第9話 7日目
快適な目覚め。
心の中でまだ眠りたい眠気と戦いながら、さて、朝ごはんはなんだろうとワクワクする。夢の中では異景を肴に夕涼みをしたり、柑橘類を浮かべた湯船で湯浴み、ふかふわな寝床で快適な惰眠を貪れたのはネビュラのとりなしだろうか。
しん、と静かだ。
物音ひとつしない。人がいたというぬくもりが残っていない。
なにもかもが寝静まってーーーってそんな!あれは夢だったのか?時空の歪みが見せた幻?自己自演?ともかくもーーー寂しい。こんなに人恋しいなんて。
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
焦った。焦りまくった。どうしよう。
このまま。ただひとり。ずっと。嫌だ。でもなんでこんなに嫌なんだろう。ん。そうか。気づかさせてくれたからだ。容認者。理解者。母のような。太母?あるいはーーー秘密の恋しき人に繋がってるような。
失いたくないよ。ただ、その声をーーー
「ふう。疲れた、疲れた」
たぷたぷと水の入った木桶を床に置きながら、ネビュラは汗を袖で拭っていた。
ふうふう息を切らしている。
「道が思ったより変化しとってな、曲がりくねった先、急勾配で驚かせよるよ。さらには、外の空を見上げると、わからぬ鳥がそちらこちらへと旋回して羽ばたきよるから手を止めてしばらくじっと眺めておった。優雅で優美じゃった。もしかしよるとあれは鳳凰かもしれん。ワシも初めてじゃよ、あんなに綺麗じゃったとはなあ。たっぷり堪能したのでな、視線を戻せば境を遠巻きに麒麟がくつろいどるのが目に留まった。あれははぐれじゃな。たてがみが産毛じゃから、生まれて間もないんじゃろう。今日は朝からついておる。眼福、眼福じゃ」
ーーー!声にならぬ叫びをあげそうになった。
遮るように、
「なあーーー今日は今後のことを話さんといかんのう。旅立ちの心得じゃよ。このままここにいてはいかんしの」
そうなのか?悲しいが、さすがは聡い賢者様だ。何もかもが、理にかなっている、と思い込んだ。俺はいっぺんにして冷静に引き戻された。?あんたすげえよ。
朝食も早々、しっかりとした話に入る。
「話すといっても、多くは語らんよ。このようなおとぎ話の定番通り、おぬしが自分で探していかんと身になっていかんからの。ただ、長い道のりになろう。ここに来ることはもう無いが」
そんなこと言わないでくれよ。
「なあ。物事にはあるべき時、然るべき、というのがあるんじゃ。悲しむことはない。むしろ懐かしむんじゃよ。この世は踊り、舞っておると考えてみるんじゃ。みんながみんな、合わせてステップを踏もうとしている。混沌が渦巻くさなかにあって、な」
わかったようでわからない。
「きたようじゃな」
外を見て言う。
?何が。
ネビュラは俺を大切に手に持つと、外へと出てゆき、庭の池に向かう。
「では行ってこい」
あろうことか、放り投げた!
拍子に、飛び跳ねた一匹の青魚がぱくっと俺を飲み込み、ぼしゃんと水中へと没する。
そのまま水底の穴へと潜り込んだ。
こうして、まごうことなき真の旅が始まりを告げたんだ。
でもネビュラさん。あんたスパルタだな。
7日目終わり。
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