第29話 18日目

 夢は見なかった。

 そのかわり、いしとなった。

 かたくてゆるがず、ずっとおともなし。

 わるいもないかわりによいもなく。

 ただただつらぬきとおすのみ。


 こそばゆい。

 !!!

 リスが胸元を出入りしている。

 そこが温いのか、そこでじっとして、かりかり木の実を齧っている。

 メルスは放っておいて、大の字になってこれまでを振り返った。

 うまれた。

 ぴんち。

 たすけられた。

 きょうりょく。

 だいじな。

 ぽわーん❤️

 しあわせ。

 でもきのせい。

 おもいこみ。

 りょうほう、そうでないと。

 みんなが、まわりが。

 おもいすぎ?

 うん、ちょっとよくばった。

 えらぶってみた。

 おこられるかも。

 そっかな――

 それもいいかも。

 どうしよう。


 っむ――

 むむむ

 むーん


 ……


 んっ、こそばゆいよ、おリスくん。

 いたずらものをつまみだして。


 こんなもの。

 どうにかなる、とけつろんする。

 そむがいってた、ろんりてき。

 じゅんじょよく、かんがえたけっか。


 どこかまちがえているとはわかっている。

 それでも、どうしても。

 あきらめなければ、いつか、どこかではなひらく。

 はなはほめてくれた。

 はゅながみで。

 うー

 つづけてかんがえるの、たいへん、たいへん。

 いまたいへんおろかなのもわかっている。


 ……これが、たぶん。


 メルスはキラキラ球をおもいっきし地面にたたきつけた。

 ぱりいぃぃぃん


 われて、なかからそむがでてきた。


 またあえたね!



 ……意識が飛んでる間に何があったのだろう。

 俺は入れ子状の何かだった。

 たまごのたまご。

 俺は俺ではなく。

 突き放した俺だけが、突き通すように万象事象を観測しつづけている――

 どのような高い意識も自覚次第でいかようにも変わりうるように、厳格な客観などそのまま写し取るからくりuriでさえもその性能仕様次第。

 ただしそうなると、何が正しいのかわからなくなるわけで――


 そむぅ!

 むぎゅり

 おもいっきし握り……潰された?

 いや。

 胸にかき抱かれた。

 そういや俺は孤独であったな。

 女などとは、いっときのかき捨て。

 知識と冒険にばかり心が向いていて。

 無関心ではなかったが、深く関わりあう機会などなかったのだ。

 話し合う程度、付き合う程度なら何度もあった。

 互いの機微を交し合う、触れ合うまではとんとなかった。

 意識していなかった。

 いまは。

 柔らかさを、温かみを満遍なく体感する。

 こんなにも、違うのか。

 喜びが。

 心地よさが。

 存在と存在の交歓が、深いところでさざめきあっている。

 気恥ずかしさはないといえばこれまたない。

 慣れていたのか。

 見知った仲だからか。

 そんなものではないんだろう。

 つながりあって、伝え合っている。

 個体で、非ずなのは当たり前。

 分かり合うというのではない。

 与えあう。

 預かりあうのだ。

 深い魂のストリームが底の底で地続きにどこかでぶつかっている。

 剥き出しの存在はか細い。うつろげであやうく心もとない。

 強いなど幻想。

 ぎゅうううう。

 考えが吹き飛んだ。

 なにを考えこむ必要があるのだろう。

 愚かであろうと、ありのままがいいのだ。

 それは俺のことであり、決してメルスではない。


 みしったなかだかr

 こんなにも、

 重い。

 メルスが投げ打ってしなだれかかる、ように感じている。

 親愛の力そのもの。

 いや、これは……

 いや、いまはそれでいい。

 お願いだから、そうさせてくれ。

 いつもの逃げなのかも知れない。

 あはは、そればっかりな気がするのは気のせいではないだろう。

 いつも円環を描くようだ。

 閉じるのは進展がないので忌避されるが、必要があって、構造自体が強いこともあり、そうなっている時がある。

 いまはその時ではない、これを納得できればじゅうぶんだ。

 その場その場の思いつき、考えの流れがコトをつくりあげているが、それを如何様にして捉え、ポイントポイントをおさえているかだろう。


 いななきがすべてを打ち破った。


 馬だ。

 駿馬だ。




 

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