第二話 王国最強の戦士

「待ちやがれー!このやろー!」


ゴリは、城下町で人が多いにも関わらず、とても身軽に動き回る二人組を追いかけていた。



「まったく、なんて身軽なんだ!ウサギみたいにぴょんぴょん飛び跳ねやがって。俺にも教えろー!」


ゴリは、自身にない技術を扱う二人組に少し嫉妬した。しかし、二人組はそんなことお構いなしに、壁をキックして、屋根へと上がっていった。


「どうする?あの丸太筋肉、俺たちが思っていた以上に厄介な存在だぞ。俺たちの味方になればこの上なく心強いんだがなぁ。」


「無茶を言うな!俺たちが姫さまを襲ったことにとても怒っているに違いない。かといってあれを倒すには少々手こずりそうだ。ここはニンジャらしく、全力で逃げるぞ!」


そう言って一気に加速しようとしたが、下の方でとても大きな音が聞こえたので、振り返るとそこにはゴリが目前にまで迫っていた。


「なっ!?」


ゴリは、振り上げた右手をニンジャに向かっておもいっきり振り下ろした。マサヨシは、間一髪のところでゴリの攻撃をかわした。


「おお、さすがにこれぐらいの不意打ちは避けちゃうのかー。」


ゴリは、久々に強そうな相手と戦えることにウキウキしていた。


「まさか、この高さを一回のジャンプで飛び越えるとは、さっきの音はジャンプする時に地面が割れた音だったんだな。恐ろしいやつだ。」


マサヨシは、今起きた出来事を冷静に考えて、答えを導き出した。


「そうだよ。俺は昔っから筋力がゴリラ以上にあるから、これぐらいの高さなら難なく飛べるんだ。」


ゴリはニヤリと笑い、マサヨシに対して、とてつもなく速い素手での連続攻撃を仕掛けた。マサヨシはその攻撃をかわし続けて、ゴリの顔にキックを食らわせた。ゴリが少しだけ怯んだ隙に、後方へ飛びサブローと合流した。


「マサヨシ!今の動き、俺思い出したぞ!」


「ああ、俺も今思い出した!こいつは2年前のガラサ王国が隣の国と戦争した時に、最前線で死神のような大きな鎌を振って、そこらじゅうに敵の生首を生み出していた化け物じゃないか!」


二人はゴリの強さを思い出し、緊張で額から汗が流れ落ちてきた。


「あの時はガラサの兵隊がどれだけの強さか見にきた時だったな。あの時のことが衝撃的すぎて後から町の人に聞いたら、みんな口を揃えて言ってたよ。わずか15歳にして王国の騎士団長に勝った、王国最強の戦士だってな!」


サブローは固唾かたずを飲んで、笑みを浮かべた。


「まさか、王国最強の戦士が俺たちと同じ思想を掲げていたとはな!こんなにワクワクするのは初めてだぞ!絶対仲間にしてみせる!」


サブローは、今危機的状況にいることよりも、ゴリという戦力が手に入るかもしれないということに喜んでいた。


「あんたらには悪いけど、こっちも事情があるからね。姫さまの戻し方を教えてもらう!」


ゴリは再びサブローとマサヨシに接近し、今度は腰に携えてある二本の剣を取り出し、また連続攻撃を仕掛けた。ニンジャの二人も、背中に携えてある刀を取り出し、応戦した。剣と刀がぶつかるたびに火花が散る。さらに、三人の戦闘スピードが速いため、一秒間に何十回も火花が散り、その様子はまるで線香花火のような火花の散り方だった。


ゴリは、二対一の状況であるにも関わらず、相手に反撃の隙を与えないほどの猛攻を仕掛け続けていた。


「さっさとローラの戻し方を教えた方が、命を無駄にしないで済むぞ!」


ゴリは、ニンジャたちに問いかけた。


「命を無駄にしないって?俺から言わせてみれば、王に支配されたままの状態で生きている方が無駄だと思うけどね!」


サブローが、少しだけ怒りの感情を乗せて言った。その答えにゴリは、何も言い返せず目をそらした。なぜなら、自分も少なからずそう思っていたからである。


その一瞬の隙を逃さずに、サブローは腰に携えた小さなバッグから、ゴルフボールぐらいの大きさの丸いものを取り出し、地面に向けて投げつけた。それが地面に当たると破裂し、中から真っ黒い煙が辺りを埋め尽くした。


「うおっ!?」


ゴリは思わず手で顔をおおった。煙が肺に入り、咳き込む。ゴリはこの煙から抜け出すために、全力で前へと走り出した。数秒走った後に目の前に光が見えた。そこへと飛び出すと、いつものガラサ王国だったが、二人の姿はどこにも見当たらなかった。


「くっそー!取り逃しちまったー!これは本当にまずいなぁ。最悪のケースだ。」


ゴリはイライラした後にすぐに冷静さを取り戻し、状況を把握した。


「それにしても、あの二人組!ロブスターに姿を変えているくせに、逃走の仕方がタコみたいじゃないか!一貫性のないやつだなぁ!今度会ったら説教してやる!」


ゴリは変なところにムカついていた。


「まあ、逃しちまったもんは仕方ないし、酒場に戻るか。」


ゴリは酒場に向かって歩き始めた。


「えぇ!?捕まえられなかったー!?」


ローラ姫は驚き、酒場で大きな声を上げてしまった。


「ええ、すみません。私の力不足です。弁明の余地もありません。」


ゴリはいつもの紳士的な態度に戻り、頭を深く下げた。


「どーするのよ!最大の獲物を逃しちゃって!もう何の手がかりもなくなったじゃない!」


「いえ、まだ情報屋があります。そこにかけてみましょう。」


「うー、まあそこしかないわね。仕方ないわ。あんたは昔っから何かを捕まえるのは苦手だったし、尋問なんて才能のかけらもなかったから、そこはあんまり期待してなかったわ。」


