第四十一話 約束と約束

 頭の中に、響くナビの声。

 不快ではない。

 ずっと長い間、この声を聴いて来たような……そんな気がした。


 ——血液中、『0.0000000001』パーセントの神の血を確認、認識。……これを『オーテンシステム』と今後、呼称します。『オーテンシステム』を、スキル『劣、創造』を使用する際の名称とします……——


 流れる言葉。

 以前の俺だったら、さぞかし狼狽うろたえただろうが、……問題ない。


「ナビ? あの災厄の強さはどれぐらいだ?」


 ——現在、戦闘中の災厄はオーガタイプ。レベルは、三百オーバー。心臓を潰そうが死ぬことはなく、頭を潰すか、跡形もなく吹き飛ばせば、討伐できます——


「そうか……、勝てるか?」


 ——『オーテンシステム』始動後、……体内の神血が10パーセント——『ワンオー』まで創造すれば、勝てる計算です——


「その際に、俺の肉体に負荷、もしくはダメージ等は?」


 ——ございません。12パーセント『ワンツー』……まで創造すると、次第にマスターの肉体に負荷がかかり始め、超再生しながらの戦闘になります——


 さらっと怖いことを言ったな……こいつ。


 「つまり? 肉体が吹き飛ぶのか?」


 ——はい。すぐ様、超再生し、戦闘を継続。痛みは、想像を絶すると予想されます……そうなる前に、一撃必殺、一瞬で討伐することを、お勧めします——


「一撃必殺か……、考えておく。まずは、リリーの救出だ」


 ——了解。マスター、準備オーケー。いつでも行けます。残り時間は、サンマルニです——


 約、五分か……目を閉じ、気持ちを落ち着かせて集中する。

 勝てるのか?

 力を手に入れた今でも、嫌、だからこそ分かる。


 ——あの災厄の強さは異常だ。


 一千年生きた『神血の災厄ディザイコル

 リリーの父を殺し、村を破壊した災厄。

 神の手先。


 だけど、


 あいつと、……元俺? と、約束したしな。


 のの葉との再会を。


 しゃーねえな。


「約束なんて大嫌いだけど、約束は守れるなんて、嘘はいいたくねーけど」


 ——勝ってやるよ。


 全てに。


「行くぞ! ナビ!」


 ——了解。『オーテンシステム』始動!! ——


 ジワリと体が熱くなる気がした。


 ——神血創造。『オーナイン、エイト、セブン、シックス、ファイブ、フォー、スリー、ツー、オーワン……——


 熱さが増してくる……。


 ——マスター、神への階段をあがります。神血をさらに創造。『オーテンシステム』問題なし……『ワン、ツー、スリー』このまま、『ワンオー』まで、創造します——


 正直、目から火を噴くとか、髪の毛が逆立ってキラキラ光るとか期待したけど……。

 両手を見るが、変化なし、髪の毛は鏡がないから見えない……。

 オーラも爆発しない。


「……地味だな」


 ——マスター、ご安心ください。ここは、魂……イメージの世界ですので、変化は起きません。……この部屋を出ると、カッコよく目から火を、プフッ! 噴けますよ——


 ん? なんか、バカにされた?


 ——ちなみに、ですが、部屋から出ると同時に、瞬時に肉体と同調。その際、多少体に衝撃が来ますが、大丈夫です。

 そのまま、『オーテンシステム』を維持。災厄を確認後、リリー救出に飛んでください。マスターの肉体のダメージは、前マスターのスキルを使い、回復済みです——


 気のせいか? まあ、いい。


「よし、出るぞ」


 ——リンク、魂との繋がりを切ります。


(さようなら……せい、貴方とすごした長い時を私は、忘れない……必ず、災厄を、……この少し……おバカなマスターと共に、倒します)


 魂の部屋を出ます! ご武運を!!——




 □□□□□□□□□□




 目を開ける。


「——ぐっ」


 全身が溢れ出す力に、飛び跳ねる感覚。

 それを無視して見る。

 災厄に頭を掴まれ、ぶら下がっているリリー。


 ——ドンッッッッ!!!!


 距離にして三十メートル。

 右手に意識を送る。

 イメージは、刀。

 俺の右手に真紅の刀が握られる。


 この間、0.3秒。


 俺は、宙を飛び——リリーを掴む、災厄の腕に、


 ——斬っ!!


 刀を叩き込む。


 ちっ!! 断ち切れねーか。


 腕、半ばまで刀は食い込むが、骨で止まる。

 が、その衝撃でリリーが……災厄の手が開き、落ちる。


 俺は素早くリリーを抱きしめ、——飛ぶ。

 一気に魔の森の外まで。


 ——マスター! あの刀を爆破しでください。多少の時間稼ぎになります!——


「はっ!」


 振り向きもせずに刀を爆破。


 ——ズガッーーーーン!!


 背に当たる爆風。

 アイツは、これぐらいでは、ビクともしないだろうが……足止めぐらいにはなる。


 風を切り飛ぶ。

 もうすぐ、森の外だ。


「う、う、う……ん」


 腕の中から、リリーの気付いた声がする。

 そして、


「だ、誰!? ……セ、イ? 何があったの? その目の色と、髪はどうしたの?」


 驚きの声。

 そりゃ……そうなるよな。

 さっきまで俺は、死にかけていたはずだし。


「あー、まあ、色々あってな。ちょい髪が伸びた」


 鏡がなくても分かる。

 黒かった髪は真っ赤に変わり、腰まで伸びていた。

 紅い陽炎が目から立ち上がっているのを感じる。

 多分、目の色は……燃える様な、さらに真紅……になっているのだろう。


「訳は後だ」


「あれを、災厄を……ぶっ倒すぞ」


 俺は、森を後ろに、地上に着地する。

 そっとリリーを下ろす。


「た、倒す?」


 涙の跡が残る顔をこっちに向けて、聞いてくるリリー。


「ああ」


 優しくリリーの頭を撫でる。


「守るって約束しただろ?」


「今がそのときだ」


 撫でるのをやめ、頭から手を下ろし、


「だから、もう泣くな」


 ゆっくりと、確かめながら……抱きしめる。


「お前が……好きだ」


 ——ボッンッ! と、リリーから音がして体温が上がる。


「す、す、す、す、す、すっ! すっーー!」


 ますます体温が上がるリリー。


「笑っていて欲しんだ」


「これは、俺のわがままだ」


「だから、リリー……お前の事は……」


「死んでも守る」


 リリーから体を離し——


 ナビ! 災厄はどうだ!?


 ——現在、肉体を再生中。両腕の再生、胸に空いた穴は回復済み。ヒトゴの後、ここに来ます——


 オーケー、今は動けないんだな? なら、


「でかい花火を上げてやる」


 俺は右腕を高く天に伸ばす。


「喰らえ」


 空が見えなくなる程の紅い球が生まれる。

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