新作落語小説「落語家のユメ」
山岡咲美
新作落語小説「落語家のユメ」
「えー、
ここは小さな
「師匠、僕この
「まあ友人ってのが
「は!?、何かい?て言うと
「イヤ師匠、白昼夢どころの話じゃねーんですって」
「その男が言うには落語で話したことが高座に
「例えばね、御客さん、
落語家はふと下に目をやる、まるで
「ズズズっと…音を
落語家はゆっくりと扇子を
「ゴクリ…」
まただ、その落語家は今度は左手で何か小さな
「はあ…」
落語家は割り箸を使い蕎麦でも
「ささくれだ」
落語家は口の中から何かを小さな物を取り出し、座布団の下へと
寄席は小さな笑いに包まれる。
「ねえ、」
「まっ、まあ?そんな変な噺を聞きましてじゃあ…、何かい?…、
「
落語家は座布団から前につんのめる。
「ちょ、ちょと待てオメーさん
師匠は客席に背を向け、
落語家は「フゥー」と息をつく、そして天を見上げ何やらブツブツと
「えー
寄席の
「その落語家が見たものがもし本当なら、もしその場に
客は
「なにね、その話ってーのはただの子供向けの童話なんですが、娘のやつが父ちゃんの落語が聴きたい、寄席に行きたいとか言った事がありまして、
客は落語家の話に入り始める。
「でもね
落語家は
客は「ゴクリ」と
「人魚姫」
落語家が今日の落語の題名を
「えー、皆さんは人魚ってもんを
始まりは今寄席に居る客に合わせ日本の
「ある満月の
落語家は客をおとぎ話へと
「そして海上へと行く末っ子のマリナに14人の姉達が声をかけます」
「まずは一番上の姉が声を掛けました、いいマリナ上に行く時はゆっくりゆっくりよ、体を水圧の変化に
「続いて二番目の姉が言います、マリナもし海が荒れていたら直ぐ
「三番目の姉は警告します、海の上には人間がおります人間には近付かんように」
「四番目の姉が、でもねお舟や陸地に近かなければいいのよ」
「五番目の姉は言います、マリナ人間は泳ぐのがへただ、いざとなったら海に引き込んで
何だか落語家の様子がおかしい、しきりに何かを
「六番目は続けます、そうそう人間なんて恐くはないわ水に落ちたら息も出来ん」
落語家は六番目の姉に足を引かれた、
「すまないが落語の最中だ足を引っ張るのは止めてくれんか、あと尾ひれ目に入りそうだからたのむ」
客はくすくすと笑う、客には一人相撲にしか見えてはいない筈だがそれが面白い。
「ありがとう
落語家は
「無事に帰って来るのよ」
それはその落語家の妻と娘への想いだったのかも知れません。
「もちろんよ姉さん」
「マリナはそう言うと
「海の上はと言うと風は強く吹くものの満月の美しい青の世界が広がっていた様子で」
「風って気持ちいい」
「マリナは初めて触れる空気、風、お月様の光に感動し手を高く高くかざし、もっともっとと体を伸ばし、さらには水を
「…ふっと見ると遠の海の上にお月様とは違う
「船だ」
落語家と人魚の目が合います。
「あ、
落語家はシッシッ手で追い返す。
「マリナは
「マリナが船まで近付いた
「ちょと落語家さん、あそこ人が居る!」
落語家は
「そして風は嵐となりマリナは大きく揺れ始めた船の甲板の人影が心配になり近付きます、その
「おい何やってる御嬢さん!早く助けるんだよ!」
「マリナは突然の事に動揺している、仕方ねーってんで
何だか高座は大混乱に成って来ました。
「いいかい御嬢さん!溺れた人間を助ける時は後ろかだ、必死の人間は何かを
落語家は「ゼイゼイ」と息を
「ま、まあ、そんなこんなで男を助けたマリナはその男を近くの浜辺へと連れていきます、
「人?」
「浜辺近くの道を歩いていた修道女が男に気付き駆け寄るってーと」
「王子様?」
「修道女はその男を王子と呼びました、そして王子は目を覚まします」
「あなは?僕は確か海に、修道女さん貴方が僕を助けて下さったのですか?」
「修道女は浜辺に打ち上げられていた王子を介抱したと言いました」
「王子はその美しい修道女に
落語家は座布団に座り直し客と自身の
そして続きに入る。
