第150話

 晨羅は自分にも、言い聞かせる様に言っている。そうは言ったものの、こんな時間にそれもご寝所に召されるは……と思って複雑な感情しか動かない。

 確かにでは、ないかもしれない。

 ただ清涼殿には今上帝様のご寝所である、夜御殿よるのおとどが存在はするが、謁見をされるひの御座おましも存在する。

 そうだそうだ、何もご寝所に招かれるとは限らない。

 主上様にこの女官が見初められた、とは限らぬと晨羅が思う程度の面体だ。

 顔の造作をいろいろ言うのは誠に失礼極まりないが、神楽の君様のを知っている晨羅は、ただただ信じたく無いと切に思っている。

 ご寝所である清涼殿に連れて行くと、主上様は昼御座ひのおましでお待ちになられていた。

 晨羅は内心ホッとする。


「連れてまいりました」


「うん、大義」


 そうお言いになられると、主上様はジッと晨羅を見つめられる。


「はっ?」


「座を外せ」


「はっ?」


 晨羅は小さく首を振って、乳兄弟で気心の知れた主上様を見つめる。


「何だ?」


「あー?いえ……」


「さっさと座を外せ」


 晨羅は致し方なく、長きに渡り知り尽くしていると過信していた、乳兄弟である主上様のお気持ちが解らずに、後退りして昼御座ひのおましの間を後にして、東孫廂ひがしまごひさに座した。

 主上様は晨羅が後退りする姿を見送りながら、女官に御目をお落としになられた。


「如何したご面体でございます?」


「?????」


「御顔は変わられても、御目の色は変えられませぬ」


 主上様は、女官を引き寄せられて言われた。


「どこで解った?目など解らぬはず……顔すら解らぬだっただろう?」


「貴方様であられれば、如何様に化けておいででも解ります」


「さようであるか?晨羅など全く解らなんだぞ」


「晨羅は貴方様に恋い焦がれておりませぬ……もしも解る様であらば、アヤツの命はございませぬ」


 女官神楽の君様は、平然と発せられる熱いお言葉に呆れられた。







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