第61話 33日目
まわりが見えない。
眼を使うのが困難な者がそうするように、手を使って弄った。
冷たく、かたい。
宙には浮いておらず、かたいものの上に立っている。
どこからか水の音が聞こえた。
メルスはこのままでいることに耐えられなくなり、弄り続けながら歩き始める。
終わりがないように思えてきた。
足元は滑りやすく、よくよく注意すると空気の動きがあるのに気づいた。
メルスが「足元にまとわりつくものがあるよ」と言ってくるのを、俺が経験から導き出したわけだ。
指先を唾液で湿らせ、流れを読む。
横からだ。
道が分かれ、暗闇の迷路を風の通りだけを頼りに伝っていく。
音が聞こえてきた。
水流、それも少なくない。
慎重にならざるを得ない。
片手を壁らしきところに沿いながら、もう片手を前方へと突き出し宙を弄り、壁らしきに突き当たると沿うに従ってこの迷路をにじり進んで行く。
においは特に強くかおってこなかった。
一言も発せず黙々と作業を繰り返していると、急にあたたかな空気に包み込まれた。
それとともに、はるか上にまんまるいものが望める。
――月だ。
すぐ横を川が流れ、石畳の歩廊の上にいた。
水路の側道にでもいたか。
暗いことは暗いが、無数の明かりがあたりを彩っている。
まるで街の中だ。
少し先に上へと続く階段があった。
夜か。
どこなんだろうと思い巡らしている間にも、メルスは階段をのぼっていく。
のぼりきり、あたりを確認して、ここがどこかの街の水路だったと確信する。
それも街中だ。
近くに管理小屋だろうか、小さめの建物がある。
見るとメルスはへろへろだ。
――扉は開いていた。
誰もいない。
最低限のものは揃っている。
今日はここで一晩を明かそう。
硬めだがちゃんとしたベッドがお出迎えだ。
沈み込むように眠りにつく。
それでもカタコトでたわいもない話を紡ぎあった。
とても楽しく、この上なく幸せだ。
早くも33日目終わる。
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