第四十話 重なる覚悟

 ——俺は、男から生まれる静かな……有無を言わせない、強い気迫に押されながらも……、言葉を返す。


「……もとに世界をもどす?」


「ああ、……。奴は言ったよ。『スレイトラッド』に存在する……災厄を全て倒せば、世界をもとに、もどすと……」


「奴はとは……?」


「神……、だよ」


「僕は神と契約を交わしたんだ」


 神なんて突然言われた俺は、驚き、言葉の続きが出てこない。


「……それから、僕は、次元の狭間に囚われている。そこで、——魂を削り、僕のコピーを創り、転移させている」


「『スレイトラッド』に。災厄を倒す為に」


 ……なんだ? それ?


 つまり、この男は……自分の世界を取り戻すために、一人で……戦い? コピーを創っていた、という事か?


「そうだよ」


 —— 俺の思考を読んだ?


「元々は君は、僕なんだから、それぐらい分かる」


 男は小さく笑い、


「さて、多少は、理解してくれたみたいだから……、一応……」


 沈黙が間に落ちる。


 …………。


「——聞くよ? 君は、セイは強くなりたい……か?」


 即座に答える。


「ああ、なりたい、——今の俺じゃ、天地が逆さまになっても、災厄には……情けないが、……勝てない」


 俺を真っ直ぐ見返す。

 男は俺の視線を受けとめ、


「そう……、じゃあ、今から渡す……よ。これは、きっかけ、……きっかけさ」


「奴は言った。三回までなら、コピーに力を渡すのを許すと」


「今まで使ったのは一度だけ……。残りの二回を……、君に使おうと思う」


「——スキル『創造』と、『戦闘ナビゲーション』を、あげる」


 男の言葉の、意味が分からず、……カラカラの喉に、ゴクリとツバを無理やり飲み込む。


 ……スキル、なんだ……それは?

 戸惑う俺は見る。


 小刻みに震えだす男を。

 両拳を握りしめ、下を向いている。


 ————


 ——男は、絞り出す様な声で、


 気が狂う。

 息が止まる。

 大事な事が刺さる。

 大切な人が笑う。


 思い出が蘇る。


 命が転がり消える。


 無残にも、偶然にも、必然にも。


 誰も、明日なんか見たことなんか、ないから。


 だけど……


 僕は、


 きっと、それでも信じて、


 ここまで来たんだ。


 ……。


「災厄を……倒して……くれ……ないか……」


「僕では……世界を……取り……戻せない。虫のいい……話だって分かっている」


 男は……上を向き、声を震わして、


 泣いていた。


 声を殺し、泣いていた。


 我慢できずに、流れる涙。


 それが、頬を伝い、音なく落ちて水たまりを作る。


「昔、歌が、……あったな。上を向いても、溢れる涙は……どうすればいいんだ……」


 男は涙を乱暴に腕で拭き取り、赤く腫らした目で俺を見る。


「ははは、ごめんね。久しぶりに声を出して、誰かと……、君と、話しをしたから……、……嬉しかったのかもしれない」


 ——祈り


「一つ、お願いがあるんだ」


 ——ただ、もう一度逢いたい


「いいかな」


 ——のの葉に、


「君に」


 ——それだけが、その想いがあるから、僕が僕でいられた。


「何度も諦めそうになった」


 ——男の涙を見て、俺の気持ちは、決まっていた。


「「全ての災厄を倒してやるよ」倒してくれないか」」


 二人の言葉が重なる。


 男と俺の覚悟が重なる。


「たくよ、お前、俺の元なんだろ? 泣き虫すぎ。しっかりしろや、一応、元勇者なんだろ?」


 俺の言葉に、


「ははは、ごめんごめん。涙腺が、僕は弱くてね、のの葉にせいは、よく泣くなーなんて。……笑われたよ」


 ふわりと笑う男……正。


「ありがとう」


「本当にありがとう」


 赤い腫れた目で笑う正は、


 いきなり拳で俺の胸を貫く。


 ——ぐっ!


 声もあげる暇もない。


 しかし、不思議と痛くはなかった。


「これは、ルール違反にはならない筈。後はナビから聞いて」


 そう笑いながら正は……そのまま、キラキラと輝き……消えていく。


 ——ありがとう、さよなら……さよう、な、ら……たの……む……


 正の声が消えて行く。


 そこにはもう、何もなかった。


 胸を見る。

 傷後もない。


 ……。


 …………。


 ————?


 ————?


 ……おいおい。


 なんだよこれ?


「なにがきっかけだよ……もろ、記憶が入ってきてるじゃねえか」


 頭をガリガリとかいて、さっきまでの俺との違いに、戸惑いながら、


「ナビ! これは、どういう事だ!?」


 ——新しいマスター。初めまして、私は戦闘ナビゲーション、『ナビ』と、お呼びください。戦闘、観測、鑑定、あらゆる部分からマスターをお守り、無双をお手伝いします——


 なんだ? この胡散臭い、ゲーム臭する返しは……


「俺は聞きたいのは、それじゃない。あいつは……、きっかけ? って言ったよな。記憶が殆ど混ざってるじねーか!」


 ——??? 予測、思考……再思考……。前マスターの魂の残りを、マスターに全て渡したのが原因かと。その代わり……——


「ああ、わかってるよ。わかるよ。でもな、知らない記憶が、突然頭に浮かんだから……」


 頭を振って、気分を落ち着かせようと、一度、深呼吸をする。


「はーー、もういい。誰かに文句を言いたかっただけだ。剣術に体術もろもろ……これは、思い出した? でいいのか?」


 ——間違いではありませんが、やはり、きっかけの域をでません。メインはあくまで、思考するのはマスターです——


「そうか、のの葉……リリー、参ったな」


「……重婚はありなのか? ……まあいい……しかし、うーん」


 ——マスター、重婚は過去の日本では犯罪ですが、『スレイトラッド』なら……——


「もういいよ! 冗談だ……」


 まったく、真面目なスキルだ。


「行くぞ、ナビ。この部屋の存在残存時間は?」


 ——ヒトマルサンサンです——


「ここで『創造』で強化は可能か? 脱出と共に、リリーの救出は?」


 ——可能です——


「よし、じゃあ……」


 俺はニヤリと笑う。


「反撃だ」


 ——了解——


「行くぞ……」


 ——劣化版、一種類のみ限定スキル『劣、創造』により、神の血を……創造します——















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