第148話

 さすがに事に、さほどにご興味のないお方ではあられるが、昨今は皇后様とは夫婦の契りを結ばれ、恋い焦がれてやまぬお兄君様とも、思いをお果たしになられた。

 ゆえに主上様に、ご変化がお現れになられたのだろうか?

 お愛おしいお兄君様が神山に赴かれておいでだ。

 お兄君様に抱かれる遣る瀬無い思いの先を、哀れと思しめの皇后様にお向けになられたが、皇后様は眠られてずっとお目覚めにはなられない。

 そんなこんなのお辛さが、主上様をお変えになられたのか?

 決して皇后様以外のものに、お目をお落としになられぬと思っていたが、主上様の忍耐の緒がお切れになられたか?


 晨羅は致し方なく渋々と、夜分遅いとはいえ主上様のご命だから、あのちょっとな女官を探しに向かった。

 ここ内裏は、天子様の私的な居住区だ。

 妻たる皇后様を始めとして、通常ならば后妃様女官女房といった大勢の女性の園である。

 主上様以外に男子が、軽々しく足を踏み入れてよい区域ではない。

 こんな夜半にフラフラしていれば、女官女房に夜這い目的と思われても致し方ない状況だ。


 今宵はお忍びで幾たびか赴かれど、お会いできぬ神楽の君様に諦めを持たれ、それはご落胆の主上様を思いご寝所までお供して来た。

 そこでなんとも、妙な女官と出会でくわしてしまった。

 皇后様のお為といえども、こんな夜半に手燭をかざして簀子すのこの奥やひさしの奥・殿舎の隅の方を覗き見て、ブツブツと語ったり笑みを浮かべたりと、かなり怖ろしげな女官である。そんな女官を、この怪しげな噂が飛びまくっている時に、探して来いとご命じになられる、今上帝様の辛くお苦しい情緒不安はお察しするが、腕には自信のある晨羅であるが、怨霊などの得体の知れないもの達に敵う気などしやしない、と言うのが本心だ。













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