第155話

 翌日女官神楽の君様は女御様となられて、今上帝様のお側に置かれる事となられた。

 陰陽寮からの氏素性も定かでは無い女官が、今上帝様のお目に留まりそのご寵愛を一身にお受けする……どこかで聞いた話しだ。

 デジャブ……ってヤツじゃ済まされない域と言っていい。

 当然の事ながら今上帝様のご寝所に一番近い、飛香舎ひぎょうしゃが神楽の君様の居所となり、神楽の君様は藤壺の女御様と呼ばれる様におなりになられた。

 原来此処の舎は、弘徽殿こうきでんに次いで、高貴なご身分の后妃様の居所だが、神楽の君様は真はそれはそれは高貴なお方であられるが、なんといっても親王様であられるから、この様な事と相成られようと、身元を明かされる訳にはいかない。それも親王様なのに、女となられておいでという、なんともややこしい事をされておられるから、氏素性が定かでない妖しい女御様となられてしまわれたのである。

 それでも今上帝様としては、高貴なご身分の神楽の君様であられるし、とにかく最もご寵愛されるお方であられるから、最も清涼殿のお側に置いて置かれたい。

 誰が何をご進言致そうとも、ゴリ押しされてしまわれた。

 それを聞かれて、憤慨されるお方がおいでだ。

 今上帝様のお母君様であられる、皇太后様であられる。

 上皇様が、瑞獣の妖しきものに囚われてしまわれてからは、ものを厭われて来られたお方だ。

 事の経緯が余りに酷似しておられるから、それは御憤おいきどおりでおいでで、今上帝様が皇后様以外のものに、御心をお向けになられたは有り難いが、巫女の折もそうであったが、素性が定かでないものが御子様を頂いたとして、高貴な后妃に誕生致せば、捨てられるが落ちだとご存知だから喜べるものではない。


 そして身を縮める程に驚嘆したのは、今上帝様の側近中の側近の晨羅である。

 あの女官を、不細工だと心中思ったのであるから、神楽の君様と知って恥じ入るばかりであるが、もしも気づいていたら命が無かった、などとは知る術もない事だ。

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