第173話

「そなたが決断いたし、そなたが主上に引導を渡すしかありますまい?それしかは納得いたすまい?はそなたしか……のであるから……さようであろう?」


 神楽の君様は、直視されるお妃様を睨め付けられる。

 お美しい、瓜二つのお顔が其処にある。


「……今生では皇后とを、分け合う事といたしました」


「それよ!」


 お妃様はお閉じの衵扇あこめおうぎをピシャリと、天子様上皇様そして皇后様皇太后様太皇太后様などの三宮様しか、お使いにはなれない繧繝縁うんげんべりの畳の縁を叩かれた。

 お妃様は決して三宮様ではないのだが、後院に赴かれてからは繧繝縁の畳をお使いだ。……と申して、さほどお気に留められるお方ではないから、高麗縁の畳をご用意されていれば、お気になさらず坐されるだろう。

 ただそれを上皇様が、お許しになられないだけだ。


「それはそなたしかできぬ事。到底私にはできませぬ……。さすが我が子……大神様がお気に入りの神よ。らんの血を持つ者が、をできたが不思議……。蒼輝を皇后に少しでも、分けてやれればそれでよいのです。さすが大神様が〝神〟といたした者です。私は鼻が高こうございます」


「見え透いた誉め言葉は、無用になさいませ」


 神楽の君様は、もはや小芝居の相手がと、言わんばかりの態度をお取りになられ、大きなため息すらお吐きになられた。


「何を申す?私は真にそなたに感服しておるのです。私を始めらんのものならば、到底できぬ決断よ」


「は?お母君様とて上皇様に、今上帝をお授けになられる様に、されたではございませぬか?」


「皇太后のみに、決してその機会を与えなんだ。時期に何人かの后妃をお持ち頂いたは、上皇様の御心が一人に行くが許せぬゆえです。しかしながら、上皇様はほんに情の濃いお方でございました。ゆえにもう一年猶予を与えたのです……。私の思いを察せられた上皇様は、他の后妃はもはやお目に入れられず、皇太后に今上帝を授けるが為を勤められた……よいか?朱よ。大概はそういうものなのです。愛するとは、そういうものなのです……決して分かち合うなど、できはいたせぬものなのです」

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