第147話

 暫し緊張して、晨羅が火が近づくのを凝視する。

 すると、なんと一人の女官が手燭を持って、建物というよりもその先にある何かを喰い入る様に見ながら、時には何かを語り笑みを洩らしてやって来た。


「あっ?」


 驚愕の顔を作ったのは、晨羅ではなくて女官の方だった。


「そなたここで、何をしておる?」


「あー?」


 女官は晨羅を怪しい者と思ったのか、躊躇するように見つめた。

 そして遠くを見る様子を見せたが、誰も居ないと確認して


「怨霊を探しております」


「怨霊?」


「皇后様の元に参りました女官でございます。皇后様のお眠りの原因が怨霊かと?」


「はっ……陰陽寮の者でもあるまいし……」


「……なのでございますが、藁をも掴む思いでございます。私共は疾くお目覚め頂きたいのです」


「くだらぬ不安は致すな。決して主上様は、皇后様をお見捨てにはなられぬ」


「あー……はい……」


 女官神楽の君様は、ずっと先の方をジッと見つめられたが、晨羅に頭を垂れて踵を返して、幾度も振り返りながら歩いて行かれた。


 清涼殿に入ると、主上様がこちらを見て佇んでおられた。


「皇后様付きの女官でございます」


「何を致しておったのだ?」


「怨霊を探しておるとか?」


「怨霊とな?」


 主上様は、クスリとお声を立てられた。


「あの者を召せ」


「はっ?」


「あの者を召して参れ」


「何処に?でございます?」


「何処に?此処に決まっておろう」


「……畏れながら、此処はご寝所にございます……主上様の……」


「ゆえに申しておる」


「いや……」


 晨羅は言葉を失った。

 主上様は、それはお美しいお兄君様をお思いだ。

 皇后様とて神楽の君様程ではないが、可憐で愛らしくあられると聞く。

 それを今話した女官は、美しいとか可憐という言葉には程遠い物がある。

 なぜにお召しになられるのか……。






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