除霊できないピュア男子 【特別編】

白神天稀

最強の2人

この物語はただ戦うだけでものほほんとしているだけでもない。唯一無二の2人が異なる強さを持ち、互いに成長する物語────


初めまして、僕の名前は雪村一晴と申します。これは委員会を一般の霊能力者に知っていただく資料であり、とある報告書です。

まず霊管理委員会の話から簡単にしましょう。

霊管理委員会とは文字通り、霊を取り扱う組織です。死後の霊を導き、時に祓う組織。ただそれだけでなく悪魔、天国と地獄、異世界、魔獣などを霊能力者と所属する霊、そして悪魔の人格に憑依した人々によって統治する団体です。

悪魔については別の機会で──秘密組織としてはある意味、世界一の組織です。


本日はある街でのお話です……

都市郊外にあるとても栄えた街、上葉町。委員会の策によりこの町にはいわゆるザコ悪霊や魔獣が集まってきます。危険だと思いましたね?でも安心してください、もっとヤバい人達がいますから……


「零人君、今日は数どれくらい?」


「とりあえず、縛りは解放されないから虫レベだな」


夕焼けを見ながら住宅街をこの2人と歩いています。

一見すると実年齢よりも幼くみえる薄黄色い髪の少年と黒髪に青い瞳のこの方。僕が恐れているこの方々は、委員会では一部でこう言われているのです。

『マジもんのチーターズ』と。それは良いのですが、とにかく恐ろしいです。まあ、この後すぐに見ることになるでしょう。

日が完全に沈みました。悪霊達が活動し始める時間帯というのはご存知ですね?


「よ〜し、頑張ろー!」


「ん?どうした一晴。なんか震えてね?」


「え、大丈夫ですか!?」


「あ、はい。大丈夫ですよ……」


痛い痛い、胃が痛い。この人達の戦闘みてると自分が見てて辛いんだよなぁ。ザ・霊能力者みたいな僕とはもう2、3次元ぐらい格が──


その時に闇の中からズズズと人の形をしたそれが現れる。全身が黒く、ゾンビのように呻きながら死装束で近づいてきた。


「あ、僕の近くなのでお構いなく」


そして一晴は悪霊に近いて手を鳴らす。その途端に悪霊はオォと最後に呻いて成仏した。


「さすが一晴さん! 羨ましいなぁ〜」


「あ、あっはは……」


だが、今度は正面から悪霊がやってきた。道いっぱいになるほどの大人数で呻いて走ってくる。

しかしそれをワクワクした表情で優人は向かっていった。


「僕やってくねー!」


彼の名前は優崎優人。彼は委員会史上初とも言えるような特殊な人です。


「やっはー!!」


「があああ!!?」


彼には一切の除霊能力がありません。一般人でも除霊能力というのはそなわっています。お祈りとかするだけでも除霊する力自体はあるのです。

しかし優人さんには全くありません。じゃあどうするのかって?


「ガガガガガ……オォ──」


悪霊は優人の体から解き放たれた黒い拳によって高速で殴られて、そのまま消滅していった。


ぶん殴るんです。しかも"呪い”で!ありえないでしょ? 呪いは普通、ジワジワと苦しめる力なのですが、優人さんはそれを拳にして殴ります。

その上、呪いは負の感情がなければ成立しないのですが優人さんは特別なんです。それがあの強さの所以です。


気がついたら優人は迫ってきていた悪霊を全て殲滅していた。

全ての悪霊をタコ殴りにして強制的に倒したのだ。祓ってはいない、倒したのだ。

違いとしては微妙だが、討伐はしっかりと完了している。


「やったぁ!」


彼、ものすっごいピュアなんです。精神年齢が低いというのもあるのですが、負の感情を元々持ち合わせていないのです。

以前は、『恐怖』という感情を源にしていた様なのですが現在に至っては謎です。


ここで蒼い眼の青年が声をかけた。


「それじゃ、とりあえず別行動で。優人は悪霊を対峙しててくれ、俺はちょっと準備してる」


「はあい!」


優人は力を足に込める。魔法陣が展開され、彼の踏み込んだ両足が光り輝く。そして建物を越え、上空まで飛翔した。


ああ……なけなしの僕の霊力が。


「待って下さ〜い!」


そして一晴は浮遊するように彼と比べてゆっくりと飛んでいく。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


