第二十八話 いっつも空、見上げてるな

 一挙手一投足を見逃さない。

 二人を、戦っているリリーとサイランを、


 ——目で追う。


 鈍い打撃音。

 空に飛ぶリリー。

 生み出される無数の光る玉。

 それが——赤く染まっていく。


「あの赤色……随分と力を込めているな——」と、誰に言うでもなく言葉がでる。


 リリーの周りを守るかのように、赤い光芒を巻き散らしながら飛び回る、流星。

 ギュンギュンとうねりスピードをあげて、


 ——落ちる。


 仁王立ちのサイランは、何度も何回も跳ね返し、防ぐが……多勢に無勢。

 防ぎきれずに一発を食らい、派手な音を立てて視界から消える。


「ありゃー、まだ全然本気だしとらんな……」


 サユが、眉間にしわを寄せて、明らかに不機嫌そうな顔で、わしに問うてくる。


「おい、ゴ、ロ……、団長。あの……ギルマス……サイランは、本当に強いのか? リリーを預けるのに心配になってきた……」


 (あれでは弱すぎではないか、リリーの夢も、人の世界を学ぶ事も大切だが……)


 サユは苛立ちを隠さずに、右手で後頭部を——ガリガリとかき、鋭い視線をリリーとサイランに向ける。


 どこかバツの悪そうな声で、


「ああ……、まあー、様子見じゃろ。あやつはリリーの強さを知らんからな。ん? ホレ、言ったそばから——」


 サイランが立ち上がり、両腕を上げて何かを叫んでいる。

 ん? なんだ? 力が……。

 ここからではよくは見えないが……何かが? 召喚されたようだ。


「あいつはな、ああ見えて……死霊使いなんじゃよ。……なんでも、生まれた時から見えたそうじゃ、死の存在が。その不思議な特異性もあって、知ったのじゃ」


 私は団長を見る。


「自分には妹がいたことをな」


「妹?」


 アゴに手をついて、……続きを話し出す団長を、目を細くして、睨む。


「詳しくは知らんが……遠の昔にこの世を去っていた妹を知り、何をどーしたか……それを呼び出し、そして……憑依させた。元々はそんなつもりは、なかったらしいのじゃが……」


 一旦、口を閉じて——、ひとつ深い呼吸。そして、小さく静かに語り出す。


「世界は残酷じゃ……。死は其処いらにころがっておる。……この世にいない妹さえ利用せんと生き残れん。そんな時があったのじゃろう」


(……知ってるよ、この世界は……)


 何か団長に言い返そうと、口を開く——


 唐突に、爆発音。


 音に驚いて向けた視線の先には——爆炎に包まれているサイラン。

 リリーが爆炎に大きく膨らんだ、赤く光る玉を投げつける。


 凄まじい力を爆炎の中から感じる。


「おい、団長これは……どういうことだ?」


 どこが面白いのか、ニヤリと笑う隣の男は、得意げに話し出す。


「憑依合体。サイランは自身に妹を憑依することで『神血』が二倍になるのじゃ」


(二倍だと……? 聞いたこともないぞ、そんな力は)


「サイランのとっておきじゃ。言わば秘密奥義。使えば必ず勝つ。しかし、その力を引きずり出すリリーも……人をすでに超えとる」


(リリー……)


 私は見届けようと、戦いの場を真っ直ぐに見る。

 男は小さく静かに口から言葉を吐く……


「強いぞ、サイランは」


 サユは、それを……


 巨大な赤く光る玉が、爆炎のなかから伸びる大きな腕に掴まれているのを——


 見た。




 □□□□□□□□□□




(ちょっと! あれ! なに!? 合体? そんなのあり? ずるくない!?)


 目の前で「「憑依合体!!」」と叫んだサイランとサイクンが爆炎に包まれる。


「ちょっとカッコいいしっ! でも!」


 リリーは、かかげた赤い力を……。

 それは、三メートルもある大赤玉。

 力と破壊の塊。

 それを——


(なんか、色々サイランさん! やばい!)


 放つ!


 巨大な赤い玉は全てを破壊せんと唸り、一直線にサイランに——


「ボール遊びはもう飽きて来たね!」


 燃え盛る爆炎のなかからサイランの声。

 と、同時に、着弾するはずの赤玉が——

 爆炎から伸びた腕に掴まれる。


「さーて、第二ラウンドだよ! リリー! 今度はこっちの番だ!」


 それを投げ返す?

 否。

 それを殴り返す!


 ——ガッンッ!


 掴んだ逆の拳で、玉を撃ち抜くサイラン。

 高速で帰ってくる赤い玉をギリギリでリリーは躱し、前を見ると——


(早い!!)


 目の前にサイランが!

 巨体にあるまじき早さで大地を蹴り、風を切り——いまの瞬間に、リリーの眼前に。


「ハッ!」


 サイランの声と共に、繰り出される右ストレートを寸前で躱し、瞬時に左の肘で鳩尾を狙って——地を蹴り狙い飛ぶ。


 が、


 左の掌で受け止められ、


 ——ガシッ!


 腕を両手で掴まれる。


(やばい!)


 リリーは掴んでいるサイランの手から逃げようとその状態で掴んでいる腕に、蹴りを繰り出すが、


 ——バッシーーンッ!


「そんなヘッピリ腰の蹴りが効くもんか!」


(ちょっと! お姉ちゃん! 程々に!)


「わかったわかった。いくよリリー」


 リリーの腕を掴んだままサイランはそのまま、地面に叩きつける。


 一度、二度、三度。


 響き渡る衝突音。


 腕を高く持ち上げて……サイランは手を離し……

 ゆっくりと地面に落ちていくリリー。


 ——ゴウンッ!


 空気が割れるような前蹴りを放つ!


 咄嗟にガードするも、まともに食らい、吹き飛んでいくリリー。

 ために溜めて打ち出された砲弾の如く、何本も、何本もの木々をへし折り、揺らし、折倒し、止まり、


 ——落ちる。


「かはっ」


 地を背に体勢変えて吐く。


「いたたた、最初と違いすぎるよ……お餅じゃないんだから私は」


 しかめっ面をしたリリーは、ゴロンと寝転がる。

 そして、


(なんか、私……いっつも……)


「空、見上げてるな」


 思い出す。


(あの日から……お父さん、忘れてないよ)


「覚悟か……」


(ごめん、サユ姉ちゃん。約束破るよ)


 ゆっくりと立ち上がり、服についた泥や土汚れを払い、両手両足をたらす。

 自然体に構えるリリー。


「この世界を変える」


(大切な人と、一緒に笑って生きていける世界)


「だから決めたんだ。強くなる、それが私の覚悟」


(行こう。サイランが待っている)


「神血の精霊術……」


 軽く、しかし深い息を吸い込むリリー。


「壱の階! 解放!!」


 白い光がリリーを覆う。


 神の血がリリーの力と重なり、世界の理を変える。


 白い光が赤くなり、さらに——真紅変わっていく。

 そして……

 すっと吸い込まれるようにリリーの体に消える紅い光。


「いくよ、サイラン」


 真紅の髪と目。

 リリーは、サイランの元に大地を蹴り上げ一撃を決めんと走る。




















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