでは、
「
日毎、次第にあるがままの姿が見えなくなり、疑い深くなっていった。
「
「そうであったな。
「やはり、そうでありましたか。われも近頃は、門戸の神のことばかりが気になっております。同行の弟たちにも確かめたのですが、「追って使いを出す」との
「だが
「そうだ、あの日の誓いの品を確かめてみよう。あれは、われの体にくくり付けられていたというが、
二人は、人気のいない時を待って、祭壇に祀られている「
「これは、クジラの
「ならば、門戸の神の約束、
「間違いないでしょう。しかも、われがオババの里で見たのは、黒い色をしておりましたが、これは混じりけがなく、真っ白であります。まさに海神の化身に相応しいクジラの
「そうかそうか、
「われは、あの日の海のことが言葉に出てこないのであります。あの海のことが喉まで出かかっても、すぐに戻ってしまいます。だが、今、クジラの
「何か、思い出したか。」
「あの日、たしか向こう岸の丘を離れる折に、
「そうであったな、われも思い出してきたぞ。」
「その時、
「そうだ。なぜに、そのような大切なことを忘れていたのであろう。
「いかにも、
曽良の言葉に
「そうだ、そうであった。われは、かの地の神々に近々の訪れを誓った。あれから三年、彼の地の神々は、われらの訪れを待ち続けていたのであろう。どうしてそのことに気が付かなかったのか 。皆々には、あい済まぬことをしてしまった。早速、このことを
若き
「あの時は、多くの命をわが身に受けたのであるが、一人では耐え切れなかった。われは、もっと強くなって再び、訪れようとの思いを幣に込めた。今がその時かもしれません。」
「そうであったか。
「ありがたきかな、いかにも、われの役目にございます。」
二人は、早速、
出航といっても、眼と鼻の先への船出であるが、三年前の丸太の小舟ではなく、
だが、この早瀬の速さと怖さは
「
「おう、
「しゅっぱぁつ。」
漕ぎ手は、右八人、左八人の十六人であった。
「
次第に櫂の動きは揃い、三十人を乗せた
「さぁ行くぞ~、こぎてはそろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。もいちど、そろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。みっつそろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。」
漕ぎ手十六人の
「こぎてはそろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。もいちど、そろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。みっつそろいて、ひぃ、ふぅ、みぃ。」
十六の
「えいっさ、えいっさ、えいっさ。」
「
しばらく進むと、今度は、
「
漕ぎ手が変わった。こうして、
「全員、
「渡り切った。よくやったな、
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