第42話 23日目続き

 こっちこっちと、装置の裏に回った。

 装置の中央に透明な浅い出っ張りがある。

 みたところ、ガラス状の小型の縦のカバーのようだ。

 中で光がパッパッパっと、点滅している。

 ウィルオウィスプに見えなくもなかった。

 それがぼうっと光り続けだし、だんだんと光量を落としていくと何であるかがようやくわかった。

 小指くらいの大きさだろうか。

 裸ではないが薄着のドレスで、背中に昆虫の羽を生やしている。

 妖精だ。

 こちらを視認すると、怯えて下の方で縮こまって小刻みに震えている。

 捕らえられているのか?

 とすると、察するにこの妖精がこの装置の動力源なのか?

 どうしようかと思案していると、メルスが動いた。

 やさしく、カバーを撫でつける。

 気持ちはわかるよ。

 何回か撫でると、バチっと火花が走る。

「@:#$**?」

 テレパシーのようだが、それでも意味を介していない。

「ぽぅtぴばでゆひゅーも!」

 メルスも応えようとするが、さらに身をすくめる妖精に通じているとは言い難い。

 それでもばんばんばんと叩きつけたり、取り乱したりしないのは凄い。

「じゃがいもさん、もっと話して!」

 ん?

 今、なんて言った?

「そんなにほくほくしてたんじゃ、いつか誰かに食べられちゃうよ!ソムの親戚なんでしょ?もぅっと、強く念じて!」 

 まてまてまて、メルスにはこいつがホクホクとよく蒸されたジャガイモに見えてるってるのか?

 メルス、そいつは妖精だ。

 ソム、このお方はじゃがいも姫です。

 ダメだ、話にならん。

 ここはメルスに合わせよう。

 それにしても――暗号のようなものか。それともバグか、ノイズか。

 雰囲気とジェスチャーという手もある。

 ホクホクじゃがいも(姫?)に伝わるのかだが……。

 バターと魚醤をかけると旨いんだよなあ。

「&&&&&」

 うーん……?

 メルスは撫で続けている。

 怯えが少しおさまった気がする。

 俺ミラクル、試してみるか。

 メルスに俺自身をカバーに触れさせてみるようさせる。

 おおっ!バチバチいってるぞ!

 心なしか、空間自体が振動している錯覚がある。

 期待半分不安半分で見守る、構えられないけど構えのイメージを持つ。

 ひゅん!

 驚いたメルスの口の中めがけて、入ってしまった!

 目から口、耳から光があふれだす。

 さらに空間、世界が振動した。

 吐き出すんだ!

 くすぐったいのか、大きくくしゃみをした。

 半透明の何かが、口からぽんと、飛び出る。

 すぐさま俺たちの頭上をぐるぐる旋回して始めた。

 あまりにも存在感がないので、いたことを覚えていないと、そこには何もいないと認識してしまいそうだ。

 少なくとも敵意はない。

 ただいるだけ……?

 メルスが話しかけてみるが、反応はなく、自由気ままに、でも我々から離れずそこにいる。

 周りの状況をうかがった。

 よくわからないが、何か、何かが変わった兆候がある。

 ざわめきのような、泡立ちのような……。

 !

 地と図が入れ替わった、総毛立つ。

 何だこれは。

 メルス!

 メルスも自分の両手を見つめながら、感じ取っているようだ。

 メルスはメルスであって、メルスでない……。

 言語では表現し得ないクオリアだった。

 良いことなのか悪いことなのかわからない。

 この妖精が起点だったっていうのか?

 この洞窟は何なんだ?

 メルスが俺に袋越しに包み込むように手を置き、

「ふたり、大丈夫……」

 この世界の只中で、ここだけがくっきりと明確化されたようだった。

 確信が生まれつつあった。

 メルスとなら、やっていける。

 それこそ、死んでしまうくらいのピンチだって、共になら乗り越えていけそうだ。

 これまでのどっちつかずの迷いはなんだったんだろう。

 歳の差。

 ロマン掻き立てる存在としての眩しさ。

 ひとつにまとまりそうだった。

 知っている感情が芽生えようとしたその時だった。

 


 









 地面の底が抜けた。

 咄嗟、メルスは落ち行く中であろうことか、俺の入った布袋を手放してしまう。

 ふたり、声にならない叫びをあげる。あげつづける。

 あまりにもなアクシデントではないか。

 意識に影が入る。

 やめてくれ。

 そのまま意識が途絶え、23日目終わる。

 

 

 

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