第162話

「たまには、そなたのを聞きたい」


「……ゆえに、煽るをおやめください!」


「……その物静かな声音を、荒々しくしたい……」


 今上帝様はお顔をよりお近づけになられて、その深く紫色の瞳を見入られた。


「今宵は、お覚悟をなさりませ」


 艶を放つ神楽の君様の、を多分に持った唇が綻んだ。


「どれ程のものか見せてみよ」


 言われた矢先に、今までに聞いた事も無い様なお声を発せられた。 今上帝様はその声に我を忘れて、身をお沈めになられて行かれる。

 甘く淫猥な嬌声が、今上帝様の耳を刺激する。 激しく乱れる女体に絡め取られて、今上帝様は狂うほどに愛するお方をお求めになられる。

 神楽の君様は、それは細く白い肢体を妖しく絡められながら、今上帝様の背にしがみつかれた。


 ……意識が飛ぶ……


 そう思われた瞬間、今上帝様の背の後ろに佇む女の姿を認められた。


「そなた、やはり参ったか?……」


 今上帝様の背に這わされたかいなに、思う存分のお力を込められて、神楽の君様はそのつぶらな瞳に、その女の姿を深々と写し取られた刹那、大きな波が押し寄せられたご様子で身を大きく揺らされた。


「あああ……」


 甘く切ない喘ぎ声を残されて今上帝様にしがみつかれ、そのまま意識を飛ばされた。


 ……に哀れは女の業よ。それより哀れは女の執念よ……


 大きくつぶらな瞳に、女の姿が浮かび上がる。

 神楽の君様はその姿を見つめながら、ゆるりと御瞳をお閉じになられた。



「朱様……朱様?」


 今上帝様が抱きしめられながら、幾度も御名を呼ばれる。

 その声音の、なんと心地良い事よ……。

 思わず、口角をお上げになられて微笑まれた。


「朱様?」


 今上帝様が覗き込まれて、名をお呼びになられる。


「そなたは手慣れた者よの……」


「何を……」


 ご心配顔の今上帝様が、少しお声を荒げられる。


「良かったか?」


 今上帝様は苦笑されて


「よろしゅうございました」


 と言われて赤面された。

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