第166話

 今宵のお兄君様は……?

 今上帝様は不思議とご寝所の御帳台で、重ね合わされる唇を飽くことなく堪能されて、覗き込まれる様になさる神楽の君様の、普段にも増してのお美しさに見惚れられた。

 昨夜の艶やかで激しくお乱れのお姿が、未だに脳裏に焼きつかれて、今宵の美しすぎる清らかなお姿とは相入れないものがおありだ。


「主上よ」


「はい……」


 思わず昨夜の様なお姿を求めてしまわれ、お返事をなされながら、女御神楽の君様のお耳をおかじりになられる。

 すると女御様は、熱く潤んだ瞳をお向けになられて今上帝様を覗かれ、かいなを首に回されてお耳元で囁かれた。


「この女体が好きか?」


「好きでございます」


 きつく抱きしめられると、今上帝様もお耳元で囁かれた。


「そうか……」


 女御様は、気を落とされた様に言われる。


「しかしながら、真の……素の朱様の方が好きにございます。されど……」


「ならば良かった」


 間髪入れずに言われて、それは愛らしい顔容をお向けになられた。


「明朝私は、此処を去る事と致した」


「何を?」


 今上帝様は、唖然とされて見つめられる。


「明日は青月である。そなたが誕生致した日も青月であったとか?ゆえにお母君様は、上皇様を唆されてそなたに蒼輝と云う名をお付け頂いた……だがその裏には、我が鸞の一族がこよなく愛する、青き羽を意味する名を付けて、そなたは鸞が守るべき天子であると誇示致したのだ」


 神楽の君様は、怪訝気に覗かれる今上帝様を、思い切り抱きしめられた。


「青龍は抱かずとも鸞を抱いておると……そして、そなたは鸞族の中でも特別なる我が身を抱いた……名実共である……」


「はい。私は貴方様を抱いて、生きて行きとうございます」


 今上帝様は、神楽の君を直視されて言われる。

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