ローラ姫は少しあきれた様子だったが、こうなる事は予想していたのでそれほど怒ってはいなかった。


「それと!この際だから言うけど、その丁寧な言い方、やめてちょうだい!なんかゴリじゃない人と喋ってるみたいで気持ち悪いのよ。」


ローラ姫は、今まで思っていたことを言った。


「...わかった。でも、二人っきりの時だけね。そうじゃないと色々面倒だから。」


ゴリは、少年のような笑顔を見せ、答えた。


「とりあえず、もう少しで情報屋が来るから、それまでゆったりしてよっか。」


ゴリの提案に、ローラはうなずいた。


ゴリが酒場でローラ姫の説教を受けていたら、情報屋が入ってきた。


「おお!マリー!待ってたぞ!」


ゴリはとても俊敏しゅんびんな動きでマリーに近づき、手を握り、ブンブンと上下に振った。


「な、なに?どうしたのよゴリ?あたしなんか約束してたっけ?」


マリーはゴリの異常な行動に戸惑とまどった。


「まあまあ、とにかく座れよ!」


ゴリはマリーの手を引き、自分たちの座っていたテーブルへと案内した。マリーはされるがままに、席に座った。


「というか!あんたなんでこんなところにいるのよ!姫さまの戻し方を探しに行くんじゃないの!?」


「そうなんだよ!今すぐ探したいけど、どこ探せばいいのかわからないし、ローラをロブスターにした奴らには逃げられるし。」


「えっ?ちょっと待って、実行犯と出会ったの?」


マリーは一瞬意味がわからなく、頭の整理をするためにゴリに質問した。


「ええ、そうなのよ。ほんとにゴリはこういう事は苦手で。さっきまで私説教してたのよ。」


その質問をローラ姫が返した。マリーはローラ姫の方を向き、じっと見つめる。そしてそれがローラ姫であることに気づき、目をばっと開き、口を大きく開けて驚いた。


「えええええ!?」


マリーは思わず大きな声を出してしまった。酒場での注目が一気に集まった。マリーはそのことに気づき、身を縮めた。


「な、なんでローラ姫がこんな所にいるのよ!それに私が情報屋やってることがバレちゃったじゃないの!どうしてくれるのよ!」


マリーは小声でゴリに話した。


「大丈夫!ローラはこういう事には寛容なんだ。王様にはなにも言わねーよ。」


「そーゆー問題じゃないでしょ!」


マリーはムッとした表情でゴリに言った。


「まあまあ、今度お酒奢るからさ。許してくれよー。」


マリーは大きなため息をついた。


「まあいいわ。それで、なんの情報が聞きたいわけ?」


「聞きたい情報は二つある。まず一つは、サブローとマサヨシという人物について。この二人はオレがさっき撮り逃した実行犯たちだ。そして、二つ目はここ最近で人型ロブスターみたいな化け物を見たって情報がないか。もしロブスターを見つけたら今度こそアジトの情報を引き出そうと思う。」


ゴリの質問に、マリーは少し考えた。


「それなら二つ合わせて金貨五枚ってところね。」


マリーは情報料として金貨五枚を提案した。この時代の金貨一枚の価値は、人一人が一ヶ月間ずっと遊んでいられるほどの価値だった。

その提案にゴリはなんのためらいもなく金貨五枚を渡した。マリーはニヤリと笑い、それを受け取った。


「物分りが良くて助かるわ。じゃあ早速言うけど、サブローとマサヨシって人たちは、ニンジャと呼ばれるものよ。ニンジャっていうのは暗殺や敵国への潜入とかの陰の仕事をこなすプロみたいなものよ。サブローとマサヨシはその中でも飛び抜けて強かったらしいわ。なんでも二人だけで一つの小隊を全滅させるほどの強さだったらしいわ。」


「あいつら、そんなに強い奴らだったのか。」


ゴリは予想以上の強敵と出会えたことにウキウキしていた。


「でも三年ほど前に自身の国を抜け出しておたずね者になったそうよ。その理由は王様が嫌いだって紙に書いてあったらしいわ。」


「ああ。言ってた。王に支配されたままじゃ生きてる意味ないって。それすごくわかるんだよなー。」


ゴリは眉を八の字にして言った。


「その二人についての情報はこれだけよ。残念だけど今どこにいるかはわからないわ。」


「いいさいいさ、それよりも大事なのは二つ目だからな。」


ゴリは二つ目のことを聞きたくてウズウズしている。


「二つ目の質問についてだけど、実は最近ナバラ山から流れるナバラ川で大きな魚影を確認したっていう噂があってね。現地の人いわく、人間のような手足が生えていたって。ロブスターのようなハサミじゃなかったらしいけど、奴らの仲間である可能性は高いわよ。」


マリーはお酒を飲み干して言った。


「なるほど。つまりナバラ川を探せってこと?」


ゴリは首を傾げて聞いた。


「そういうこと。ナバラ山は昔っから化け物が住んでいるって、子供の頃からよく聞かされたから、もしかしたら誰かの嘘話かもしれないけれど、人が寄り付かなそうなところにアジトがあっても不思議じゃないわ。信用してもいいと思うわ。」


「よーし!じゃあ早速ナバラ川を捜索に行こう!」


ゴリは立ち上がり、酒代を置いて店を出ようとした。


「ええ、いい報告を待ってるわ。」


マリーは手を振り、酒を飲み始めた。そして、二人は馬車に乗り、星と月が出てきた時間帯に、ナバラ川を目指して進み始めた。



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ロブスターなお姫様 たこまき @asimaki

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