12

普段は自信に満ちた彼の表情が、今は不安げになっている。


思わずわたしの心も揺れる。


「俺はゆかり、お前のことを愛してる。だからずっと俺の側にいてほしい。これからプライベートでも、ビジネスでも、ずっと俺の側にいろ」


そう言ってわたしの顔を優しく手で包み込み…触れるだけの優しいキスをしてきた。


夕日に照らされる海岸で、キスをしている…。まるでドラマのようなシチュエーション。


心臓がうるさいくらいに高鳴り、顔が夕日に負けないぐらいに赤くなる。


「あっあの、わたし…」


離れた唇の隙を狙って声を出した。このままでは彼にのみ込まれそうだったから…。


「ん?」


「きっ気持ちはとても嬉しいんですけど、わたしの気持ちの方がちょっと追い付かなくて…」


「なら、状況に応じて付いてこれるな?」


「はっ?」


いきなりいつもの自信に満ちた声に驚いて、顔を上げた。


すると彼はニヤッと悪魔の笑顔を浮かべていた!


「来月、結婚しよう。無論、式はちゃんと挙げる。社員全員を呼んでな」


「はあっ!?」


「お前、口でグチグチ言う割には、状況の対応力が凄まじすぎる。何だかんだと秘書課にはもう慣れただろう?」


「そっそれはお仕事ですから…」


「いや、元からの性格だ。だからお前を愛する俺が側にいれば、自然と俺を1人の男として愛するようになるさ」


「どういう理論ですかぁ!」


「まっ、実践してみれば分かるさ。とりあえず、これから1ヶ月は式の準備で忙しくなるから、残業を覚悟しろよ。秘書としての仕事も忙しくなるからな」


「労働基準法に違反しますよ!」


「その分、褒美はたんまりとやるよ」


そう言うと、いきなりわたしを抱き上げた!


「きゃあっ!」


「とりあえず、ホテルの部屋に行こう」


「ええっ!?」


「実はもう部屋を予約してあるんだ。1番良い部屋を取ったからな」


「嬉しくありませんっ! と言うかわたしの気持は!?」


「NOなわけないだろう。キスだって嫌がらなかっただろう」


「そっ…」


それを言われると…。


「だからお前は口で言うより、体で実践した方が良いんだって」


「せっセクハラー! セクハラ上司!」


「夫婦の間じゃ、セクハラなんて言葉は通用しないぞ」


「勝手に話を進めないでください!」


暴れるも体格差や男女の力の差で、彼はびくともしない!


「相変わらず威勢が良いな。まっ、俺の嫁になる女ならこうでなきゃ」


「ちょっ…この、セクハラ大魔神ー!」


わたしの叫びは虚しく、誰もいない海岸に響き渡った…。

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