13

―それから一ヵ月後…。


「ありえない…」


白無垢姿にさせられたわたしは、呆然とイスに座っていた。


大きな神社を貸し切り、もうすぐ結婚式が始まる…始まってしまう!


どうする!? 逃げるなら、今かもしれない!


「準備は済んだか?」


…遅かった。


がっくりと項垂れるわたしの目の前に、夫となる男が立った。


「おー、キレイだな。ウエディングドレス姿も楽しみだ」


……ちなみに今日が和式の結婚式で、明日が洋式の結婚式、つまり教会での結婚式だ。


その後、披露宴。目まぐるしくスケジュールは詰められてしまった。


何せ呼ぶ関係者が多過ぎる。結婚式も2回しなければならないほどに…。



普通の女性なら泣いて喜ぶかもしれない。


玉の輿で、しかも白無垢とウエディングドレスの両方を着れるのだから。


でもわたしは切れそうだった。


「…社長、本当に結婚するんですか?」


出会って半年も経っていないのに電撃結婚なんて…春には予想もしていなかった。


「当たり前だろう。ジーさんも喜んで来ているんだぞ」


元課長は仲人として招待している。…おのれタヌキジジイめ。


さすがは社長の父親の親友、喰えない人だ。


「今日から源氏ゆかりだな」


「悪夢です…」


「いい加減、慣れろって」


「諦めろ、ではなく?」


あくまでも不機嫌に言い返すわたしを、旦那様はおもしろうそうにニヤニヤして見ている。


「お前は慣れた方が良い。順応力が高いから、俺好みの女に仕立てやすい」


「なに光源氏みたいなこと、考えているんですか?」


「男の夢、だろう?」


「イヤな夢ですね!」


「まあそう言うな」


わたしの両肩に手を置き、視線を合わせる。


「これからはずっと、俺に付き合ってもらうんだからな」


「…ホント、悪夢のような日々になりそうですね」


「そんなことないさ。今と大して変わらない。変わらないと思っている間に、俺がいなくちゃダメなようになる」


確信に満ちた両目に見つめられると、何も言えなくなってしまう…。


もしかして、もうこの男にしつけられているんだろうか?


「一生お前を放さない。俺から離れられないようにしてやる」


「恐ろしい人…」


「そこがまた、たまらないだろう?」


自信に満ちた声に、今度は反論できなくなってしまう。


ああ、わたしはもう…。


「愛してるぜ、ゆかり」


甘い声でささやき、近付いてくる唇を黙って受け入れる。


唇を通して、軽い痺れが全身に満ちる。


…やっぱりわたしは、


もう、


彼の虜になってしまっている。


自信家で、プライドが高く、オレ様で、身勝手なこの男を、愛してしまっている。


「覚悟しとけ。オレのしつけは厳しいからな」


「…知っていますよ。あなたのことは、全部、分かっていますから」


わたしは両手を伸ばし、彼の背に腕を回した。


「これから…教えてくださいね? わたしの知らないあなたのことを、全部」


「ああ、オレ色に染めてやるよ」


耳元で囁かれた言葉は、まるで悪魔の囁きのように甘い…。




【END】


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現代版 光源氏物語 hosimure @hosimure

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