「マリナは人魚の国に居てもあの王子の事ばかり考える様に成っていました、心配した姉達が最も
「マリナそれは恋の病だよ、
「その男と結ばれるか、その男を殺すかだ」
「マリナには一つしか選択肢がありませんでした、マリナは王子様の愛を手にする為、地上へ人間の国へと行く決心をし、そして魔女が渡した人と成る魔法の薬を手にマリナは海面を目指します」
「マリナの頭に魔女の言葉が繰り返される」
「良いかいお嬢さんまずはその人間を想う事、想いが無ければこの薬は人魚を人間には変えれない、そしてこれは劇薬だ
「マリナはそんな魔女の言葉すらあの王子様に会う為なら希望の言葉と変わりました、しかし地上でマリナを待ち受けていたのはその思いを打ち砕く絶望でした」
「王子様が結婚?あの修道女は戦争から逃れて来たお姫様?」
「浜辺に打ち上げられていたマリナはあの日の修道女いえ姫君が居た修道院の修道女達に助けられていました」
「声も無く痛みで歩くのも辛そうなマリナを可哀想に思った修道女達が保護して居たのですが、王子と姫君の結婚式の準備がこの小さな修道院、二人が出会った想いでの場所で始まりマリナはその事実を知るのでした」
「私の想いは永遠に叶わないの?ずっとこの胸の痛みに苦しみ続けるの?」
「マリナの希望は絶望へと変わり王子様への想いはその大きさの分だけ苦しみへと変わってしまいました、マリナにとって地上は人間の国は絶望の国に成ってしまったのです」
「マリナ、マリナ、こっちよ、こっちを見て」
「マリナはどうする事も出来ない現実にただただ泣いてた
「マリナ!!!」
「
「
「姉様…
「マリナこれを…」
「姉様髪が!」
「マリナは長く美しい髪を短く切りつめた姉の姿に驚き目を覚まします」
「あれはやっぱり夢だったのかな…」
「次の日の朝の事、マリナはベットで
「マリナよく聞きなさい、
「必ず生きて私達の元へ帰って来て!」
「姉様…」
「マリナはナイフに写った自分を見つめます」
「王子様よ!お姫様もいるわ!」
「修道女達が騒ぎだします、お姫様は
「貴女が泡と成る前に王子を刺しなさい」
「姉達がまるで導くかのようにマリナはナイフを
「君はあの時の人魚だね」
「マリナは驚きを隠せませんでした、王子が私の事を憶えていると、そして押し黙るマリナに、
「あの時は本当にありがとう、
「マリナは思います王子様が
「ありがとう人魚さんでも僕にはその想いに
「王子様は命の恩人が話そうとする言葉を声なき想いを目をすませ、一生懸命理解してくれたのです」
「マリナは
「人魚さん僕には愛する女性が居ます、ここに一緒にきた女性です、修道女としてこの修道院に隠れ住んでいた姫君です、貴女に助けられた
「王子は残酷にも、そして正直にマリナの何故に答えます、マリナは涙と共に真っ直ぐにその話を聞き続けます」
「僕はあの方を、姫を愛しています…だから…僕は貴女の想いに応えることは出来ません」
「マリナは涙を必死に
「正直に答えてくれてありがとう、
「マリナは気付いたのです、たとえ王子様を魔法のナイフで刺したとしてもこの想いは消えない、絶対に消したくない、そして愛する王子様を想い続け王子様を殺した罪の意識に押し潰され泡と消えるのだと…もしそうならばマリナは王子様が生きて幸せになる未来の中消えたいと…」
「王子様、花嫁をおいてこんな所に居てはいけません、疑われてしまうわ」
「マリナは笑顔で精一杯の
「もう良いんですかいお嬢さん?」
落語家は最期に言葉をかける。
「ええ、
落語家は最期の言葉を
「マリナは王子様への想いと、想いでの場所の中で泡と成ります、そして風に乗り天の国へと昇るのでした」
落語家は天を見上げ、そして
「
落語家は高座口に向かって微笑み、やりきった表情で胸を
落語家の
「スゥー」
落語家は一呼吸。
「さてと
落語家は「ニヤリ」
「お
落語家は深々と頭を下げた。
楽しい
新作落語小説「落語家のユメ」 山岡咲美 @sakumi
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