僕のとある夏の日の過ごし方
黒霧 永夜
僕のとある夏の日の過ごし方
猛暑が数日続き、その暑さは鳴りを潜める気配が無い。
先日クーラーが壊れてしまい、部屋の中は窓を全開にしても蒸し風呂のように暑かった。修理の業者も、明日にならないと来ないと言われてしまった。
扇風機もなく、団扇をあおぐが、気休めにもならない。僕はあおぐ手を止めて、畳の上に身を投げ出した。
一緒に暮らす猫のスピカも、部屋の片隅でぐったりしていた。
食欲も失せているが、栄養を摂らないといけないと思い、台所まで這いずっていった。スピカものっそりと僕の後を付いてきた。
冷蔵庫にたどり着き、扉を開けた。中身を確認したが、碌に材料が入っていなかった。
「そろそろ買い物に行かないとなぁ……」
弱々しく呟くと、スピカが返事をするかのようにか弱く鳴いた。
とりあえず、有り合わせのもので昼ご飯を食べようと立ち上がり、料理に取りかかった。鍋に水を入れ、コンロに火をつけた。冷蔵庫からキュウリとトマトを取り出し、小さくカットしていく。鍋の湯が沸いたので、そうめんの束を投入した。
菜箸でほぐすように混ぜていると、スピカが足元にすり寄ってきた。
「お前のも用意してやるから、待っていろよ」
キャットフードの缶詰を皿に移し変え、細かく刻んだキュウリを少量入れた。これで少しはスッとするだろう。
スピカが食べ始めたのを確認して、茹でていたそうめんをざるに移した。そして、水を流しながらあら熱をとっていく。そうめんを冷ましている間に、カットした野菜にごま油を和えた。そうめんを器に入れ、野菜をのせてめんつゆをかければ完成である。
「いただきます」
麺と野菜をからめて、一気に啜った。トマトの酸味とめんつゆの味が、口いっぱいに広がる。きゅうりのしゃくしゃくとした食感も楽しい。ときどきふわっと香るごま油が、さらに食欲をそそる。
舌鼓を打ちつつ箸をすすめ、あっという間に完食した。
「ごちそうさまでした」
僕が手を合わせるのと同時に、スピカの鳴く声が聞こえた。どうやらあいつも食べ終わったようだ。
汗まみれになった服を着替え、戸締まりをしていく。僕が出かけるのを察知したのか、スピカが玄関の前で待機していた。僕は苦笑しながら靴を履き、扉を開けた。
隙間からするりと出ていったスピカの後に続き、外に出た。室内と違った蒸し暑さに、思わず顔をしかめた。急いで鍵をかけ、歩きだそうとしたところで、数歩先にいたスピカと目があった。
何故動かないのだろうと疑問に感じ、僕を待っていたのかと考えた。まさかと思いながら、とりあえず声をかけてみることにした。
「暗くなる前に帰ってくるんだぞ」
すると「にゃ~」と鳴いてから、軽やかに走り出していった。
その様子に、思わず噴き出してしまった。人間らしい対応をする相棒の後を追うように、アパートの階段を下りていく。
アスファルトに照り返された熱のせいで、さらに暑さを感じた。しかし、先ほど食べたそうめんのおかげか、幾分かましに思えた。
(近場の図書館で夕方まで過ごしてから、買い物にいこう)
そんな計画を立てて、楽園を求める。太陽に熱された道を睨みながら、暑さを振り切るように歩を進めた。
僕のとある夏の日の過ごし方 黒霧 永夜 @eiya-kurokiri
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