数分かけて、やっと追いつきましたぁ。

も、もうしんどい、というか空気薄いぃ。

夏だから気温は何とか平気だけど……


今はもうすっかり暗くなったので空の上では良く周りが見えない。だが一瞬にして明るくなった。緑の閃光が街のすぐ上辺りで発生したのだ。


「来た!魔獣の大群」


閃光の中からとてつもない数の魔獣が現れる。出てきた全ての魔獣が飛行できるタイプのようだ。大きくわけて、こちらとその真反対の二手に分かれて迫ってくる。


あっち絶対零人さんいるじゃん……

他にも散ってるけど、多分あの人たちのとこだろうし。


仕事が嫌な訳では無いがとても疲れた表情をする。そしてこれが報告書であると忘れて完全に本音を心の中でぶちまける。


「よっしー! いくよぉ──」


出た!優人さんの十八番のアレ。


呪錬拳じゅれんけん!!」


漆黒の呪いの拳からルビーやサファイア、ダイヤモンドやエメラルドなどの宝石類がアスファルトのように拳から飛び出しさらに拳の周りを青い炎が覆う。


これが優人さんの呪錬拳……呪いの拳と鬼火、そして錬金術の掛け合わせ技だ。


それらの拳が計7つ、燕のように目標に向かって飛んで行く。そして魔獣の大群中に入った途端に──爆発した。

呪錬拳それぞれが正確な動きで魔獣の心臓と思われる部分を突き抜けて飛び回る。


そして貫かれた部位から燃え尽きるか、そこから錬金術製の宝石が大きな棘のようになって刺さるかして消滅する。


実体化していない魔獣ばっかり……ん?

あれは実体化しているなぁ。


目の前から唯一残っていた魔獣が迫ってくる。その魔獣は馬の上半身と腰から無数に生えている触手で体が構成されている気持ちの悪い魔獣だった。


「あれは新種ですね。優人さん、委員会の調査のためにアレは倒して下さいね。あ、いえすいません」


「どうしたんですか?」


「あ、いつもなら除霊してしまうと調査できないので能力者さんには除霊なしでのオーダーをしていまして……」


「オッケー! 僕できないから大丈夫ー!」


優人は何も無い空中からスっとそれを現せる。それは混じりっけのない純粋な翠の刀。

日本刀より少し短いぐらいの刃でその刀身は夜でもみえるほどの純度が高かった。

エメラルドの刀の反射光がチラッと見えた瞬間に優人の姿が消えてなくなる。

そして神速で駆け抜け、魔獣の横を通り斬った。


これはほんと……才能としかいえないですね。


優人が決め台詞のようにビシッとした声でその美しき斬れ味の愛刀の名を呟く。


「幻想刀……」


夜風に晒され、優人のレモンのような髪が軽く靡いた。


「……あ、一晴さん! もう多分終わったみたいだから零人君のとこにいこー!」


「はい、じゃあ向かいます……はっ! あれは──」


「っ!」


街の上空で巨大な魔法陣が展開される。その魔法陣からは黒い稲妻のような波動と共に魔法陣に見合った巨大な者が出現する。2本の角、マントや装飾品、そして魔獣らしい顔立ち。


