最終話

「だがそなたは淡白ゆえか、大神様が見込んだ器か、立派な決断を致してくれました」


「は?お母君様、立派であるならば……大神様であるならば、さっさと皇后に蒼をくれてやっておりましょう?私は今生の代わりに、再びの皇后の願いはきけぬ様にいたしました。皇后が来世を望もうと、決してやりはいたしませぬ。私の生のある限りを、蒼と伴に生きるお許しを頂きましたゆえ……」


「ほっ?」


 お妃様が衵扇あこめおうぎを広げられると、それは見事な鴛鴦が二羽描かれている。


「もはやそなた達は、番いであるか?……なんと抜かりのない事……」


 お妃様はそれはご満足な、笑い声をお立てになられた。


「そなたを内裏に修行にやったは、誤りではなかったようですね?」


「……………」





 お体が弱られておられる皇后様との、吉日の房事はまだ先のご様子だが、今上帝様は事ある毎に皇后様をお側に置かれて、それは仲睦まじくお過ごしであられる。

 中秋の名月ではないが、お二人で月を愛でられる事もしばしばで、雅楽や舞楽などの趣向で皇后様をお慰めになられて、それは仲睦まじいご夫婦をご披露され、皇后様に疑心暗鬼の隙などお与えになられぬ勢いであられる。

 もはや、憂の種をお消しになられ、愛する主上様の御瞳に映るは、皇后様ただお一人であると、神楽の君様は皇后様に一種のご暗示をお掛けになられたから、もはや疑う気鬱はお生まれになられない。

 ただただ目覚められた皇后様は、一身に注がれる夫の愛情を信じて、幸福感に包まれておいでであられる。

 白く色を失っておられたお顔には、幸福の桜色が薄っすらと頰を染めて、その逞しいかいなに抱かれておられる。


 そんな皇后様を甲斐甲斐しくお世話をする、女房上がりの若い女官の姿が、何時も皇后様のお側に在る。

 そしてその女官は、今上帝様がそれは潤んだ御目で見つめられる、妻の御瞳に映し出されるそれは美しい美女の姿を垣間見る。

 その妖しくもお美しいお姿に、只々魅入られる今上帝様の陶酔するお姿を垣間見る。


 不思議な国の不思議な方々の、恋模様は描き始められたばかりだ。




 皇后様ご惑乱…終

 ……もう少しだけお付き合いを……

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