第156話

 皇太后様は、再三今上帝様にご注進申し上げても、なかなかお聞き届けいただけない処か、何だかんだと言っては、会わせる事をお避けになられる今上帝様に、とうとう業を煮やされて、藤壺の女御様にお会いになられる事とされた。

 

 神楽の君様……もとい藤壺の女御様は、かつて神泉で覗き見られた、今上帝様の気怠る気なるお姿に嫉妬され、ご自分のお気持ちにお気づきになられたが、今朝はそんなお姿を、ご自分がされておいでとはご存知ない。

 脇息に気怠る気におもたれになられて、それは美しくため息をおつきになられて物憂気であられる。

 それもそのはず、昨夜はなかなか今上帝様がお離しくだされずに、それはお互いに熱く溶け入ってしまいそうな時を、お過ごしになられたのだから……。


 藤壺の女御様は、それはそれは気怠る気なため息をお吐きになられる。

 お目に留めて頂いた時からずっと、今上帝様にお召し頂いておられるから、なんの為に此処に来たのか、目的を忘れてしまわれそうだ。

 まっ、お母君様からのご命はこなしておいでだが、琴晴が送り込んだ目的はお果たしではない。……といっても、琴晴の目的はお母君様であられる、お妃様の目的=お二人の恋愛修行なのだが、そんなの知る由も無い琴晴が、皇后様の事をくっ付けて、ただただ上手い事言って送り込んだだけなのだが……。そんな事をツユともお知りになり得ない藤壺の女御様は、なかなか事がおはかどりになられないから、ちょっとお焦りであられる。

 

とても気怠る気にされる、それはお美しい藤壺の女御様を、下働きの女房が見惚れている。

 脇息におもたれの女御様は、フッと視線が合われて身を起こされた。


「……そなた、皇后様の所の?」


「はい……主上様が女官様に申し付けられ、私がこちらに参りました」


「はて?」


 女房の言葉に、女御様はご興味をお持ちになられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る