「あれは異世界の魔王、急なオーダーが入りましたね」


「も、もしかしてだけど零人君……」


『ご名答! さすが優人だ。状況判断早ぇな』


「零人君!」


「零人様!」


2人の横に突然ホログラムのようなモニターが現れた。そこにはちょうど出現した魔王と同じぐらいの位置にいる零人が見えていた。


『それじゃ、片付けるから見ててくれていいぜ』


「零人君ファイトぉぉ!!」


……そういえば、彼の紹介を忘れていましたね。彼の名前は真神零人。霊管理委員会の霊能力者の中でトップ7、7つの大罪『怠惰』の名を冠する能力者。7つの大罪の中でもトップの若干16歳の少年です。


簡単にいえば──世界最強の霊能力者です。


「やっと来たぜ、俺のサンドバックがよお!!」


『ブオオオオォォ!!』


「よーし、このぐらいなら制限は解除されたか」


魔王は口元に魔法陣を出し、それを回転させる。そして咆哮と共に炎のブレスを吐く。ビルが1棟包まれるほどの大きさである。

そのまま一直線に零人の方向へと飛んでくる。

その炎を前にして、零人は目を見開いて笑う。腕を伸ばして中指を親指で抑える。


「その程度かなああ!!?」


そしてチャージしたデコピンを何もない宙で繰り出す。その時、指から衝撃波が生まれてやがてその圧力は音速の壁を超える。

その勢いは飛龍のような烈風に乗って炎を突き抜けて魔王の顔面に当たる。


『バアアア!!……ガアア!』


魔王は自分の背後にまだある魔法陣から魔獣の追加注文をする。さっきの倍以上は数がいる。しかし依然、嬉々とした様子で零人は目を輝かせる。

これが零人のストレス発散、本気を出せる相手はボウリングのピンの代わりに過ぎない。


「それじゃあこっちも追加だあ! 行け! ソロモンの72柱ああ!!」


テンションメーターがぶっ壊れた零人を見て画面越しの一晴は顔面蒼白になる。そして小刻みに揺れを刻む。現在、震度3。


「あああ、あの人ソロモン72柱を簡単に。ほとんど聖獣クラスのをあんなに……怖ぇ、怖えよ」


震度4。

ちなみに聖獣と言われるのは、委員会の中の召喚獣や悪魔の中で上位の存在だ。聖獣として定められている者たちは皆、神話やゲームなどで名前を聞いた事のあるような者ばかりだ。


ソロモンの悪魔たちの実力に加え、零人の霊力が上乗せされて圧倒的な力で魔獣をねじ伏せていく。備考だが、彼らのは全員自我があるため使役は容易じゃない。


まさに地獄絵図な中、零人は邪魔者を排除して魔王とサシで話す。もちろん、和解でなく宣戦布告のような形で。


「悪いが、お前はここで沈んでもらう!!」


『!!?』


魔王の上空に魔法陣が何重にも重ねられて配置された。ざっと見ても20は重なっている。魔王の表情も一晴は心なしか絶望したように見えた。優人は零人の圧倒的な力を見て胸を膨らませ、目を煌めかせた。


そして最期に零人から特大の贈り物をする。魔法陣は文字や紋章が光り、それぞれ交互の向きで高速回転を始めた。

世界最強の手によって魔王はこの地で息絶える──


「グランド・オブ・トール!!」


雷、炎、圧力、引力、霊力の超質量が魔王に降り注いだ。巨大なエネルギーによって体を消されていき、断末魔を上げるのも許されぬまま完全消失した───


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「いや〜、零人君すごかったね!」


「久しぶりにスカッとしたぜ。なんか買い食いでもしてくか?」


「いいね!そうしようよ」


戦闘が終わった2人は驚くほど普通の学生のように並んで歩いていった。先程とはうって変わりとてもにこやかに街の方へと歩いていった。


……やっぱ怖いし、凄えなあの2人は。憧れるけど──やっぱ怖いな。

あ、これ報告書なの忘れてた!やべえよ俺の本音モロだしじゃん。


恥ずかしさで焦りながら歩いていく2人を静かに見送った。憧れと恐怖を抱きながら。



この物語は、この最強と言われる2人の紡ぐ霊能力と青春の話である──

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