第167話

「私はそなたが愛おしい……。本来ならば此処を出て、そなたは皇后にやるべきだが……」


「何を申されます?私は貴方様のみを、欲しておるのでございます。皇后を欲しておるのではございませぬ」


「そうよ。そなたは私を欲しがる、それも尋常ではない程にだ……」


「そ、それは、貴方様がご淡白ゆえに思われる事……慈しみ合う者達には、至極自然の事にございます」


「さようなのか?」


 神楽の君様は真顔を作られて、今上帝様を再び覗き見られた。


「そうなのか?……ならば余計と此処には居られぬ。私は明朝には屋敷に戻る」


「如何してにございます?私は貴方様を、に閉じ込めてしまいたいのでございます。私の側に置きたいのでございます。共に眠りたいのでございます」


「……それはならぬ。は皇后の居場所だ。私の居るべき場所ではない……そうなのだが、私はそなたを手放す事は、どうしてもできぬ。どうしてもそなたを皇后にやるのは厭だ……ゆえに……ゆえに……私は皇后とそなたを分かち合う事と致した」


「何を?」


 今上帝様は、呆然とされて神楽の君様をご覧になられる。


「よいか?我ららんは、それは独占欲が凄いのだ。お母君は兎に角異常であられるが、他のものと決して分かち合うなどできぬ種族なのだ。ゆえに番いとなったならば、他に気持ちなどいかぬゆえ一夫一婦なのだ。……だが、哀れなる皇后は、どうしても青龍を抱けし御子を産まねばならぬ。その為だけに誕生したものなのだ。そなたの為だけに誕生致した、それは哀れなるものなのだ。そしてそなたは、そんな哀れな皇后に御子を授けねばならぬのだ」


「はっ……我らはのみに、誕生せし者にございまするか?」


 今上帝様は、嘲られる様に笑われる。

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