第40話 22日目続き

 いつものメルスはなりを潜め、黙ったまま歩みを続ける。

 俺も自然、外には漏れてないはずなのに喋るのをやめていた。

 こつこつこつと、しつこくない程度に確かめ棒で先を探り進むのだが、異音がしたり、何か引っかかったと思ったらすぐにでも後ずさるよう体術も軽くレクチャーしておいた。

 やりがいを誇らしく思っているのか、メルスはいつにもまして真剣そのもの。

 ペース配分はまだまだか、集中力が途切れると休み休み進むことになる。

「ふう」

 低い平らな岩に腰かけ、水袋の水で喉を潤す。

「何もないね」

 これじゃまるでピクニックだ。

 ではピリピリ感じてくる緊張感はなんだろう。

 慣れない場所だから?

 ここはあまりにも隠された部分が多い。

 感じているのに感じられない。

 奇妙さはある。

 明確に言語化できないのがもどかしい。

 ん!今、目端で何かをとらえた。

 何らかの動きだ。

 直感が、危険を知らせている。

 メルスの身体が、踊った。

 正確には、避ける動作。とっさに松明替わりの明かりを真一文字に構えて持っていた。

 背後で、火の手が上がった。

 断末魔の絶叫が聞こえる。

 メルス!

 すぐさま近くの岩陰に身を隠す。頭を抱えて縮こまる。

 奥からものすごい勢いの豪風が吹いてきた。

 渦を巻き、砂塵を巻き上げる。

 必死になって辺りに捕まっていたが、堪えきれなくなり、後ろへ転ばされていく。

 腰の布袋は絶対に離すまいとしてくれている。

 ――頑張れ!

 それだけしか言うことが出来ないのが悔しすぎた。

 足に重心をかけ、岩壁に手を引っ掛けて踏ん張っている。

 ひゅん、という音が切り裂いた。

 メルスの頬が薄く、スパッと切れ、血がにじみ出る。

 かまいたちか?

 目に見えない空気の刃は、容赦なくメルスを襲う。

 弄ぶかのように、細かい小さな傷をつけていく。

 ところどころから、血が垂れる。

 すっかり滅入っているのかと思いきや、メルスは両腕を盾に、後ろに岩をはいしながら堪えている。

 スパッスパッスパ!

 傷の数が多くなり、膝を頽れる。

「ソム……」

 それでも諦めない形相をしたところへ、大きく腹をズバッと嬲られた。

 !!

 力が抜け、もんどりうち、転げ回りながら――

 なんとか袋から俺を取り出し、

 弱弱しくキスをすると、

 力を振り絞って口に含んだ。

 一見すると理解不能の行動だったが、それが大事な人を感じていたいがためとわかり、思わず声を荒らげて、存在自体を世界に向かってぶつけていた。

 メルスをどうにか救ってくれ!

 以前の意識の断絶が起こり始め、なすすべもなくすべては空虚の中へと放り込まれていた。

 22日目、終わりたくないが終わる。


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る